第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.184俳優 鈴木亮平
誰よりも準備に時間を掛け、結果を残す
Heroes File Vol.184
掲載日:2018/6/21
これまで数多くのドラマや映画に出演しそのつど作品に合わせて役作りに挑むことでも話題を呼んでいる俳優・鈴木亮平さん。2018年は、主役の座を射止めたNHK大河ドラマ「西郷どん」で西郷吉之助をエネルギッシュに演じている。「その仕事に対する『好きだ!』という気持ちが原動力」と言い切る鈴木さん。その一言一言が熱く真っすぐで、すがすがしい。
Profile
すずき・りょうへい/1983年兵庫県生まれ。東京外国語大学卒業。2006年に俳優デビュー。主な映画出演作に『俺物語!!』『忍びの国』など。2018年はNHK大河ドラマ「西郷どん」に主演。出演映画『羊と鋼の森』が公開中。共著『鈴木亮平の中学英語で世界一周!』が発売中。
2016年の本屋大賞を受賞して話題となった小説『羊と鋼の森』が映画化され、18年6月8日から公開中だ。鈴木さんは同作に、山﨑賢人さん演じる新米ピアノ調律師の成長を優しく見守る先輩役で出演している。
「心に響くシーンやセリフの多い映画です。中でも僕は『才能っていうのは、ものすごく好きだって気持ちなんじゃないかな』というセリフが気に入っています」。その言葉どおり、「好き」を「才能」に昇華させたのがまさに鈴木さん自身である。
子供のころから俳優にあこがれていた。大学時代、演劇サークルを経験して「これを一生の仕事にしよう」と決意する。とはいえ自分にはプロになるためのコネやルートがない。大学3年になり周囲が就職活動を始める中、自身は一人で「役者になるための就活」を開始。履歴書を持って芸能事務所などを50社以上回った。
「君には無理と拒否されまくり、何度も落ち込みました。でも、ここで諦めるようでは俳優になれないと自分に言い聞かせ、就活を続けました」。そこまでできたのは、何より「演じるのが好きだ」という気持ちがあったから。
こうして06年に俳優デビュー。最初はとにかく無我夢中、根拠のない自信で突っ走っていた。しかし次第に分かってくる。ほかの俳優たちの方が断然、芝居がうまく実力もあることが。
「全然かなわないわけです。もともと俳優の資質が備わった天才肌でもない。では自分には何ができるのかと考え、『準備』しかないなと気づいたのです」。与えられた役に対して誠実に向き合い、誰よりも準備に時間を掛け、結果を本番で残して信頼を得ていく。経験も浅く実力もないけれど、それだけは愚直にやっていこうと決めた。
入念な準備の成果を実感したのは13年の映画『HK 変態仮面』だ。パンティーをかぶった半裸の正義のヒーロー役で、準備に1年以上を掛けた。「結果、成功させることができました。たとえくだらないと言う人がいる作品でも、全力でぶつかれば認めていただけることが分かったのと、ちゃんと向き合い、準備して作品に臨むことが自分らしさなんだと思うようになりました」
以前は準備に励む自分に酔っている部分も多少あったそうだ。しかし同作以降、作品のために自分は役者として何ができるのかを意識するようになった。「そうじゃないと誠実ではない。そんないろんな気づきを与えてくれたという意味で転機になった、大切な作品です」
たとえキツくても後悔しない方を選ぶ
22歳のころから毎年、年初にその年目指すものを決めているという鈴木さん。18年は「西郷吉之助として生きる」という目標にした。それほど自身の血肉すべてと情熱を注いで挑んでいるのが、NHK大河ドラマ「西郷どん」だ。
「演じるのではなく、吉之助という人物を生きているのだと信じ、身を任せているという感じです。1年という長い月日を掛けて一人の人間、しかも実在の偉人の成長や挫折といった人生を描く作品を自分がやらせていただけるというのはすごくありがたいですし、ぜいたくなことだと思っています」
20代の吉之助には困っている人を見ると放っておけず、相手の気持ちに寄り添う温かさと実直さがある。「そこが魅力ですよね。よく泣きますし、体は大きいけれど繊細な部分も持っている。でも、想像以上に未熟なところもある。さまざまな経験を重ねながら、大きな人間力を備えた人物にどう変化していくのか。僕自身、ワクワクしながら吉之助を生きています」
俳優の魅力は、こんなふうにいろんな人生を体験できるところだと話す。実際、ドラマや映画の仕事はだいたい数カ月単位で変わり、そのつどさまざまな役に挑戦できる。「数カ月に1回、転職気分を味わっています(笑)」
「西郷どん」の撮影前、鈴木さんが取り組んでいたのは映画『羊と鋼の森』だ。同作で演じたピアノ調律師も実に刺激的だったという。
「すごく役者という仕事に近いものを感じました。調律師って、この音が正解だと思っても奏者の好みに合わなければ却下されてしまう。あくまでも求められる音が出るように調整するのが仕事です。役者も同じ。自分がどう演じたいかよりも、監督やお客さんの好みに合わせて演じることが大事なのではないかと思うんです。ただ、調律師も役者も意図せず多少自分の色が出てしまうところがある。そこに共通する部分があって面白いなと思いました」
俳優になって12年。さまざまな局面で選択を迫られることもあったが、その選択で迷ったことはないという。「僕は必ずより後悔しないほうを選ぶと決めています。それはおおむねキツいほうだったりするのですが(笑)」
ただし、つらすぎることや嫌なことがあった時は無理せず、その流れが去るのを待つことにしている。「20代のころはもがいたりしたこともあったし、その時はそれが大事だったんだと思うのですが、最近は時が癒やしてくれるのを待ったり、今の自分にできることを淡々とやったりという、そんな感じになりましたね」。ポジティブだが、変に気負わず我が道を行く。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
旅行関係でしょうか。国内外問わず旅が好きなので。
人生に影響を与えた本は何ですか?
D・カーネギーの『道は開ける』という自己啓発本です。学生時代に読んで、ネガティブに思い悩むことがいかに無駄なことか、それ以上に行動することがいかに大切なことかを学んだ一冊です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
まさにパンツですね! 黒い無地の、やや値段が高いのが1枚あって、大事なシーンの撮影の時や記者会見などの日は必ずそれをはくようにしています。
Infomation
出演映画『羊と鋼の森』が全国公開中!
2016年の本屋大賞を受賞した小説『羊と鋼の森』が映画化され、18年6月8日から公開中だ。ピアノの一音に森の匂いを感じ、調律師の世界に魅せられていく新米調律師・外村(山﨑賢人)。時に迷い、悩みながらも、上司の板鳥(三浦友和)や先輩の柳(鈴木亮平)など多くの人に支えられ、磨かれながら、調律師として、また人としてたくましく成長していく。「これはピアノ調律師の話ですが、どのような仕事にも通じるものを描いています。どんな職業を選択するのか、その仕事の才能は自分にあるのか、更にはプロとは何なのかなど、ハッとさせられるセリフや場面がたくさんあるので、自分の将来や仕事で悩んでいる人には特におすすめしたい作品です」と鈴木さん。
公式サイト:http://hitsuji-hagane-movie.com/