第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.173脚本家 古沢良太
なりたい「何者か」へ迷いはあれど向かう
Heroes File Vol.173
掲載日:2017/10/19
ドラマや映画の世界でヒットメーカーの脚本家として活躍する古沢良太さん。オリジナル脚本の作品も好評で、今回はその新作映画も公開される。しかし、ここにたどり着くまでには苦難の日々があった。揺れる気持ちを抱えて焦っていた20代。賞を得てすぐに立ちはだかった急な上り坂。それを乗り越え、古沢さんはどう成長してきたのか。その道のりを語っていただいた。
Profile
こさわ・りょうた/1973年神奈川県生まれ。東海大学卒業。2002年デビュー。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ドラマ「デート〜恋とはどんなものかしら〜」などヒット作多数。17年10月21日(土)から映画『ミックス。』が公開予定。
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズやドラマ「リーガルハイ」など、数々の人気作品を手掛けてきた脚本家の古沢さん。そのバラエティーに富んだ作品群にまた一つ新たな映画が加わる。2017年10月21日(土)から全国公開される『ミックス。』だ。新垣結衣さんと瑛太さんがそれぞれに心の傷を抱えた男女を演じ、卓球でミックス(男女混合)ダブルスを組んで、人生と恋を再生していく物語。
古沢さんのオリジナル脚本作品で、「ロマンチックコメディーをやりたいと思っていた時、卓球のミックスダブルスを見て、これはそのためにあるような競技だ! とひらめきました」。
古沢さんは子供のころ、本や漫画、アニメが大好きだったという。人を喜ばせたり驚かせたりしたくて、見た番組の異なる結末を頭の中で考えたりもしていた。絵も得意で早くから漫画を描き、周囲からは漫画家を勧められる。
「漫画家には家に閉じこもって描く、暗いジメジメしたイメージを持って避けていたんです。でも藤子不二雄先生の自伝的作品『まんが道』を読み、そういう人たちの青春がいかに素晴らしいかを知って気持ちが変わりました」
中学ぐらいまで雑誌の賞に応募しながら描き続け、尊敬する手塚治虫さんの「漫画がうまくなりたければ映画を見なさい」という提言を受けて映画を見まくる。そして映画『七人の侍』の脚本を読んだことから興味が湧き、倉本聰さんや向田邦子さんらの脚本集を読んで「脚本家もいいな」と思うようになった。
「大学の時に養成講座に通い、書いた作品を褒められたことが自信にはなりましたが、講義で脚本家の方々から報われない仕事だと聞いて夢が持てないなとも思いました。それに脚本を一本書くのがすごく大変で、仕事にするのは無理かなって。でも大学の卒業時、就職はまったく頭になかった。僕は、自分という存在を懸けられる『何者か』になりたかったのです」
しかし卒業後も脚本家になる気持ちは定まらず、漫画家かそのほかか、アルバイトをしつつ揺れる気持ちを抱えていた。一方、映画を見てはインプットし、時折脚本も書く日々が続く。
「10代でデビューした手塚先生や藤子先生のように自分は天才じゃなかったという絶望感の中で20代を過ごしました。さすがに20代後半になって焦りが募り、とにかく自分の中に詰まった表現したいものを吐き出そう、スッキリして気持ちが決まるかも知れないと考えました」
一心不乱に書き上げた脚本をシナリオコンクールに送ると、何と大賞を受賞。しかしここから、新たな苦難の日々が始まった。
自分らしいものにとらわれず挑んでみる
28歳でシナリオコンクールの大賞を受賞した古沢さん。だが、毎年数あるコンクールで多くの受賞者が出ても脚本家として生き残れるのは一握りだ。そんな中で古沢さんはどのようにして売れっ子になっていったのか?
「まず、僕はすぐに連続ドラマのチームという実戦の場に投入されました。でもこれがつらかった。自分はまだ素人に毛が生えたレベルで、どう書いていいか分からない。そのうえプロデューサーは飛び抜けて厳しく、書き直しを『いつできる? 何時間掛かる?』と詰め寄ってくる。毎日眠れずパソコンに向かい、それを開くのも嫌になり、電話にも出なくなり……と。そしてとうとうチームを降りてしまったんです」
しかしプロデューサーは古沢さんが冷静になるまで時間を置き、約1週間後「戻ってこい」と電話を掛けてきてくれた。戻った古沢さんは、自分の代わりに書いたベテランの脚本を読み、「こうすれば良かったのか」と理解できたという。そこからは順調に書けるようになり、08年にはドラマ「相棒」も担当する。
「サスペンスを書いたことがなかったので、最初に頼まれたシーズンは断ったんです。でもそれからサスペンスをたくさん見て、米ドラマ『刑事コロンボ』は全部見るなど勉強し、再び依頼されたシーズンから加わりました」
その後、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』やドラマ「鈴木先生」「外事警察」など、毛色の違う作品を気鋭の監督やプロデューサーと一緒に作るという経験を積み、その結集が後にドラマ「リーガルハイ」の大ヒットへとつながる。
「自分らしいものにはとらわれず、その時興味のあることや提示された作品に挑むことで、こうすれば良かったという反省も生まれ、次の作品に生かせる。結果、一段ずつ階段を上り、技術が身に付き、手が届かないと思っていたものも書けるようになっていきました」
古沢さんが思う脚本家とは、サッカーで言えばアシストの役目をするミッドフィールダー。「こういうものを作りたい」という皆が目指すゴールを提示する人だという。いいゴールが示せれば現場の意気も上がり、結果いい作品ができるのだ。こうして今、古沢さんは売れっ子脚本家として多忙な日々を送る。
「それはとても幸せなことです。でも、自分ではまだ満足するような脚本を書けていない。もっともっとうまくなりたいと常に思っています。僕は飽きっぽいのか執筆中に次のアイデアがいろいろと浮かび、それがたまってしまって書く体が足りないのが悩み(笑)。まだまだ、新たな内容の作品に挑んでいきたいですね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
絶対に漫画家です。今も少し描いていますし、まだその可能性を捨ててはいません。
人生に影響を与えた本は何ですか?
藤子不二雄先生の自伝的漫画『まんが道』です。そこに登場する漫画家を目指す少年たちのすばらしい青春に魅かれ、僕も漫画家を目指そうと思いました。そして、この本は僕の考え方やその後の人生に多大な影響を与えていると思います。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
ありません。仕事は日々淡々と執筆することなので。でもあえて言うと、それが毎日できるように心をフラットに保つことでしょうか。
Infomation
古沢さんオリジナル脚本の映画『ミックス。』が2017年10月21日(土)から全国公開
不器用でどこか欠点だらけの登場人物たちが、卓球のミックス(男女混合)ダブルスを通じて小さな奇跡を起こす、恋と人生の再生物語。母のスパルタ教育で、かつて天才卓球少女だった多満子は、母の死後、普通に青春を過ごし普通に就職する。そして会社の卓球部のイケメンエースに告白されて付き合うも浮気され、その失恋を機に帰郷。亡き母が経営していた卓球クラブは経営難に陥っていて、多満子はその再建と、失恋相手のペアを打倒するため、自らミックスダブルス部門に出場する決意を固める——。
古沢さんはこう語る。「卓球が現在のような人気となる前から構想を練り始めました。その後、国際大会で日本がまさかのミックスダブルス優勝など、今や勝ち馬に乗った感じですが、僕は前から書いていたんです(笑)。スポ魂とロマンチックコメディーが半々ぐらいのバランスで描けたので、いろんな人に楽しんでもらえると思います。また新垣結衣さんや瑛太くんといった登場人物が真剣に卓球をする姿が見られるだけでも価値がある。皆さんものすごい迫力ですよ!」
監督:石川淳一(ドラマ「リーガルハイ」ほか)
出演:新垣結衣、瑛太、広末涼子、瀬戸康史、永野芽郁、田中美佐子、遠藤憲一ほか