第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.194 モデル/俳優 栗原類
憧れの人に近づく努力が幸運を招いた
Heroes File Vol.194
掲載日:2019/1/25
モデルとして活躍していた栗原類さんが、テレビのバラエティー番組に呼ばれるようになり、「ネガティブすぎるイケメンモデル」と言われて大ブレークしたのが17歳の時。そして24歳になった今は、もっぱら俳優として舞台や映画などに数多く出演している。
2015年には自身が発達障害であることをテレビで告白し、自分の才能を生かす場所も見つけて自らを輝かせている栗原さん。その半生や仕事への思いなどを伺った。
Profile
くりはら・るい/1994年東京都生まれ。2012年から役者として映画、舞台、ドラマに出演。著書『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』。19年1月24日から上演が始まった、こまつ座「どうぶつ会議」(作:井上ひさし、演出:田中麻衣子、会場:新国立劇場)に出演中。
端正なルックスと独特の存在感で人気の栗原さん。モデル、タレント、俳優として雑誌をはじめテレビや映画、舞台など多岐にわたって活躍している。現在は東京・新国立劇場で2019年1月24日から始まった、こまつ座の舞台公演「どうぶつ会議」に出演中だ。ドイツの児童小説を井上ひさしさんが舞台化し、今回、約半世紀ぶりに復活した作品である。
「セリフがシンプルで分かりやすくて、すごくかわいらしい音楽劇です」。そう語る栗原さんは、イギリス人の父と日本人の母を持つハーフだ。子供のころからモデルの仕事をしていたが、自分の意思で本格的に始めたのは中学生の時だったという。
「というのも、実は俳優になりたいという気持ちがあったからです。そのころ、阿部寛さんや伊勢谷友介さん、井浦新さんのようにモデル出身で俳優になられた方々にあこがれていました。だからモデルの仕事が増えることがすごくうれしかった。少しずつあこがれの人の経歴に近づけているようで、一層頑張ろうと思いました」
なぜ俳優になりたかったか。それはニューヨークで暮らしていた小学生時代、コメディーグループのモンティ・パイソンが出演する番組にハマッたのがきっかけだ。お笑いに目覚めてコメディアンを目指す人もいるが、栗原さんはいろんな人物になりきって人を笑わせるお芝居というものに、すごく興味がわいたという。
「中学生のころからですが、人に気を使ったり、集団の場で空気を読んだりすることが当たり前みたいになって、それがとても苦痛でした。本当の自分でなくなるような、自分のやることや考えることがどんどん縛られていくような感覚になって。でも、お芝居の世界ならそんなことは気にせず、自分ではないほかの誰かになりきって、しかも人を笑わせることができる。それによって自分自身も気持ちの部分で自由に生きられるような気がして、それで俳優を志したんです」
そんな思いを胸に秘めつつモデルの仕事を続けていた12年の17歳の時、バラエティー番組への出演が決まる。そして独特の発言が話題を呼び、「ネガティブすぎるイケメンモデル」として大ブレーク。栗原さんにとってはまったく予想外の出来事だった。
「高校を卒業したらどこかの劇団に入ってお芝居の勉強をしようと思っていた時期でした。何より僕は面白みのない人間ですし。ただ、バラエティーに出たことで知名度が一気に上がったのはありがたかった。お陰でドラマに出演させていただくことができました」
失敗の理由を繰り返し考えれば実力になる
栗原さんが俳優として初めて出演したのは単発ドラマだ。ただ、芝居をやりたいとは思っていたものの、どう演じていいのか右も左も分からず、撮影中はずっと悩んでいたという。それでも「お芝居の感覚を得ることができたのと、どんな仕事も決して簡単ではないということを学べたのは大きな収穫でした」。
栗原さんは失敗を前向きに捉えながら、でも次に頑張ればいいやでは終わらせないと語る。なぜ失敗したのか、自分はその時どういう意識でいたのかを冷静に思い返し、それによって芝居の感覚を自分のものにしていくという。
「そもそも、何をするにも失敗は大前提に考えています。成功した人の本も役に立ちますが、それ以上に、実際に自分が経験して失敗を繰り返したほうがやりたいことへと近づける。と言いますか、そういうことでしか芝居はうまくならないし近づけないと思っています」
とにかく経験が大事という栗原さんが、最近最も新鮮だったのは、19年2月3日(日)まで出演中の音楽劇「どうぶつ会議」での稽古場だったと振り返る。演出の田中麻衣子さんが、出演者たちを3チームに分け、劇中の各シーンをどのようにするかを考えるワークショップを開いてくれた。
「歌のシーンが多いのですが、その振り付けをどうするかとか、舞台転換の流れとかまで話し合い、いろいろ試しながらみんなで作り上げていきました。ここまで役者が自由に取り組めた現場は初めて。最後まで作品の完成形が見えなかったのも面白かったです」
俳優として活動するようになって7年。今までさまざまなドラマや映画、舞台に出演してきた。「特にここ1年は非常に実験的で、いろいろな人に会い、映画や舞台を見る機会も多かった。それによって僕も変わってきたなと感じていて、そろそろ初心に立ち返って自分の道をあらためて考えていきたいなと思っています。と同時に、人がアッと驚くような短編映像もいつか撮りたいです」
静かだが、言葉の端々から心の熱量が感じられる。仕事に向かうそこまでの原動力は何かと尋ねると、少し考えてこう語った。「野望でしょうか。役者として売れて、安定した生活が送れるようになりたい。それと、自分の本にも書きましたが、僕はこの仕事しかできない人間だと考えています。俳優の仕事は毎日違うので受ける刺激もその都度変わるのですが、そこが合っていると思うんです」
自身を見極めたうえで、正直に、やりたいことに猪突(ちょとつ)猛進。これからも、まだまだいろんな面を見せてくれそうだ。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
役者になるのが一番の夢でしたが、もしなれなかったとしてもこの業界にはかかわっていたかった。ですから映画監督か、もしくは何か裏方の仕事でしょうか。
人生に影響を与えた本は何ですか?
歌舞伎役者の松本白鸚さんが幸四郎時代に出した『ギャルソンになった王様』という本です。ご自身の役者としての美学が書かれていてすごく勉強になりました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
そもそも勝負するのが好きではないので、特にありません。
Infomation
舞台「どうぶつ会議」に出演中!
“3歳から100歳まで見て聴いて笑って楽しめる音楽劇”。栗原さんが、こまつ座公演「どうぶつ会議」に出演中だ。世界中の動物たちが子供たちのために立ち上がる物語で、ドイツの作家エーリッヒ・ケストナー氏が書いた児童小説を井上ひさしさんが舞台化し、約半世紀ぶりに復活! 人間の大人たちは世界中にいろんな問題があるのに戦争ばかり。これでは人間の子供たちがかわいそうだと動物たちが抗議をするけれど、頭の固い大人たちには届かない。困った動物たちは人間の子供たちに話を聞いてもらうことにする。そんななか、日本のとあるサーカス会場では頭をひねった動物たちが劇場にやって来た子供たちを閉じ込め、1カ月前のある暑い日の夜に始まった物語を話し始める——。「井上さんの戯曲の中でも特にシンプルで分かりやすい作品だと思います。言葉遊びも楽しいですし、一緒に歌ってほしいなと思うシーンも幾つかあります。特に演劇になじみがないという人に見に来てほしいです。とても楽しい劇なのでぜひいらしてください」と栗原さん。
日程:2019年1月24日(木)~2月3日(日)
会場:東京・新国立劇場 小劇場 THE PIT
演出:田中麻衣子
音楽:国広和毅
出演:栗原類、池谷のぶえ、田中利花、木戸大聖ほか
公式サイト:http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html
問い合わせ先:こまつ座(電話03-3862-5941)
※1月30日(水)19:00の回終演後、キャストアフタートークを予定。登壇は栗原類、大空ゆうひ、上山竜治。司会はこまつ座代表・井上麻矢。