第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.96写真家 梅 佳代
褒められて伸びました
Heroes File Vol.96
掲載日:2013/4/5
路上でふざけて寝そべる小学生たち、バナナを頭に乗せたおじいちゃんなど独特の視線で日常を切り取った、ユーモラスな写真を撮り続ける梅佳代さん。そのキュートなキャラクターも魅力的で、老若男女問わず支持されている。どうしたらあのような面白く、楽しい写真が撮れるのだろう。
Profile
うめ・かよ 1981年石川県生まれ。日本写真映像専門学校卒。写真集「うめめ」(2006年)で第32回木村伊兵衛写真賞を受賞。日常を独自の視点で切り取る作品が国内外で高い評価を得ている。その他写真集に「男子」「じいちゃんさま」「ウメップ」など。4月13日(土)~6月23日(日)に東京オペラシティ アートギャラリーにて美術館での初個展を開催予定。また、4月末には最新写真集「のと」を刊行予定。
イチロー選手に会いたくて
どこにでもありそうな、でも私たちがつい見過ごしがちな光景を逃さずシャッターを切る。ユーモラスに、温かく、時にシュールに。日常にはこんなにも面白おかしい一瞬が潜んでいるのだと、梅佳代さんが撮った写真から気づかされる。
25歳の時のファースト写真集「うめめ」は、現在約13万部を売り上げ、写真界の芥川賞と呼ばれる木村伊兵衛写真賞も受賞した。続いて出した写真集「男子」も大ヒット。梅さんは、熱い活躍をみせる若手写真家の一人で、幅広い層からの支持を集めている。
石川県の出身。のどかな農村で祖父母、両親、弟妹に囲まれて育った。
「中学生の頃はイライラしていた気がします。自動販売機すらない環境へのイラ立ちだったと思う(笑)。早く都会へ出たいと思っていたから」
写真を撮り始めたのは高校時代だ。コンパクトカメラや使い捨てカメラで家族や友達を撮っていた。
「自慢になりますが(笑)、構図が誰よりも良かったし、友達もその実力を認めてくれ、うまいと絶賛。それで、ああそうか、カメラマンになれば都会へ出られるし、大好きなイチロー選手か芸能人と会えて、結婚できるかもしれない。そう思って大阪の写真専門学校へ進学しました。今思えば浅はかな理由ですよね」
そこで初めて一眼レフのフィルムカメラを手にした梅さん。シャッターチャンスを逃したくなくて、朝起きた時から夜寝るまでカメラを傍らに置くのが習慣になったという。
「ハッと思った瞬間にシャッターを切る。発見するという感じがして、どんどん楽しくなっていきました」
バイトしながら作品を撮りためる
撮り始めて間もなく、若手の登竜門といわれる公募コンテスト「写真新世紀」で佳作を獲得。連続して受賞し、瞬く間に才能を開花させる。
「荒木経惟さんから賞を頂いたりして、とにかくいろんな人が私の写真をベタ褒めしてくれたんです、立て続けに。それが本当にうれしくてヤッターって調子に乗り、気づいたら今に至っていたという感じです」
卒業すると上京し、ベビー用品のブティックでアルバイトをしながら、写真家としての本格的な活動を開始する。
「バイトは、あえて写真とは関係のない仕事に就きました。バイト先の主婦や運送屋さんたちとの世間話とかが面白くて、とても勉強になりました」
そして、2006年「うめめ」を発表。この写真集が予想以上に売れたので、アルバイトは辞めることにした。
初期作品からの集大成を美術館で
写真家としての活動を始めて、まだ大きな挫折はない。
「というか、自分がスランプだと思った瞬間にスランプは始まるのだと思う。それが嫌なので、落ち込んだり弱気になったりしないと決めている。それは、20歳の時の失恋で学びました。悲しくて落ち込んでも自分が苦しいだけ。だったら落ち込んでも仕方ない、やめようって」
今年4月から6月にかけて、梅さんは美術館での初となる個展を開催する。そのことに対しても一切プレッシャーはないという。むしろワクワクしている。
その個展では、彼女の活動の根幹であるスナップ写真による「シャッターチャンス」シリーズから、写真専門学校時代に小学生たちを撮りためた「男子」シリーズ、10年間、実祖父を撮り続けた「じいちゃんさま」シリーズ、さらに10年ぶりの公開となる初期作品「女子中学生」シリーズなど390余点もの作品を並べる予定だ。
「何万点もの中から、自慢したい作品を選びました。集大成のようなテーマは美術館からの希望だったのですが、ありものばかりだとダサいと思われそうなので、未発表作品だけでなく、新作の「能登」シリーズも展示します」
人が好き。だから愛を注いで撮る
梅さんは、誰を撮る時でも憧れのまなざしが基本だ。
「男子」シリーズも「少年たちはバカすぎて、ワケ分からんところがカッコいいと思った」し、「じいちゃんさま」シリーズは、「あまりにじいちゃんが好き過ぎて、死んでほしくないという思いから撮り始めた。じいちゃんへの尊敬の念がいつも根底にある。今年96歳。元気に生きてくれているのがうれしい」。
「じいちゃんもそうだけど、同じ人を撮っていても、いろんな発見がある。それが自分にとって勉強になっています」
そんな梅さんが最近気になっているのは、思春期。
「特に中学生が面白い。超自意識過剰で、照れ過ぎて怒ったりするでしょ。あのセンスが大好き。思わずニヤけて見てしまいます」
憧れの芸能人を撮影する機会も増えた。第一線で活躍している人は本当にキラキラしている。
「撮っていて楽しいので、ウハウハしちゃう。浮ついた気分になります。あ、でも、キラキラしてない人も気になる。撮りたくなる」
どんな被写体に対しても、おかしみと愛を注ぐ。決して意図的ではなく、あくまで本能的に。だから彼女の写真には人間が求める温かさがある。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
高3の時、一瞬陶芸家になりたかった気がする。でも、イチロー選手に会えないと思い即却下してしまいましたが。
人生に影響を与えた本は何ですか?
さくらももこさんのマンガ「COJI-COJI(コジコジ)」。高校時代に読んで、メルヘンの国に住むコジコジののんきさと気楽さに圧倒されました。コジコジみたいになりたいです。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
縁起担ぎとかし始めたら何かと大変になりそうなので、そういうものは作らないようにしています。
Infomation
「梅佳代展 UMEKAYO」
何げない日常を独自の視点で切り取る写真家・梅佳代さんの、美術館での初個展が開催される。活動の根幹でもある「シャッターチャンス」シリーズをはじめ、「男子」「じいちゃんさま」シリーズ、さらに未発表作品、新作を交えて約390点で構成。会期中には「梅佳代アーティスト・トーク」など関連イベントも開催される。
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(電話03-5353-0756)
日程:2013年4月13日(土)~6月23日(日)
開館時間:午前11時~午後7時(金・土曜は午後8時まで)、入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜、ただし4月30日は開館)
料金:一般1000円、大・高校生800円 中・小学生600円
http://www.operacity.jp/ag/exh151/