第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.180女優 早霧せいな
とことん思い悩む。それがはい上がる力に
Heroes File Vol.180
掲載日:2018/4/5
男役にしては小柄なほうながら、宝塚歌劇団雪組のトップスターに上り詰め人気を博した早霧せいなさん。昨年(2017年)7月に退団し今後が注目される中で、
今年(18年)はまずミュージカルに挑戦するという。「女優としてやっていくという覚悟をこの舞台で示したい」そう語る早霧さんに、卒業した宝塚、そしてこれからの仕事への思いについて伺った。
Profile
さぎり・せいな/長崎県出身。2001年に宝塚歌劇団入団。宙組を経て雪組の配属となり、14年9月にトップスター就任。17年7月退団。18年6月1日(金)〜10日(日)に退団後初となるミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」(東京・TBS赤坂ACTシアター)に主演予定。
2017年7月まで宝塚歌劇団の雪組トップスターとして活躍していた早霧さんが、退団後初となる主演ミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に挑戦する。「私にとって女優業を開始するというのは百八十度、まったく違う仕事に就くような感覚です。宝塚を卒業し、ようやく新社会人として新たな一歩を踏み出すんだという覚悟を持って臨んでいます」
宝塚の男役になりたいという夢を抱いたのは中学生のころ。「自分は何がやりたいのかと悩んでいた時、タカラジェンヌのインタビュー記事と出会い、ああ、これだ! と」。そこから宝塚を夢見て猪突(ちょとつ)猛進。両親に頼んでバレエと歌を習い始め、高校1年からは宝塚音楽学校の受験に挑み、三度目の正直で合格。高校卒業と同時に入学する。音楽学校はうわさどおりの厳しさだったが、まったく気にならなかったという。
「それよりも、私は宝塚を目指したのが遅かったので、小さなころからバレエなどを習ってきた同期のレベルに2年という時間の中で追いつけるかどうか焦っていました」。とはいえ、心配していても前には進めない。遅れを取り戻すべく、芝居や日本舞踊など学校で学んだこと一つひとつを確実に身に付けようと、半年ごとの定期テストを目標に努力を重ねた。
そして01年、宝塚歌劇団に入団。宙組(そらぐみ)公演「ベルサイユのばら2001」で初舞台を踏む。ただ、09年に雪組に移るまでの宙組での8年間もまた、早霧さんにとっては試練と葛藤の日々だったという。
「同期も上級生も下級生もみんな仲間だけどライバルなんです。当時、宙組の男役の方はみな身長が高く、私は男役としてはかなり小柄。自分の小ささがコンプレックスで、すごく高いヒールを履いたり、前髪を高めに立てたりしてあがいていました(笑)。でも、そんな自分と向き合う日々を過ごすうちに、結局自分の持ち味を生かすしかないんだなって思えるようになっていきましたね」
後に雪組に組替えとなった当初も、異なる個性のトップスター2人の2番手を経験し、持ち味を大切にすることへの思いは強まった。「私はものすごく思い悩むタイプ。でも結局のところ、新人時代に自分を直視し、とことん悩んだことがはい上がる力になりました」
実際、早霧さんは、小柄ながら抜群の運動神経を生かしたダンスや、繊細な役作りで多くのファンを引きつけ、14年に雪組のトップに就任。その後、5作の本拠地作品で、宝塚大劇場の稼働率100%超えという偉業を成し遂げるのである。
自分のお試し期間に経験を積んでおく
クールな美しさと卓越した演技力、そして気さくな人柄が魅力の早霧さん。宝塚歌劇団雪組のトップスターとして、「ルパン三世」「るろうに剣心」などで型にはまらない男役像を作り上げ、多くのファンに惜しまれながらも17年7月退団。しかしそれは必然の選択だった。
「宝塚は、伝統を守りながらも世代交代をしているからこそ100年以上続いている。私という存在もあくまでもその歴史の一つの通過点にしか過ぎない。上級生から受け取ったバトンを下級生へ渡すのも私の役割。そのタイミングが昨年だったわけです」
退団を決め、最後の公演の千秋楽を終える日までは、歌劇団の一人として充実した日々を過ごすことができた。だからこそ、次の目標がなかなか定まらなかったという。「私は宝塚で男役をやるというのが最大の夢で、そこへ向かう情熱が自分を支えてくれていた。その夢をかなえ、全うすることができたので、その後に何を燃料にして前へ進めばいいのか分からなくなってしまったんです」
そんな早霧さんが女優として活動を開始しようと決心したのは、転職経験者からの助言があったからだそうだ。「『転職は大変だよ。せっかくショーやミュージカルのお話が来ているんだったら、それらを蹴ってまで無職になる必要はなくて、やりながら次の道を考えればいいんじゃない』って言われて。ああ、確かにそうだなと思ったんですね」
チャンスが与えられているんだから、とにかく女優として頑張ってみようと覚悟を決める。そのきっかけになったのが今回主演するミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」だ。
「17年11月、ファンの方々への感謝の気持ちを込めてショーはやらせていただきました。ただ退団後、本格的に一つの役をもらってお芝居するのはこのミュージカルが初めて。今までと同じようにやっていける部分と、違う部分の両方があるんだろうなと思います。私にとってまだまだ未知の世界ですが、今しか出せないぎこちなさも良い形で芝居に反映されるといいなって思います。すごくフレッシュな気持ちでこの作品に向き合っているところです」
演じることも、みんなで舞台を作り上げていくことも大好きだ。しかし演技以外にも、何かほかのこともできるのではないかという自分の可能性にも実はすごく期待している。
「今はお試し期間。いろんな人に出会っていろんなことに挑戦したい。その中から本当にやりたいことを見つけたい」。早霧さんが今後どう羽ばたいていくのか、目が離せない。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
それ、いつも考えるんです、何をやっていたのかなって。最近になって、もし別の仕事ができるなら建築士がいいなと。その人に合った家を考えるのって、とても夢のある仕事だと思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
池田理代子先生の漫画『ベルサイユのばら』。宝塚で何度も上演している作品だからということで読んだのが最初です。実際に物語に触れて主人公のオスカルにとても共感しました。宝塚で何度かオスカルを演じたというのもあり、より愛着のある作品です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
「神頼み」です。神社巡りも好きだし、実家に帰ると仏壇に手を合わせ、お墓参りもします。またそういう場所がなかったら、心の中で祈ったりしますね。
Infomation
ミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に主演!
人気キャスターのテス・ハーディング(早霧せいな)は、夫の風刺漫画作家・サム(相葉裕樹)とお互い一目ぼれでスピード結婚。でもテスは何よりも仕事が最優先で、2人の関係には亀裂が生じ、早くも離婚危機に!? 家庭と仕事、そのどちらに女性の本当の幸せはあるのか――。早霧さんが宝塚歌劇団退団後初めて挑むミュージカル。「1980年のブロードウェー作品ですが、現代の日本社会にも通じるようなテーマなので、とても身近に感じられるはずです。しかもコメディータッチでテンポある展開で描かれていますから、気楽に気軽に楽しんでいただけると思います」
日程:2018年6月1日(金)〜10日(日)
会場:東京・TBS赤坂ACTシアター
上演台本・演出・訳詞:板垣恭一
音楽監督:玉麻尚一
出演:早霧せいな、相葉裕樹、今井朋彦、春風ひとみ、原田優一、樹里咲穂、宮尾俊太郎(Kバレエ カンパニー)ほか
公式サイト:http://www.umegei.com/
womanoftheyear/
問い合わせ先:梅田芸術劇場(電話0570-077-039/10:00〜18:00)
※先んじて大阪公演もあり。
日程:2018年5月19日(土)〜27日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
問い合わせ先:梅田芸術劇場(電話06-6377-3888/10:00〜18:00)