第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.181俳優 三浦貴大
普通の生活をしてきた経験は、強みになる
Heroes File Vol.181
掲載日:2018/4/19
出演作品の台本をもらうと、最初は自分の役をほかの俳優に想定して読むという三浦貴大さん。最近よく登場するのが、窪田正孝さんと池松壮亮さんだ。「2人とも大好きな役者なんです」周知のとおり父は俳優の三浦友和さん、母は伝説の歌手、山口百恵さん、
そして兄は歌手の三浦祐太朗さん。いわゆるサラブレッドではあるけれど、その七光りの浮ついた雰囲気はみじんも感じさせない。どこまでも謙虚で屈託なく、おちゃめな面も持ち合わせたナイスガイだ。
Profile
みうら・たかひろ/1985年東京都生まれ。2010年に映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』で俳優デビュー。主演作『栞』など数本の映画公開予定。18年5月17日(木)からは舞台『市ヶ尾の坂 ―伝説の虹の三兄弟―』(東京・本多劇場)に出演予定。
子供のころ、国語の教科書が好きで、誰に言われるでもなく太宰治の『走れメロス』を暗記した。「その原体験があるせいか台本を覚えるのは全然平気なんです。ただ舞台となると話は別で、まだ苦手意識があります。でも岩松了さんの脚本がすごく面白かったのと、大森南朋さんや麻生久美子さんが出演されると聞き、ぜひ出たいと思いました」
三浦さんがそう語るのは、2018年5月17日(木)から始まる舞台『市ヶ尾の坂 ―伝説の虹の三兄弟―』のこと。ちょっと風変わりな家族の物語で、三浦さんは3人兄弟の次男を演じる。
今やその役柄の幅広さで注目され、実力派と称される三浦さんだが、大学卒業まではまったく俳優になる気はなかったという。「精神保健福祉士を目指していました。でも、勉強するうちに自分には向いていないなと気づいたんです。ただ、そのころにはすっかり就活時期も終わっていました」。卒業後2カ月間、何もせず悶々(もんもん)とした日々を過ごす。そこでふと浮かんだのが俳優の父・三浦友和さんのことだ。
「それまで明確な反抗期はなかったのですが、心のどこかで絶対親と同じ道は進むもんかと思っていました。でもその時はなぜか父の仕事が気になり、同じ土俵に立って勝負してみたくなった。役者という職業より、父がどう生きてきたかに興味があったのかも知れません」。いずれにしても、両親に「役者をやると決めたから」と報告し覚悟が決まった。
デビューは映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』。「あの作品で監督をはじめ出演者の中井貴一さんたちに出会っていなかったら、今ここに居られたかどうか。大切なことをいろいろ教えてもらったし、役者って面白いなと思わせてくれました」
とはいえ演技の経験はこの時が初めて。そこから試行錯誤の日々が始まる。「最初は何をしていいか分からず、営業マンの役をもらった時は街で会社員の行動を観察するなど、自分なりのやり方で一つひとつ与えられた役柄に対し真摯(しんし)に向き合うことを心掛けました」
当時はオーディションもよく受けた。会場では今を時めく若手俳優たちともよく顔を合わせた。「特に子役からやってきた人は役作りにおいて内面から感情を出すのがすごくうまい。一方、僕は22歳からのスタートで役者経験では相当後れを取っている。でも、そんな中で彼らと勝負するにはどれだけ僕が普通だったか、すなわち大学卒業までごく普通の生活をしてきたということこそが強みになると信じ、オーディションに臨んでいましたね」
3日思い続けられたらやる価値がある
デビュー以来、コンスタントに映画やドラマを中心に出演し、爽やかな好青年から屈折した複雑なキャラクターまで多彩な役に挑み続けてきた三浦さん。2018年は5月から始まる舞台『市ヶ尾の坂 ―伝説の虹の三兄弟―』のほか映画も公開待機作がすでに数本控えている。
「でも、いつも不安です。いつ仕事がこなくなるか分からない職業なので。何より僕は役者をなりわいにする以上、何が何でも映像の中や舞台に上がり続けなければダメだと思っています。出られなくなったらおしまいですから」
不安を乗り越え、次の仕事へつなげていくためにしているのは、やはり目の前にある役をしっかりとやること、それが第一。そして次に大事なのが「営業」だと三浦さんは考える。
「就職活動で『使えるコネは全部使ったほうがいい』と言われていたのですが、そういう意味では役者になってからもずっと就活をしている感じです。俳優同士だけでなく、監督やプロデューサーなどスタッフの方たちと作品が終わっても積極的に連絡を取るなど、つながりを大切にするよう心掛けています」
ただその一方、この「綱渡り感」こそが役者という仕事の魅力でもあると感じている。「芝居そのものも好きなのですが、芝居以外のところで、人と新たな関係を築いて次の仕事につなげていくというのも楽しい。相手のタイプに合わせたコミュニケーションの取り方を考えたりするのも、ちょっとした駆け引きっぽくて面白いなと感じています」
実家では、父であり俳優の三浦友和さんが台本を読む姿を一度も見たことがなかったという。自身は役者になって10年近くになるが、父親が陰でどんな努力をしていたのか、いまだによく分からない。ただ、それを知ることは何だか無粋な気がして聞かないままでいる。
「同じ土俵に立って勝負したいなんて思っていましたが、それ自体が本当におこがましいこと(笑)。いつか越えたい大きな目標であることに変わりはないですが。それよりも僕自身が役者として、見る側の方々からも、作り手側からも求められ続けられる存在になることが先決なんですね。役者を長く続けていくことこそが今の一番の目標です」
32歳。まだまだ役者として伸び盛りの三浦さん。最近実践していることを教えてくれた。「やりたいことを思いつき、3日間やりたいと思い続けられたら即行動に移す。そうしたら今まで尻込みしていたこともできるようになりました。やってみないと分からないことっていっぱいあるんだなって実感しています」
ヘアメイク:KEN スタイリスト:涌井宏美
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
花屋さん。街角で何か店をやりながら街行く人を眺めているような生活に、今でもあこがれがありますね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
太宰治の『走れメロス』です。国語の教科書が好きだったというのもあるのですが、この作品を全部暗記したんです、誰に聞かせるわけでもなく。役者になって、文章というかセリフを覚えることにまったく抵抗がないのは、この時の経験があるからだと思います。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
舞台などで緊張しそうな時は合掌します。足は地面についているけれど、手は触れるものがなく所在ないので、何かに触れて落ち着きたいというのもあり、手を合わせるんです。
Infomation
舞台「市ヶ尾の坂―伝説の虹の三兄弟―」に出演!
1992年、横浜・市ヶ尾の坂の上に立つ家で暮らす3人兄弟がいた。田園都市計画の名のもとに家がなくなることを余儀なくされている兄弟と、母になれない美貌(びぼう)の人妻。更にその夫、そして家政婦が絡み、一見何でもない日常の中に潜む、謎とエロスが交錯する危うい関係が浮かび上がる――。岩松了さんの傑作戯曲「市ヶ尾の坂」が新演出で26年ぶりに再演。3人兄弟を大森南朋さん、三浦貴大さん、森優作さんが、美貌の人妻を麻生久美子さんが演じ、ミステリアスな岩松戯曲に挑む。「ありふれた男兄弟の会話を描いているのに、台本は今まで読んだことのないようなものでした。舞台は3度目なのですが、実は日本人の役を演じるのは初めて。少し戸惑いを感じながらも頑張りますので、ぜひ劇場まで足をお運びください」(三浦)
日程:2018年5月17日(木)~6月3日(日)
会場:本多劇場
作・演出:岩松了
出演:大森南朋、麻生久美子、三浦貴大、森優作、池津祥子、岩松了
公式サイト:http://mo-plays.com/ichigao/
問い合わせ先:M&Oplays(電話03-6427-9486/平日11:00~18:00)
※宮城、福島、大阪、富山、愛知、静岡公演もあり。