
第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.196 女優 ともさかりえ
産休で自分をリセット。働く意欲が湧いた
Heroes File Vol.196
掲載日:2019/4/5

きゃしゃな体のどこにこれだけのパワーが潜んでいるのかと思うほど、ドラマ、映画、舞台にと目覚ましい活躍を続けている女優のともさかりえさん。実生活では中学3年生の息子を育てる母親でもある。
そんな充実した日々を送るともさかさんに、仕事への思いを伺った。インタビューでは、自分の奥にしまってある大事なものを一つひとつ取り出すように言葉を選び、丁寧に答えてくれる姿が印象的だった。
Profile
ともさか・りえ/1979年生まれ、東京都出身。92年CM出演を機に芸能界デビュー。ドラマや映画、舞台などで幅広く活躍。2019年4月6日(土)から舞台「LIFE LIFE LIFE~人生の3つのヴァージョン~」(会場:Bunkamuraシアターコクーン〈渋谷〉)に出演予定。
ドラマや映画だけでなく、舞台でも独特の存在感を放っている女優のともさかさん。2019年4月6日(土)からケラリーノ・サンドロヴィッチさん演出の舞台「LIFE LIFE LIFE~人生の3つのヴァージョン〜」に出演する。登場する2組の夫婦が、同じシチュエーションで三つの異なった「LIFE(人生)」を展開するというユニークな作品だ。
「会話の導入部や話題の角度、トーンが少し変わるだけでこんなにも違うことが待ち受けているのかと、見た人は驚くはず。軽妙でちょっと辛辣(しんらつ)なところもある楽しいお芝居です」
12歳の時にCM出演でデビュー。仕事という意識もなく言われるままオーディションを受け、ドラマなどにも出演するようになる。当時は自分がどうなるのか、どうしたいのかをまったく想像できなかった。それが13歳の時、初めて連続ドラマに出演したのを機に気持ちが変化したと振り返る。
「それまではどこかで、自分は子供だからちゃんとできなくても許してもらえると考えていたんです。ところがその現場では、誰もが容赦なく私を子役ではない一人のキャストとして扱い、正面からぶつかってきてくれた。それが怖かった半面、すごくうれしかったんですね。その時、ああこの環境って好きだな、女優をずっと続けていきたいなって、自然に心が動いたんです」

そしてドラマ「金田一少年の事件簿」への出演で一躍脚光を浴び、名前も全国的に知られるようになる。一見すると充実しているように見えていたが、ともさかさん自身はそのころが最もつらく不安だったと語る。
「すっかりお芝居の魅力にハマり、演じることに夢中になっていったのですが、純粋に好きだけではやっていけない仕事だと次第に分かってきたんです。私自身の仕事のために、多くの人とお金が動いていることに気づかされた時の恐怖感たるやすさまじいものでした。そこまでの覚悟は全然なかったので」
もともと一人で何でも抱え込んでしまう性格。好きなことを仕事にすることがこんなにつらいものなのかと悩み苦しみつつ20代に突入。そんなともさかさんの葛藤に、句読点をつけてくれたのが妊娠・出産だった。
「25歳のころ、妊娠6カ月から産後3カ月まで初めて仕事から完全に離れたんです。そこで、働くということの意味が分かったというか、素直に自分の中にスッと入ってきました。うまく言えないけど、あの時間のお陰で良い意味でラクになれた。女優という仕事への意欲が沸々とわき上がってきました」
続けないと見えない世界がある

女優としてすでに25年以上のキャリアを持つともさかさん。「振り返ると何て素晴らしい時間を過ごさせてもらったんだろうと感謝することばかり。出会いに恵まれてきました」と話す。中でも、今は亡き演出家・久世光彦さんとの出会いは忘れられない。
「久世さんのドラマに参加させてもらったのは20歳くらいのころです。共演者はほとんどが超ベテランの俳優さんたち。ある時、私だけが何度やっても久世さんの求めるお芝居ができないことがありました。そうしたら本番後に『かっこつけてんじゃねーよ』と一喝されたんです。監督の思いを体現できない自分に腹が立ってトイレに駆け込むと、悔し涙が止まらなくなり大泣きしました。どのくらい時間が過ぎたか…… トイレを出たら久世さんが待ってくださっていて『お前はあと3年掛かるな』と一言。そこでまた泣きました。何かありがたくて、本当にうれしかったんです。本気で気持ちをぶつけ、見守ってくれていることが分かったから。久世さんの大きな愛を感じた瞬間でした」
現在出演中の舞台「LIFE LIFE LIFE~人生の3つのヴァージョン〜」で共演している大竹しのぶさん、稲垣吾郎さん、段田安則さんとの出会いも大きい。実は13年前、同じ演出家とこの4人で芝居を経験している。
「前にもそうでしたが、しのぶさん、段田さんは大先輩なのに良い意味でフワッとした柔らかな雰囲気でいてくれる。そんな先輩たちに倣って、変に気負わず向き合うことを今回は心掛けました。そこから生まれるものを大事にして演じたほうが芝居も断然面白くなる。そう信じて日々本番に臨んでいます」
プライベートでは母でもあるともさかさん。25歳で産んだ長男も19年春、中学3年生に。「今はかなり手が離れましたが、小学生のころは夕飯を食べさせ、お風呂に入れ、学校の宿題をさせて…… と仕事と子育ての両立が物理的に大変でした。でも、母親としてやるべきことがあったお陰で逆に救われた気もします。たぶん子供がいなかったら、家に帰っても仕事を引きずっていたと思うので」
女優としての経験が増すほど、演技に対する緊張感が高まるのを感じている。また、この世界を知るにつれ、良いことだけでなく嫌なことにもたくさん巡り合った。それでも、そういったことすべて含め、今日まで続けてきたことに後悔はないと言い切る。「続けたからこそ、かけがえのない出会いや喜びがいっぱいありました。続けていないと見えない世界があります。これからも途中で投げ出すことなく、新しい景色を見ることができたらいいなと思います」
スタイリスト:斉藤くみ ヘアメイク:北 一騎
ヒーローへの3つの質問

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
父が美容師だったので、小さいころはずっと美容師になりたいと思っていました。
人生に影響を与えた本は何ですか?
江國香織さんの小説『神様のボート』です。何かふと立ち止まった時に読み返したくなります。結末は分かっているのに、その時々によってキャッチする言葉が違ったりします。主人公の生き方が、自分の中で漠然と思い描いているそれとちょっと似ているところが好きなのかも。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
なるべくそういうのを持たないようにしています。昔は願掛けみたいなことをしていた時期もあったのですが、それをしなかった時の不安感が大きいので今は何もしていません。
Infomation
「LIFE LIFE LIFE~人生の3つのヴァージョン〜」に出演!
ある夜、2組のカップルが過ごすことになる世にも悲惨なディナータイム——。ある時は軽妙に、ある時は辛辣(しんらつ)に毒々しく工作する男女4人の“三つの人生”。上演台本と演出をケラリーノ・サンドロヴィッチさんが担い、出演は大竹しのぶさん、稲垣吾郎さん、ともさかりえさん、段田安則さん。実は過去の舞台「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」以来13年ぶりに実現した豪華な顔ぶれ。「ごく普通の生活の中にある話ですが、なぜか歯車がズレてとんでもない方向へ話が転がっていきます。センターステージ仕様なので360度から見られている緊張感が私たちにはありますが、お客様にはちょっと人の生活をのぞき見しているような感覚で楽しんでもらえたらいいなと思っています」とともさかさん。
日程:2019年4月6日(土)~30日(火・休)
会場:Bunkamuraシアターコクーン(東京・渋谷)
作:ヤスミナ・レザ
公式サイト:http://www.siscompany.com/life/