Vol.101俳優 小出恵介
物おじせず鬼才と向き合う

Heroes File Vol.101
掲載日：2013/6/21

2005年に俳優デビュー。映画「パッチギ！」、ドラマ「ごくせん」など話題の映画やドラマに立て続けに出演し、一躍注目を浴びた小出恵介さん。蜷川幸雄演出の「から騒ぎ」で初主演を務めて以降は舞台にも相次いで出演。着実に俳優として躍進を遂げている。どんな思いで今、日々の仕事に取り組んでいるのだろう。

Profile

こいで・けいすけ　1984年東京都生まれ。2005年にドラマ「ごくせん」、映画「パッチギ！」に出演し、一躍注目される。2013年7月6日（土）～28日（日）にBunkamuraシアターコクーン（渋谷）にて舞台「盲導犬 ―澁澤龍彦『犬狼都市』より―」に出演予定。また13年10月には舞台「NODA・MAP第18回公演『MIWA』」への出演も控える。

手ごわい作品ほどやりがいを感じる

力強い、光のある目をしている。ドラマや映画など映像作品での活躍も目覚ましいが、ここ数年は舞台にも力を入れている小出さん。

「もともと僕はこだわりが強くて、何でもとことんやりたいという性格。映像も大好きですが、舞台ならではの、妥協しない稽古場の雰囲気とか、本番で何度も同じことを繰り返し更に高みを目指していくという感覚が、自分には合っている気がします」

現在取り組んでいるのは、2013年7月から公演が始まる「盲導犬」。薄暗い新宿の地下を舞台に、底辺を生きながらも、高潔で、不屈の魂を持つ人々を描いた物語である。かつて劇団・櫻社を旗揚げした蜷川幸雄さんのために、唐十郎さんが書き下ろした、まさに演劇界巨匠2人の原点とも言える作品だ。

　「唐さんの戯曲は、猥雑（わいざつ）で混沌（こんとん）とした世界を描いているのに、セリフが詩情にあふれていて美しくはかない。そこに強烈に惹（ひ）かれます」

演じるのは、世の中に対して素直になれず、屈折しているフーテン少年という役柄だ。

「こういう、何かに飢え、欠乏した感じの人間臭い役をやりたかったので本当にうれしい。ただ、演じる上では、一筋縄ではいかないだろうし、俳優としての力量、真価が問われると思う。でも、それだけ手ごわい作品に20代のうちに出合えたことは、俳優として幸せなことです」

遠慮せず体当たりで挑む

鬼才といわれる蜷川さんの作品に出演するのは今回で4度目。最初は2008年の「から騒ぎ」だ。「舞台そのものが初挑戦でした。蜷川さんには厳しくしごかれました。でもその時、自分の中で何かが変わる音がした。手応えみたいなものを確かに感じ取ったような」

思い切って恥をかき、自分をさらけ出してこそ初めて俳優は光ることができると思う。そういうことも蜷川さんに学んだ。「それ以降、芝居において力を出し惜しみすることはなく、ありったけの自分で臨めるようになった気がします」

人としても蜷川さんを尊敬している。「器がとにかく大きい人。厳しいけれど、いつ、何を言われても正しいと思えるというか、ストンと腑に落ちるという感触があるんです」。それほど特別な存在。とは言え、蜷川さんに対して、物おじしたり萎縮したりすることはない。「謙虚な態度を取ったりするとかえって失礼だと思うので」

他の共演者に対しても同じだ。舞台に立てば皆平等。敬意を払う気持ちを忘れてはいけないが、誰と一緒でも対等に向き合う覚悟で本番に臨むことが大事という。それが役者として、責任を全うすることだと捉えている。

就職する前に表現者の道を志す

少年時代はバスケットボールに明け暮れていた。高校2年の頃から映画に興味を持ち、夢中で観（み）るようになった、と小出さん。自主制作にも関わり、映画監督という仕事に強く惹かれていった。

　芸能界の門をたたいたのは大学3年の頃だ。一般的な就職を考えつつも、一方で自分には会社勤めが合わないという気がしていた。

「将来を考えれば考えるほど、映画監督のような表現する仕事に就きたいという気持ちが強くなっていきました。ダメだったら、そこから就職活動を始めればいいやと気楽に考え、まずは少しでも現場に近づこうと思って、オーディション情報誌の誌上オーディションに応募しました」

その掲載を見た今の事務所から声がかかった。

「最初は俳優が目標ではなかったのでアルバイト感覚だったのですが、映画「パッチギ！」に出演したあたりから本気でやっていく覚悟ができました。「パッチギ！」の監督、井筒和幸さんの厳しさに自分なりに必死で立ち向かったことで、演じることに執着が芽生えたというのと、現場がとにかく刺激的だった。そこでものづくりに携わっている大人たちの姿がカッコ良く、魅力的で、こんな人たちと一緒にいたいと素直に思ったんです」

何より、せっかく始めたことだから俳優をガツガツやってみよう。今はそう決めている。

求められる存在であり続けるために

俳優はいろんな人生を疑似体験できる、他の俳優たちと感性をぶつけ合える。それが楽しいし、たまらない魅力だと語る。「この仕事に就き、人間的にも多少は成長できたと思う。若い頃は自意識が強かったのですが、今は変わりました。人から良く思われたいなどとは思わず、自分がどう見られているかも気にせず、透明な気持ちで、映像や舞台の描く世界にスッと溶け込んでいける、そんな役者でありたい」

　幼い頃から変わらないのは、父親譲りの頑固さと母親から受け継いたバイタリティーだと思うという。「俳優は人に選んでもらって始まる仕事。だからこそ、求められる存在であり続けるための努力は怠れない。そういうがむしゃらな面は両親に似ているかも。でも正直よく分からない。人との出会いも大きいと思うし」。今は余計なことは深く考えず、目の前の芝居に集中して突っ走りたい。それが一番にやるべきことと考える。

これまでに挫折と感じた経験はない。というのも、困難に陥ってもそれをつらいとは考えないから。自分の頑張りに酔いしれず、ひたすら前へ進む。その姿勢が次なるステップへと自然につながっていく。

ヒーローへの3つの質問

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか？

おそらく一般企業に就職して働いていたと思います。

人生に影響を与えた本は何ですか？

荒木飛呂彦さんの漫画「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ。人間賛歌がテーマなのですが、人間の描き方がとてもいい。今ハマッています。

あなたの「勝負●●」は何ですか？

特にないです。そういう決まり事はつくらないようにしています。