第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.139ヒップホップアーティスト DJみそしるとMCごはん
流れで、チャンス生かせ
Heroes File Vol.139
掲載日:2015/10/15
「おいしいものは人類の奇跡だ!」がモットー。食いしんぼうヒップホップアーティストこと、DJみそしるとMCごはん(愛称・おみそはん)が今、静かにブレークの兆しを見せている。自信がなくても、好きなことを面白がって頑張れば、それはいつしか形になり、仕事になっていく。誰かが認めてくれる。それをまさに実証しているのがおみそはんだ。
Profile
でぃーじぇーみそしるとえむしーごはん 1989年静岡県生まれ。女子栄養大学卒業。2013年の冬にメジャーデビュー。14年春からNHK Eテレの音楽&料理の番組「ごちそんぐDJ」にレギュラー出演中。最新CDは先月末に発売された、伊勢丹新宿店とのコラボレーションシングル「THIS IS ISETAN UNDERGROUND」。
「ラップでレシピ」は卒論から始まった
緩やかなリズムと愛らしいラップに乗せて料理のレシピを歌い、じわじわと人気沸騰中のアーティストがいる。その名もDJみそしるとMCごはん。2人組のように聞こえるが、そうではなく女性ソロ。「おみそはん」の愛称で親しまれている。
現在、NHK Eテレの音楽&料理の番組「ごちそんぐDJ」をはじめ、ライブの開催、アイドルや食品メーカーへの楽曲提供など各方面で活躍中だ。
小さいころから音楽や絵を描くのが好きだったという。でも芸術系は才能がないとダメかなと思い、女子栄養大学へ進学。
「高校時代、母がポロッとつぶやいた『おいしいものは人類の奇跡だ』という言葉を聞いて食の道に進もうと決めました。お皿の盛り付けやテーブルコーディネートは絵を描くことに似ているし、自分のリズムでテンポ良く料理を作るのは音楽に似ている。食の分野なら自分の中のいろんな『好き』が生かせるかもっていう気もしたんです」
大学では栄養学やフードデザインなどを学ぶ。料理とヒップホップ音楽の融合を思い付いたのは、その集大成となる卒業研究の論文がきっかけだった。
「レシピ本を見ながら作ると調味料の分量を間違えたり、大事な手順を飛ばしたりして失敗しがち。でも、レシピを歌詞で覚えておいて、歌いながら料理すればスムーズにノリノリで作れる! と思い、それを研究のテーマにしたんです。ヒップホップにしたのは、ラップなら言葉が強く響いて耳に残りやすく覚えやすいと思ったからでした」
興味を持ったらまずその場所に飛び込む
ゼミ仲間の協力を得ながら1年かけてアルバムとミュージックビデオを制作し、卒論として提出。担当教授をはじめ周囲の評判は良かった。「それで、妹に勧められるままビデオを動画投稿サイトのユーチューブに公開したんです。そうしたら音楽関係者の目に留まり、デビューにつながりました」
興味を持つと、何はともあれその場所に飛び込む。それがおみそはん流、生き方レシピだ。「学生時代、おしゃれカフェに緊張して入れなくて、だったら中から攻めてみようとアルバイトで入店しました。フードコーディネーターにあこがれた時は、弟子入りしてプロの仕事ぶりを学びました」
メジャーデビューが決まった時も「何だかすごいことが起きてしまった!」と驚いたものの、あまり深刻にとらえず、流れに身を任せてチャンスに飛び込もうと、挑んでいった。
「自分のすべてを出し切って完成させた卒論が、大学の枠を出てより多くの人に見て、聴いてもらえる貴重な機会になる。一度きりの人生なんだし、自分を試すつもりでやってみようと思いました」
1年のOL経験でプロの在り方を学ぶ
料理レシピをラップの歌にする、DJみそしるとMCごはん(愛称・おみそはん)。その曲の面白さは、1曲歌い切ると料理が出来上がるところだ。
「私という人間の根っこを作ってくれたのは母の味というのもあり、基本は誰でも気軽に作れる家庭料理のレシピを歌にしています。テーマの料理を決めたら、調理の試作を繰り返し、作り方が決まったら歌詞を書いて、雰囲気に合わせて曲を制作。歌詞は工程の羅列だけだと面白くないので、自分の気持ちや料理ネタも少々、スパイスとして加えたりしています」
そんな、おみそはん。実は大学卒業後、卸売会社に就職し食器販売の営業をしていた。入社後にデビューが決まり約1年で退職したが、ここでの経験が今の活動に生きているという。
「先輩たちは本当に聞き上手で、お客さんの要望を的確に受け止め、その人にとっての最善策を提案していた。そばで見ているだけで本当に勉強になりました。こういう対応ができなければプロ失格。自分の目線や価値観にとらわれず、人が喜んでくれるものを提供する。その意識、姿勢の大切さを学ぶことができ、就職していて良かったなって思います」
やりたいことを見つけながら進む
おみそはんは純然たる料理家でもラッパーでもなく、その間を行く異色の存在。それだけに最初は同業と言える仲間もライバルもいなくて心細かったという。だが今年4月、自炊の日々を歌った楽曲「ジャスタジスイ」を出したころから気持ちが切り替わった。
「レシピではなく、初めてありのままの自分の内面をつづった曲で、共感してくれる人が多かった。自分の曲でみんなが幸せを感じてくれ、その反応が私の喜びになるという連鎖が何だかステキだなあ、いいなあと思えました。それで覚悟したんです。ああ、私はこの仕事で頑張っていこうって」
その成長ぶりを実感させてくれるのが、新曲の「THIS IS ISETAN UNDERGROUND」である。食ブロガーの平野紗季子さんと共に携わった、伊勢丹新宿店での食イベントに合わせて制作したコラボレーションシングルだ。
「曲を作っている時はほぼ毎日、伊勢丹新宿店に通いました。店内を巡りながら見て食べて感じたものを表現しました。おいしいものを探してデパ地下を駆け回る雰囲気が出せたかなと思っています!」
元々は人前へ出るのが苦手。自信もなく、いつも「私なんかが」と思っていた。でも今は違う。試行錯誤しながら曲を作り、少しずつ前へ進んでいけたらそれでいい。そう思い始めたら、猫背がちだった背筋もピンと伸びるようになった。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
料理の仕事かな。レストランで働いているか、料理研究家のアシスタントになっていた気がします。
人生に影響を与えた本は何ですか?
『上田フサのおそうざい手ほどき』(上田フサ著)。私の通っていた大学で1年生の時に全員が購入する本です。調理の基礎はすべてこの本で学びました。今でもレシピを考える時に参考にしています。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
整体です。ライブの時、リラックスしておなかから声を出したいのでその前に。整体へ行くとめっちゃ幸せ! 気分も体も真っすぐになります。
Infomation
好評発売中!
ニューシングル「THIS IS ISETAN UNDERGROUND」
伊勢丹新宿店とのコラボレーションから生まれた新曲が、2015年9月30日に発売された。食ブロガーの平野紗季子さんが伊勢丹新宿店で行ったイベントのために制作した「THIS IS ISETAN UNDERGROUND」だ。「あたしマネキンじゃないから胃ブクロの中もオシャレしたいわ」という歌詞がとてもキュートで印象的。食欲の秋、心地良いメロディーと楽しい歌詞に誘われて、ついついデパ地下に行きたくなってしまいそう。
●限定盤(伊勢丹オリジナルチェック柄トートバッグ+CD/伊勢丹オンラインストアなどで期間限定販売)3,800円(税込み)。
●通常盤(CDのみ)500円(税込み)。