第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.164シンガー・ソングライター 竹原ピストル
一人は自由だが、その限界にも気づいた
Heroes File Vol.164
掲載日:2017/4/6
最近はCMソングでもおなじみとなったシンガー・ソングライター、竹原ピストルさん。弾き語りツアーで全国行脚など、精力的に音楽活動を続ける一方出演した映画では演技が高く評価されキネマ旬報ベスト・テン助演男優賞を受賞するなど俳優としても注目されている。そんな竹原さんに音楽について、そして映画での出会いなどについて聞いてみた。
Profile
たけはら・ぴすとる/1976年千葉県生まれ。2003年にフォーク・ロック・バンド、野狐禅(やこぜん)でメジャーデビュー。09年解散、以後ソロ。17年4月5日にニューアルバム「PEACE OUT」をリリース、21日(金)に出演映画『永い言い訳』のブルーレイ&DVDが発売予定。
大手生命保険会社のテレビCMで流れる曲「よー、そこの若いの」の歌声でおなじみの竹原さん。年間250本以上のライブを敢行するシンガー・ソングライターであり、俳優としても活躍。昨秋公開の映画『永い言い訳』では助演男優賞を受賞するなど、その演技力が高く評価された。その『永い言い訳』がブルーレイ&DVDとなり、2017年4月21日(金)に発売される。
「主演の本木雅弘さんはスパッとした裏表のない人。撮影中は何かと気遣ってくださり、歌うたいとしての自分にも自信を持たせてくれました。西川美和監督はすべてを察し、腑(ふ)に落ちるアドバイスをしてくれ、僕は言われたことにただ一生懸命取り組んで、限界まで力を振り絞ったという感じです。多くの人が身に覚えのある痛みや切なさ、優しさに満ちた映画で、ポツンと一人で見るのにおすすめですね」
中学のころ、長渕剛やザ・ブルーハーツ、尾崎豊といった、しっかりと自分の歌を歌う人に強くあこがれ、高校に入ってから本気でプロを志した。しかし高校で始めたボクシングで思いがけず体育推薦が決まり、北海道の大学へ進学。ボクシング部では主将を務め、全日本選手権に2度出場した。「ボクシングは主体的にしたいことではなかったので、4年の大会でスッパリと引退。未練はなかったけど、いざ辞めると今度は何も目標がなくなって、就職もせず札幌でグダグダとその日暮らしをしてました」
こんな生活をしていたらダメだ、何かに夢中になり、情熱を燃やしてこそ人生ではないか。そう考え、頭に浮かんだのがプロミュージシャンになるという夢。思い付いたら行動は早い。すぐに大学の友人とフォーク・ロック・バンド野狐禅(やこぜん)を結成し、1999年から音楽活動を開始。北海道のライブハウスを回り始め、1年半ほど経ったころ、現在所属する事務所と出合い、2003年にメジャーデビューする。
「当時は何となく地に足がついていない感じでした。スタッフの動きがイマイチ分からなくて。いっそのこと全部自分たちでやったらどうかと思い、07年に事務所を出ました。そして2年後にはバンドも解散し、完全に一人になって自分で宣伝やレコーディング、ライブのブッキングをやってみたら、ものすごく大変でした。それでようやく、あの人が宣伝してくれたからCDが売れ、ライブの手配をしてくれる人がいたからツアーができたんだと気づいた」
確かに一人なら自由に動ける。でも同時に限界もある。さらに上を目指すには人の協力が大事。それに気づいた竹原さんは14年、元の事務所に再び所属させてもらった。
いつも自分を客観視して前へ進む
竹原さんがフォーク・ロック・バンド野狐禅を解散したのは、歌いたい歌に変化があったからだという。「野狐禅では、夢に向かって生きるのが人生でしょっていう歌が多かった。でも年を重ね、自分の人生にも結婚などいろいろなことが起きてくると、一概にそうとも限らないなと思うようになったんです。バンドの方向性と距離ができ、精神的にも追い込まれるほど悩んで、話し合って解散を決めました」
そして完全に一人で音楽活動をしていた時、大きな転機となる出来事があった。お笑い芸人の松本人志さんから、自身が監督する映画『さや侍』への出演オファーが来たのだ。「自分の思い描いた設計図通りの活動はしていたけれど、これがいつまで続くんだろうと途方にも暮れていた時期。『さや侍』に使っていただき、見てくれている人がいるという強い肯定感と安心感につながって、ミュージシャンとして飛躍するうえで間違いなく大きな一手になりました」
事実、映画公開以降、ライブの観客は増えた。そんな竹原さんのライブスケジュールはすさまじい。今なお精力的に日本中でライブ活動を続けている。「ライブはうまくいけばこの上ない喜びがあるし、つまらなそうな顔をされると一刻も早くどこかへ消え去りたくなるくらいへこむ。でもその直撃してくる喜怒哀楽は何度味わっても楽しいし、怖いし、飽きない。聴いてくれる人の反応があまりにもダイレクトなところに中毒性があるんでしょうね」
竹原さんの曲にはびっしりと言葉が詰まっていて、そこから熱い思いやメッセージがほとばしっている。じっとしてはいられない気持ちにさせられる歌だが、「そう思わせないものも作りたいのですが、ついむき出しの感情を表現してしまいたくなるんでしょうね」と苦笑い。
出演して高い評価を受けた映画『永い言い訳』でも、直情型で真っすぐな男を演じた。そのせいか、役のイメージと竹原さん自身がダブるかも知れない。ところが意外にも理詰めで物事を突き詰めるタイプだ。デビュー前から、できるだけ自分を客観視することを大切にしてきたという。「事務所に支えられている時も一人で活動していた時も、自分をこいつと称し、『こいつ、まだ続ける価値があるのか』とかなり辛口に、冷静に、他人として採点し続けてきました。どんなに悲惨な状況でも『こいつ、まだいける』と思えたから今に至っているんです」
諦めることは情けないことではない。ダメだと思ったら次の道を探せばいい。そういう潔さが竹原さんの歌の根底にはある。だから力強く人の心を打つのだろう。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
もし、なれるんだったら芸人さん。幼いころから人を笑わせるのが好きだったので。人生をやり直せるなら、少年時代から目標を芸人に特化して生きていきたいぐらいです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
太宰治の『人間失格』。大学卒業直後、何をしたいのかも分からず志もないままグダグダ暮らしていた時、本屋でこの本のタイトルを目にして「俺じゃないか」と。思わず買いました。いざ読んでみたら、ここで描かれている人の痛みがすごく分かるし、好きだなと思えたんです。同時に本って素晴らしいなと感動し、それからはいろんな本を読むようになりました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
スポーツ用品メーカーのアディダスです。映画『さや侍』の撮影中、ずっと監督の松本人志さんがアディダスのジャージなど、いろいろなアイテムを身に着けていた。なんかいいなと思って、僕もステージに上がる際は必ずアディダスのスニーカーを履くようになりました。ちなみに外国のヒップホップグループRun-D.M.C.の「My Adidas」という曲に引っ掛け、松本さんへのオマージュとして作ったのが「俺のアディダス ~人としての志~」という曲です。
Infomation
出演映画『永い言い訳』
のブルーレイ&DVD発売
2016年10月14日に公開されヒットした映画『永い言い訳』。そのブルーレイ&DVDが17年4月21日に発売される。本作は『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』などの西川美和監督が、直木賞候補にも挙がった自著を映画化。西川監督史上、かつてないほどの優しさと希望に満ちた感動作として称賛されている。また、本木雅弘さんが『おくりびと』以来、7年ぶりに主演を務めたことでも注目を浴びた。竹原ピストルさんも重要な役柄で出演し、見事な演技を見せて、第90回キネマ旬報ベスト・テン助演男優賞、第40回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。その実力ある演技と感動の物語をぜひブルーレイ&DVDで。
発売・販売元:バンダイビジュアル
ブルーレイ 5,200円(税別)
DVD 3,800円(税別)
公式サイト
http://nagai-iiwake.com/
http://nagaiiiwake.
tumblr.com/
ニューアルバム
「PEACE OUT」発売中!
「今までで一番の自信作」と竹原さん自身も手応えを感じているニューアルバムCD「PEACE OUT」が2017年4月5日にリリースされた。「Forever Young」など13曲入りで、初回限定盤には東京キネマ倶楽部で行った弾き語りライブの映像8曲を収めたDVDも付く。
初回限定盤 3,300円(税別)
通常盤 2,900円(税別)