第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.63女優 谷村美月
求められない孤独
Heroes File Vol.63
掲載日:2011/11/11
ある時はゾンビ、ある時は奪われた財宝を持ち主に返す義賊など、バラエティーに富む役を演じる演技派女優の谷村美月さん。10代から女優として活躍し、すでに長いキャリアを持つ彼女だが、役を通して仕事や自分と向き合ってきた心のうちを話してくれた。
Profile
たにむら・みつき 1990年大阪府生まれ。2002年、NHK連続テレビ小説「まんてん」でデビュー。2004年映画『カナリア』で主演し、第20回高崎映画祭最優秀新人女優賞受賞。2011年10月から映画『サルベージ・マイス』が広島県先行公開中。11月11日から舞台「ヴィラ・グランデ青山~返り討ちの日曜日~」に出演する。
初挑戦のアクション映画で華麗に戦う義賊を熱演
21歳にして9年のキャリアを持つ女優、谷村美月さん。幼い頃から演技派として評価され、近年は年に3、4本のペースで映画に出演する売れっ子だ。公開中の映画『サルベージ・マイス』では初のアクションに挑戦。広島を舞台に、谷村さんはだまし取られた財宝を美術館などから盗み、持ち主に返す義賊「サルベージ・マイス」に扮している。裏切った仲間が手を組んだ窃盗団を倒すため、空手の達人の少女と共に戦う物語。谷村さんは舞うような華麗な動きで戦うアクションを披露している。
「アクションという新しいものへの挑戦は、不安と共に非常に楽しみでもありました。中学の時、ダンス部で毎日ジャズをメーンにいろいろなダンスを踊っていたのですが、今回のアクション監督が私のその経験が生きる動きを取り入れてくださったので、それほどつらくはなかったです。共に戦う役の長野じゅりあちゃんは、演技は初めてで空手のキャリアは10年。私は逆に演技経験は長いけれどアクションは初。お互い足りない部分をいい感じで補えたかなと思っています」
オーディションを、受けても受けても採用されず
大阪に生まれ育った谷村さんが女優になったきっかけは、新聞で劇団の子役募集を見た母親が申し込んだことだ。谷村さん自身は、学校生活を犠牲にすることへの不満からやめたい思いも強かった。小学校高学年の時にはモーニング娘。に憧れ応募したこともある。
「あの頃は役者よりもただただアイドルになりたくて。それで身近な存在のモーニング娘。に憧れましたが、残念ながら書類選考で落ちました」(笑)
そして12歳の時、NHKの連続テレビ小説「まんてん」で女優としての本格的なデビューを飾る。この時の演技を見て、我が子ながら何かを感じた母親が、大阪にいながら仕事の拠点を東京の事務所へ移すことを決意。しかし、そこから谷村さんの試練が始まった。
「東京はそんなに甘いところじゃないと言われていましたが、膨大な数のドラマやCMのオーディションを受けたのに、1年ぐらい全く仕事が決まらなくて。大阪に住んでいたのでその都度上京して時間もお金もかけているのに、一つも仕事が決まらないってどうなの? とさすがに気持ちが折れかけていましたね」
そんな暗いトンネルの出口にあったのは、映画『カナリア』での初ヒロイン役。母を亡くし、父のDVに苦しみ、援助交際に走る孤独な少女の役は、それまで仕事で求めてもらえなかった自分と重なった。この14歳での演技が、彼女の女優人生を開くことになる。
共演者の真剣な反応にはそれ以上で返したい
これでだめだったら最後、の気合いで臨んだ映画『カナリア』の熱演で、谷村さんには出演オファーが殺到する。
「『カナリア』は役柄のハードさに加え、しんどかったのは撮影中に親元を離れてスタッフのお宅に寝泊まりしていたこと。それまでの実家が甘い環境だったので、14歳でメンタル面などいろいろと鍛えられ、女優としても一人の女の子としても意識が変わりましたね。ただ、高校進学時はまだ全面的に上京する決心がつかなかった。仕事だけになるような自分がどこか嫌で、東京で仕事を頑張ったら大阪に戻って普通の高校生になる、という二つの生活を持っていたかったんです」
東京と大阪を往復しながら、谷村さんは、ある時はゾンビ、ある時は物理が得意な天才、そして自殺願望のある少女などバラエティーに富んだ役を演じた。そして高校卒業後は全面的に東京で女優生活に入り、一人暮らしを始める。その頃から普通の少女の役が増えるが、昨年公開の映画『おにいちゃんのハナビ』では、自ら坊主頭になって白血病の少女を熱演。
「坊主頭になることは絶対ではないと監督に言われましたが、『やるからには坊主!』となぜか決めていました。そうすることでスタッフや共演の方のリアクションが変わってきたし、相手が真っすぐに向き合ってくれると、自分もそれ以上のもので返そうと頑張れる。また、やはり昨年公開の『海炭市叙景』では、長年の経験で『こう演技したら、こう見える』と計算する『演技の垢(あか)』のようなものを落とせて、ナチュラルでいることを覚えました。20歳の節目に、女優としてゼロ地点からスタートできたのは大きかったです」
マイナスばかりの毎日じゃつまらない
一人暮らしをしながら、女優の仕事をしていくことには困難も多い。でも、生活の基本的なことを覚え、日々たくましくなることで、仕事で壁にぶつかった時の考え方も大きく変わったという。
「以前はプラスもマイナスも全てマイナスに捉えがちでした。でもそれじゃつまらない。今は何事もプラスに考えようと思うし、落ちた時はとことん落ちればあとは上がるだけ、という感覚も分かりました。それにつらい経験は後で絶対演技に生きてくる。だからかえって『つらい経験はラッキー』と思うようになりました。10代は役のほうが自分の経験よりも進み、そこから学ぶことが多かったのですが、このごろようやく役に自分が追いつきました。自分の日々を大切に生きることがいい演技につながると思うので、吸収したことをいい形で出していきたいですね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
保母さんです。 私自身、保育園育ちですが、その時の友人とは今も仲良しですし、現在スポーツ好きなことも、保育園で水泳をはじめとしていろいろやらせてくれたことが大きい。 「三つ子の魂百まで」ではないですが、人間の成長において大切な時期に一緒にいる存在の保母さんっていいな、と思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
初めて読んだマンガの「花より男子」(神尾葉子作)です。 小学生で読みましたが、それまで私はまったくマンガに興味がなかったんです。この作品を先に知った母に薦められて読み始めたのですが、「こんなに小さいマスがたくさんあって、マンガって不思議」と私もはまり、いろいろと読むきっかけになった作品です。 この作者の方のほかの作品「キャットストリート」がドラマ化された時、主役をやらせてもらい、ご縁を感じました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
勝負ミントですね。デビュー作となったNHKのテレビドラマ「まんてん」のオーディションの時、緊張をほぐすためにミントのタブレットをがんがん食べたら合格して。 それ以降、オ-ディションではミントを食べると2次も3次も合格するような気がして、常に食べていたのが習慣になっています。
Infomation
広島先行公開中! 谷村美月さん主演
映画『サルベージ・マイス』
広島の名所10箇所以上で撮影が行なわれたオール広島ロケの映画『サルベージ・マイス』。宝物を本来の持ち主に返すことを生業(なりわい)とした正義の怪盗「サルベージ・マイス」が、私利私欲にまみれた窃盗団と戦う痛快世直しエンタテインメント。「サルベージ・マイス」に扮(ふん)する谷村美月さんは、今作でアクションに初挑戦し、新境地を拓いている。
キャスト/谷村美月、長野じゅりあ、長田成哉、佐藤祐基、宍戸開 他
監督/田崎竜太
公式HP/http://www.mice-movie.jp