第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.79タレント/俳優 藤井 隆
考えの焦点をしぼる
Heroes File Vol.79
掲載日:2012/7/13
共演者への気遣いや優しさが光る、タレントで俳優の藤井隆さん。バラエティー番組やドラマ、映画など幅広く活躍しているが、2012年秋に野田秀樹さん率いるNODA・MAPの舞台への2回目の出演が決まった。前回の野田さんの舞台出演を経て自分のなかで変化したことや、現在の多岐にわたる活動のなかで常に心がけていることなどについて、伺った。
Profile
ふじい・たかし 1972年大阪府生まれ。会社員時代にYSP(吉本新喜劇プロジェクト)のオーディションを受け合格。吉本新喜劇のほかにテレビ、映画、舞台と活動の幅を広げている。2010年の舞台「ザ・キャラクター」に続き、12年9月5日(水)からNODA・MAPの第17回公演「エッグ」(会場:東京芸術劇場 プレイハウス)に出演予定。
稽古での問いを通じ思考が潔く明確になった
ドラマやバラエティー番組などで幅広く活躍する藤井隆さんが、野田秀樹さん率いるNODA・MAPの舞台「エッグ」に2012年の秋出演する。野田さんの舞台への出演は2度目だ。
「野田さんの舞台を初めて見たのは中学時代。意味がまだ分からなくとも、その衝撃と、帰り道での浮遊感は今でも覚えています。だから2年前に呼んで頂いた時は夢のようで。感受性が鈍っていた40歳目前の自分が、稽古と57回の公演の中で、ある時は恐怖におびえ、ある時はおいおい泣き、ある時は大笑い。そんな様々な感情を刺激して頂きました」
前回の稽古で野田さんに時々の考えを問われ続けたことは、藤井さんを大きく変えた。
「物事を考える機会を与えて頂き、どの仕事でも思考の焦点が合いやすくなりました。潔くなったというか。今僕が面白いと思うのはこれだから、こうやりたいなどと明確に言えるようになり、自分のやり方が見えてきた。だから今回、再び声をかけて頂けたことは何よりもうれしいことです」
何げなく入ったお笑い界、周囲との温度差を知る
大阪育ちだが特にはお笑いに興味がなかった藤井さん。商業高校卒業後は薬品会社で経理の仕事に就き、早い段階からやりがいのある仕事にトライさせてもらうという充実した会社員生活を送っていた。
そんなある日、新聞で見かけた吉本興業のオーディションにふらりと出かける。
「正直それほど興味はなかったけれど、履歴書を書く手間もなくカジュアルだったので行ってみようかなと。合格後は土日に講座があり、サークルのようで楽しかったです。僕以外の人は皆お笑いに憧れて入ってきているので熱が高い。発声練習なども真剣にやるとすごく面白いというのは発見でしたね」
当時、新人でもCMやエキストラ、吉本新喜劇の舞台と仕事は多かった。出演を重ねて輝きを増す仲間に感動しても、藤井さんは会社員で平日は吉本の仕事ができない。それでも両方に所属していることが楽しくて二足のわらじを履いていたが、テレビリポーターの仕事をきっかけに会社を退職する。
「吉本に専念してからも順調に仕事があり、先輩のリハーサルを客席で見ては大笑いしたりして毎日が本当に楽しかった。でも徐々に、この世界に憧れて来たみんなと、何となく入った自分との温度差が広がり、もうやれへんなと。同時に、これ以上ここに居るとみんなにいずれ迷惑をかけるだろうと思い、2年で吉本を辞める決心をしました」
餞別(せんべつ)を握り締め、まず兄が滞在するオランダへ旅立つ。が、後悔の波が彼を襲った。
吉本を辞めてすぐに後悔、恵まれていたことに気づく
20代半ばで吉本興業を辞め、兄が滞在するオランダに旅立った藤井隆さん。現地では皿洗いのアルバイトをし、お金が入ると旅行をしていた。
「実は、辞めて1週間で後悔したんです。辞める前日も7本もステージがあり、そんな刺激的な日々がすぐ懐かしくなった。また僕は、台本をもらい、先輩やスタッフからアドバイスをもらい、衣装や照明も工夫してもらうなど多くのサポートを受けて舞台に立っていた。そんな恵まれた状態だったのに、自分の熱の低さを理由に将来を悩み辞めたのは、愚かだったと思い知りました」
辞める時、マネジャーに居所は知らせてと言われていたので、旅先から常に絵はがきを送り、帰国するとお土産を持っていった。そうしたら「ちょうど良かった。明日CM撮りだよ」といきなり復帰することに。
「さすがに戻れないなと思っていたのでびっくりしました。実は大道具などのスタッフとして使ってもらおうと思っていたんです。でもこの幸運に、ある意味覚悟しました。卑屈になるのはやめ、自分の希望よりもしばらくは周囲が僕の可能性を考えて振ってくれる仕事を懸命にやろうと。この時、自分は恵まれているんだと自覚できたことは大きかったですね」
どんな厳しい現場でも笑いや楽しさを見つめたい
ほどなく藤井さんは全国区でブレーク。バラエティー番組やドラマに出演し、活動の幅は拡大。さらに2000年には歌手として出した曲がヒットし、「NHK紅白歌合戦」も経験した。近年は、気遣いができる性格ゆえか司会者としても活躍中だ。
「番組の司会は、やりたいといってできるものではないから本当にラッキー。同時にその怖さも存分に味わっています。ゲストは伝えたい情報があるから出てくださいますが、僕がうまく話を引き出せなければ肝心な話の前に視聴者はチャンネルを変えてしまう。なので最後まで見て頂けるよう、常に責任を感じながらやらせて頂いていますね」
さらに、以前自分がゲストで呼ばれた時に司会者が良くしてくれてうれしかったことを、自分もゲストに実践するように心がけているそうだ。
「そうやって経験の積み重ねを大事にしつつ、1足す1は2というより、4にも5にもなるように自分を変化させ、大きな衝撃を人に与えたいんです。例えば『今シーズンの藤井はこう!』と常に新しいものを打ち出したい。また、僕の仕事は自分が楽しいと感じていないと伝わらないものです。もちろん現場はとても厳しい場所ですが、それでもあえてそこにある面白い点を、見つめ続けていきたいですね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
喫茶店の経営がしたいですね。大阪は喫茶店がすごく多いので、子供の頃から憧れていました。トーストやコーヒーなど、自分の好きなものに囲まれていたいだけかもしれませんが(笑)
人生に影響を与えた本は何ですか?
三浦綾子さんの『氷点』(角川文庫)でしょうか。実はこの話、あまり好きではないんですよ。出てくる人がみんなひどい人で内容も悲惨ですから。でも、自分の気持ちが荒んでいる時に読み、嫌だ嫌だとページをめくりながら、この登場人物たちより自分はまだましだという気分になって慰められています。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
エナジードリンクの「レッドブル」を飲むことです。僕はあまり薬を日頃飲まないんですね。だからこれを最初にアメリカで飲んだときはものすごい身体に効いた気がして、それ以来、気合いを入れたい時はよく飲んでいます。前回の野田秀樹さんの舞台稽古の時にもよく飲みました。なんというか、翼が欲しい時に飲む感じです(笑)
Infomation
9月5日(水)からのNODA・MAP第17回公演「エッグ」に藤井隆さん出演!
NODA・MAPの第17回公演は、大衆の欲望と熱狂がスポーツと音楽のかたちで舞台に出現するという「エッグ」。作・演出の野田秀樹さんがまた新しい演劇に挑戦する。野田さんのラブコールで、今回は音楽家の椎名林檎さんが劇中歌を担当することでも注目が集まっている。
「野田さんは、普段は優しいのに舞台ではものすごい殺気があったり、身体が幾重もの層で覆われているかのような、奥深い方です。そんな野田さんのお芝居にまた出られる喜びを胸に、求められることには精一杯こたえていきたいですね」(藤井隆さん)
「エッグ」
公演/2012年9月5日(水)~10月28日(日)
会場/東京芸術劇場 プレイハウス
作・演出/野田秀樹
音楽/椎名林檎
出演/妻夫木聡、深津絵里、仲村トオル、秋山菜津子、大倉孝二、藤井隆、野田秀樹、橋爪功
問い合わせ/NODA・MAP 03-6802-6681
公式サイト/ http://www.nodamap.com/productions/egg/