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第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

Vol.143作家 川上未映子
挫折の果てにある成長

Heroes File Vol.143
掲載日:2015/12/10

川上未映子さんの写真1

真っすぐな、見据えるようなまなざしにドキッとする。美しく、スタイルもセンスも良く、繰り広げるトークも楽しい、芥川賞作家の川上未映子さん。作品もその都度テイストが異なり、意表を突く展開に圧倒される。そんな非の打ちどころのないような川上さんだが、20代は挫折だらけだったという。でもそれがあったからこそ、輝かしい30代を送ることができたと語る。

Profile

かわかみ・みえこ 1976年大阪府生まれ。2007年に早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞し、08年に小説『乳と卵』で芥川賞に輝く。以降、小説や詩、エッセーなどを執筆、中原中也賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、高見順賞、谷崎潤一郎賞など各賞を獲得する。2015年10月に4年ぶりの長編小説『あこがれ』が発売された。

大人の今こそ感じたい「12歳の自分」

2015年10月、4年ぶりに長編小説『あこがれ』を刊行した。

主人公の麦彦と、ヘガティーは小学校の同級生。それぞれに「あこがれ」の対象に心を膨らませ、互いに励まし合いながら必死に生きていく。その姿が切なくも温かく感じられ、じんわりと大切なものが伝わってくるような物語だ。

「大人になると、世界や社会についてのさまざまを言語化することに慣れてゆきます。でも子供は違う。心に込み上げてきたものを言語化できず、ただ刺激として感覚を残していくだけ。その感覚との応酬から巣立つ、12歳のころの一瞬のきらめきを描きたかったのかもしれません」

39歳の自分が12歳の視点に潜り込むことで、どんな表現が出てくるか。それが小説家として一つのチャレンジでもあったと語る。「ノスタルジーとしてではなく、自分の中に今も残る『12歳』を、読んだ人が感じ取ってくれたらうれしいです」

ほとばしるように飛び出す言葉の数々と意表を突くストーリーで、多くの読者を魅了し続けている川上さん。だが、幼いころから小説家になろうと思っていたわけではなかったという。

とことんやり抜けば夢破れても悔いはない

川上未映子さんの写真2

「早く自立して働かないといけない状況だったので、高校を出てすぐ歯科助手、コンビニ店員、書店員など、かけもちでいろんなアルバイトをしました」

その傍ら続けていたのがバンド活動。「純粋に歌が好きで、楽しかったので」と言うが、やがてスカウトされるほどで、23歳でレコード会社と契約することになる。「上京する時、ようやく自分のために時間が使えるんだという解放感が大きかったのを覚えています」

26歳で歌手としてメジャーデビュー。「でも、全然売れなかったんです。その時々にできることは一生懸命やってきたつもりだったんですが、ずっと同じ場所で足踏みしているような感覚で。自分のやりたいことと、実力の差にもうまく対応できなかったし、自分のビジョンをうまく周囲に伝える能力もなかった。とても難しかったです」

5年経ち、契約が終了することに。最後に自分が納得できる作品を残したいと、好きなミュージシャンたちとアルバムを制作した。

「このことは今のわたしの大きな支えになっています。それと、歌手時代の数々の困難はわたしを人としてすごく成長させてくれました。自分がいいと思うものを人に伝えるにはどうすればいいかを必死で考えた5年間でもありましたし。あの期間なくして小説を書き始めていたら、それこそ思いが全面に出過ぎて客観性のない文章しか書けず、大変だったと思います」

「文学」という新たな道へ

20代前半はアルバイト、後半は歌手活動に全力を注いだ川上さん。その過程で、新たに自身が進むべき道として選んだのが詩の世界だった。

「言葉は一人で書くことができます。それがとても素晴らしいことに思えました。書き始めると、止まらなかった。わたしには言葉があったんだという喜びと、これで本当の最後かもしれないという気持ちで書いたのが、『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』でした。これを雑誌『ユリイカ』の編集者が読んでくれて、『すごくいい』と言ってくれた。その言葉は今でも忘れられません。これだと思える作品が、やっと誰かに届いたという感触がありました」

この詩が、ある編集者の目に留まり、「小説を書いてほしい」と依頼される。小説執筆の経験はなかったが、思い切ってチャレンジし、『わたくし率 イン 歯ー、または世界』を完成させた。同作は芥川賞候補作となり、更に翌年発表の『乳と卵』で同賞を受賞することとなる。

「30代になってようやく一生かけて取り組むべきものに出会えた気がしました。ただ、それ以上に一作書き終えるとその度に欲が出るというか、ここがうまくいかなかったなとかいろいろ反省点が浮かび上がってきて、次回作でそれらをクリアしたくなる。前作を超えるものが書きたくてしょうがなくなるというか、それをひたすら繰り返しながら今に至っているというのが実感です」

小説家としての幹を太く

川上未映子さんの写真3

これまでの人生で、モチベーションが切れたことはないという。常に課題が目の前にあって、懸命に取り組んできたから。「今はそれが小説。小説を書くことが、生きることとますます一体化しているのを感じます。何よりこれだけ夢中なので、小説のほうも、わたしから離れないでいてくれればいいなと思っているんですけど」

長編を書く時は毎回苦しくてしんどい。気負いもあって極度の緊張感の中で書き続けるので体調を壊すこともしばしばだそうだ。ところが、2015年10月に発売された長編小説『あこがれ』だけは違った。

「書き進めるのが楽しくて、逆に後ろめたかった(笑)。小説の面白さは、書き手がどれだけ苦しむかに比例していると思っているところもあったのかな。でも『あこがれ』の読者の感想に『川上さんの小説を読んで初めて幸せになれた』とあって、照れつつもそういうのもうれしいなって。ああ、こういう作品を書いてもいいのかな、という新たな発見にもなりました」

現在3歳の息子の母でもある。子育ては当分続くが、さまざまな小説を書き続けることで、小説家としての幹を太くしていくこともおろそかにしたくない。「そう遠くないうちに、うんと長い小説を書きたいです」

ヒーローへの3つの質問

川上未映子さんの写真4

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

想像できないけど、百貨店の外商とか?(笑)

人生に影響を与えた本は何ですか?

永井均さんの著書『「魂」に対する態度』。20歳のころに読みました。言葉や、自分の存在や、世界について考える方法を教えてくれました。哲学書。わたしを「言葉」「文学」という戦場へ最初に誘ってくれた貴重な一冊です。

あなたの「勝負●●」は何ですか?

特にないのですが、時々大きな買い物をします。

Infomation

4年ぶりの長編小説『あこがれ』が2015年10月に発売

「みんな遠くへ行ってしまう。本当の自分を知っているのにね——」。麦彦と、ヘガティーと呼ばれる女の子は小学校の同級生。サンドイッチ売り場の奇妙な女性、まだ見ぬ家族……。それぞれに「あこがれ」の対象を持つ2人は、複雑な家庭環境や過去に揺さぶられながらも互いを思いやり、懸命に支え合い、ゆっくりと成長していく。きっと誰の中にも麦彦やヘガティーがいる。そんなことを感じた瞬間、温かな気持ちにさせてくれる傑作。大人にも子供にも読んでほしい。
出版社:新潮社
定価:1,500円(税別)

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