第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.209 お笑い芸人 椿鬼奴
居心地の良い場所に自分の天職があった
Heroes File Vol.209
掲載日:2019/12/13
お笑い芸人として、テレビのバラエティー番組などでおなじみの椿鬼奴さん。
2019年10月放送のテレビ番組「タモリ倶楽部」に出演した際は、身につけていた花札のイヤリングがネットで話題になった。これは漫画『鬼滅の刃(きめつのやいば)』の主人公・炭治郎がつけているもの。ちなみに炭治郎の「長男だから頑張れる」という言葉が心の支えになっていると語る。
最近は女優としても注目されている鬼奴さん。その原動力となっているのは、自分の好きなものを好きだと言い続けていることだという。
Profile
つばき・おにやっこ/1972年東京都生まれ。清泉女子大学卒業。NSC東京校を経て26歳の時にお笑いコンビで芸人デビュー。4年後解散し、ピン芸人に。2019年12月28日(土)から31日(火)まで舞台「る・ひまわり×明治座年末“祭”シリーズ『明治座の変 麒麟にの・る』」に出演予定。
東京・明治座で2019年12月28日(土)〜31日(火)の4日間上演される舞台「明治座の変 麒麟にの・る」に、今注目の若手俳優たちと共にお笑い芸人の鬼奴さんが出演する。謎が多いと言われる本能寺の変を題材にした、伝説の神獣・麒麟(きりん)と明智光秀、織田信長をめぐる奇想天外な物語。鬼奴さんは信長の妻・帰蝶を演じる。「これまで出演させてもらった舞台はキワモノ役が多かったのですが、今回は正室という重要な役柄。変に笑われないよう頑張ります」
そう語る鬼奴さんだが、芸人になったきっかけは偶然からだった。大学卒業後はネットカフェでアルバイトをし、2年後、友だちの父親が経営する会社の事務職に就く。そして勤めながら、芸人などを養成する吉本総合芸能学院(NSC)東京校に入学。「友だちが『スクール情報誌でNSCが生徒を募集していたよ』と教えてくれたんです。芸人を目指したわけではなく、最初は本当に習い事のつもりでした」
しかし、いざ入ると面白い人ばかり。若いのにすごく苦労していたり、生き様がユニークだったりして話を聞くだけでも楽しかった。「同期にロバートやインパルス、森三中のメンバーらがいました。それまでに出会った人たちとはまったく価値観が違うことに驚きつつも、愉快でしたね。例えば趣味のパチンコの話をすると前は大抵ドン引きされていましたが、NSCではドカンとウケて笑ってくれる。居心地が良く、自分に合っているなと思いました」
そんななか、勤めていた会社が倒産。NSCに通うこと以外することがなくなったため、NSCを卒業後もそのままお笑いの道へ進むことになる。そして26歳で芸人デビュー。「当時はコンビを組んでいましたが、仕事が入るのは月に1、2回。それでは食べていけないのでバイトに明け暮れていました」
その後4年ほど経てコンビを解散。「30歳のころですね。でも、ピンでやるのは無理だと思い、このままフェードアウトしていこうかなと考えていました」。そんな矢先、先輩のキートンさんに誘ってもらい、お笑いユニット「キュートン」の一員として活動することになる。「お陰で一気に横のつながりができて、どんどん楽しくなっていきました。金銭的にはまだ厳しくてバイトも週5で入れていましたが、もう芸人をやめようなんて思わなくなりました」
ピン芸人としてネタも考えるようになった。そこで役立ったのが子供のころから得意だった歌。「中学時代の十八番(おはこ)は『夢芝居』です。内弁慶なのに歌う時だけは人前でも平気でした。そのことがピン芸人となった自分にスッとつながったんですね」
やり続ければ、きっと認められる日がくる
ハスキーボイスで歌手や俳優のモノマネをしたり、キレのある動きでボーカル・ダンス・グループ「MAX」の4人分を1人で踊ったりと多才な芸を披露してきた鬼奴さん。お笑い芸人として数々のバラエティー番組で活躍するほか、最近は女優としても注目され、この年末も舞台「明治座の変 麒麟にの・る」への出演が決まっている。
そんな鬼奴さんは、笑いのツボが学生のころからほかの人とは違っていたという。「自分の好きなものが周りにはなかなか受け入れてもらえなかった。例えば私は学生時代、漫画家の諸星大二郎さんの作品が大好きで、それしか読んでいなかったのですが、いくら同級生に薦めても共感してもらえませんでした」
しかし、言い続けていたら聞いてくれる人が現れた。そしてそれと同じようなことが芸人になってからも起きたと語る。「何をすれば人が笑ってくれるのか分からなかったので、ダメ元でとにかく自分が好きなことをネタにしてやり続けました。若い世代には1980年代の歌手、ホイットニー・ヒューストンやボン・ジョヴィなんて分からないだろうなと思いつつも。そうしたら若くても笑ってくれる人が出てきたんです。とにかくぶれずに好きなことをひたすらやり続けることが大切。そうすれば理解してくれる人が現れるし、仲間が増えていくものなんだなとつくづく実感しました」
思えば、お笑い芸人としての人生が21年間も続いている。ストレスもないし、尊敬できる人たちと仕事ができることが楽しくてたまらないと言い切る。「私をテレビの世界へ引き上げてくれた藤井隆さんをはじめとして、基本的に優しくて温かい人が多いんです。若いころ、ライブでお客さんにウケなくても先輩たちが笑ってくれて、そのことが私の心の支えになりました。そんな人たちと、ずっと一緒に働ける自分でありたいと願っています」
私生活では2015年に、お笑いトリオ「グランジ」の佐藤大さんと結婚。このことも鬼奴さんにとって大きなターニングポイントとなったという。「ちゃらんぽらんな人だと思っていたら、丁寧に一つひとつの仕事に向き合っていたんです。彼を見習って私もバラエティー番組の台本をきちんと読み込むようにしたら、作り手の思いや私に求められている役割を明確に把握できるようになった。そうしたら私のコメントが使われる頻度も増えたんです。その結果、仕事に対する意欲も一層高まりました」
鬼奴という芸名のインパクトとは異なり、素顔はとてもピュア。素直な心を持っている人だというのが、話すほどに伝わってきた。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
芸人として売れていなかった時期に、ノートパソコンのバックライトになる部品の組み立て工場でアルバイトをしたことがあるんです。担当していたのは一工程だけだったのですが、結構楽しくて、いつか電気工学をしっかり学んでテレビを作ってみたいと思いました。だからもしかしたらそういう仕事に就いていたかも知れません。
人生に影響を与えた本は何ですか?
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は大好きで、何度も繰り返し読んでいます。自己犠牲のお話なのですが、自分も同じことができるかなと思いつつも、そうできるように生きていきたいと思わせてくれる一冊です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
漫画『鬼滅の刃(きめつのやいば)』が大好きで、主人公・炭治郎が耳につけている花札の耳飾りをつけています。
Infomation
舞台「明治座の変 麒麟にの・る」に出演!
令和元年。きりんと飼育員が人を探しているところに居合わせた青年は、「竹中半兵衛になって」という意味の分からないお願いをされ、気づくと戦国時代へタイムワープしていた――。演劇製作会社「る・ひまわり」と創業145年を超える東京最古の老舗劇場「明治座」が、2011年から「年末“祭”シリーズ」と題し、歴史の「もしも」に着目して独特なオリジナル解釈による“歴史エンターテインメント時代劇シリーズ”を上演。今回は本能寺の変をテーマに、今まで見たこともない“トンデモ設定”の新たな物語を繰り広げる。信長の妻・帰蝶を演じる椿鬼奴さんも「奇想天外な時代劇を笑ったり泣いたりしながら楽しんでください」と語る。ちなみに第2部では、歴史上の人物になりきった若手俳優たちがミュージカルやライブなどさまざまな出し物に挑戦。
日程:19年12月28日(土)〜31日(火)
出演:平野良、安西慎太郎、椿鬼奴、辻本祐樹、粟根まこと、凰稀かなめ(特別出演)ほか
公式サイト:https://le-hen.jp/