第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.172女優 栗山千明
無知を武器にして未知の世界へ飛び込む
Heroes File Vol.172
掲載日:2017/9/7
クールビューティーという形容がまさにぴったり。その美しさと凜(りん)とした存在感で多くの人を魅了し続ける女優・栗山千明さん。10代でクエンティン・タランティーノ監督に大抜擢(ばってき)されハリウッドデビューも果たしているにもかかわらず、実際の彼女は実に謙虚。何しろ今までに自分から「この作品に出たい」と言ったことがないという。そんな栗山さんの仕事観とは!?
Profile
くりやま・ちあき/1984年生まれ。幼少時から芸能活動を始め、99年に映画『死国』で女優デビュー。2017年9月15日(金)〜29日(金)にシアタークリエ(東京・日比谷)にて上演される舞台「ミッドナイト・イン・バリ ~史上最悪の結婚前夜~」(脚本:岡田惠和、演出:深川栄洋)に出演予定。
長い黒髪に大きな瞳。クールビューティーと称され、シリアスなドラマからコメディーまで幅広く演じている女優・栗山千明さん。主演する舞台「ミッドナイト・イン・バリ ~史上最悪の結婚前夜~」が、2017年9月15日(金)からシアタークリエ(東京・日比谷)で上演される。
「結婚前夜、バリを舞台に男女4人が本音の毒舌バトルを繰り広げるラブコメディ―です。私が演じる幸子は、感情豊かで思ったことは何でも口に出してしまうんですが、それはほかの人には分からない彼女だけの劣等感を抱えているから。でもそういう劣等感って誰にでもある。だから、お客さんにもそこに共感してもらえるよう演じたいなと思っています」
話していると芝居が好きなのが伝わってくる。しかし栗山さんは、最初から女優を目指したわけではなかった。子供番組に出たくて5歳で芸能事務所へ入り、14歳までティーン誌のファッションモデルをしていた。当時あこがれていたのはスーパーモデル。だが、身長が162cmで止まってしまい、夢は諦めることに。
「まだ子供でしたが、それなりに挫折感を味わいました。そして、このまま私はティーン誌のモデルを続けるのかなと思ったりしていた矢先、『死国』という映画への出演が決まったんです。撮影を経験し、映画って面白い、長くやってみたいと思いました」
翌年、深作欣二監督の映画『バトル・ロワイアル』に出演し、それを見たクエンティン・タランティーノ監督からオファーがあって映画『キル・ビル Vol.1』にも出演。10代で日米を代表する監督の目にとまったわけだ。
15歳の時、故郷から東京へ拠点を移している。それが栗山さんにとって「女優を長く続ける」という覚悟だった。「驚くほど不安もためらいもありませんでした」。『キル・ビル』の撮影で3カ月間、ロサンゼルスに居た時も同じ。アパートで一人暮らしをし、英語も話せなかったが、「海外生活ができてラッキー」ぐらいの気持ちで、怖さなどまったくなかったそうだ。
「ただ『キル・ビル』の撮影現場では人種や文化の違いを感じたし、仕事のやり方も日本と異なって戸惑うことが多かった。でもお陰で臨機応変さなどいろいろ吸収できました。今だったら治安や英語力を懸念し、萎縮もしてしまうだろうから、あの時行って本当に良かった」
若さ、そして無知だからこそ無防備に、大胆に大きなチャンスに向かっていける。しかも多くの学びも吸収できる。したいことが見つからない時、目の前のチャンスに身を任せ、思い切って飛び込んでみるのも良さそうだ。
好きなことだけじゃ好きな仕事は続かない
ドラマや映画に数多く出演している栗山さんだが、舞台は今回主演する「ミッドナイト・イン・バリ ~史上最悪の結婚前夜~」が4本目。前の3本はいずれも故蜷川幸雄さんの演出で、稽古中の厳しさで知られた蜷川さんが、栗山さんには「舞台を嫌いにならないで、楽しんで」と優しい言葉を掛けてくれたという。
「私の初舞台は24歳、08年の『道元の冒険』でした。大勢のお客さんの前で芝居をするなんて私には絶対無理と思っていたのですが、蜷川さんはじめ共演者の方々のお陰もあってやり切ることができました。役者としての技術うんぬんは分からないですが、『とにかくやり切った』という事実は、普段から自信のない私には大きな糧になりましたね。この舞台によって成長できた気がします」
女優になって18年。これまでに生真面目な役から一風変わった役まで実にさまざまな人物を演じてきた。それによって自分とは違う人間を疑似体験したり、普通は行けない場所へ行けたり、知らないことを知ることができたりするのが楽しいし、女優という仕事の面白さだと語る。
「ただ、今でも役作りには毎回苦しみます。どの役にも正解があるわけではないし、特にリアルな役だと本当にこれでいいのかと悩まされることが多いんです」
そんな中で心掛けているのは、役者たちがかかわる前からその作品に取り組んでいるプロデューサーや監督、演出家、スタッフたちに満足してもらえるよう、自分の務めをしっかりと果たすことだという。
「その人たちに納得してもらえる芝居をしたいと常に思っています。『ミッドナイト・イン・バリ』なら、岡田惠和さんの脚本の面白さをしっかりと見る人に届けたいし、演出の深川栄洋さんが望む芝居を舞台上で実現したい」
女優になってから一度も、「こういう作品に出たい」と言ったこともなければ、自分で仕事を選んだこともない。それは「特に役者は、相手に求めてもらって初めて成立する仕事」だと思っているからだ。
「だから好きなことをしているというより、常に課題をクリアしながら前に進んでいる感じです。たぶん、好きなことだけをやっていたら長く続けることはできない。つらいことも逃げたくなることもやることで、人から必要とされる女優として居られるんだと思う」
行き詰まった時はいったん気持ちをオフにし、大好きなアニメを見たり、大好物の貝類を食べたりする。気が済んだところでオンに。「そうすると吹っ切れて、仕事も勢いづくんです」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
これといった才能があるわけではないのでほかにできることがあるとは思えないのですが、あえて上げるなら好きなアニメにかかわる仕事がしたいですね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
作家・舞城王太郎さんの小説『煙か土か食い物』です。高校生の頃、本屋で蛇柄のブックカバーに驚き、そのまま買って読みました。それまではライトノベルしか読まなかったのですが、その本をきっかけに積極的に小説も読むようになりました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
余裕のある時においしい物を食べて、「よし、明日から頑張るぞ」とテンションを上げることは多いですね。好きな物は貝類。サザエとかツブ貝をお刺し身で食べることができればサイコーです。
Infomation
舞台「ミッドナイト・イン・バリ ~史上最悪の結婚前夜~」に出演!
数々のヒットドラマを生み出し、現在はNHK連続テレビ小説「ひよっこ」を執筆している脚本家・岡田惠和がオリジナル戯曲を手掛け、『神様のカルテ』などで知られる映画監督・深川栄洋が初の舞台演出に挑戦する「ミッドナイト・イン・バリ ~史上最悪の結婚前夜~」。出演者として栗山千明、溝端淳平、浅田美代子、中村雅俊というバラエティー豊かな俳優が集結。「丁々発止の毒舌バトルも面白いし、バリのコテージ内のセットやバンドによる生演奏も楽しんでもらえると思います。普段あまり舞台を見ない方にもお薦めです」と栗山さん。
日程:2017年9月15日(金)~29日(金)
会場:シアタークリエ(東京・日比谷)
問い合わせ先:東宝テレザーブ(電話03-3201-7777)
http://www.tohostage.com/
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