第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.214 俳優 大谷亮平
自分を知るために必要な挫折があった
Heroes File Vol.214
掲載日:2020/4/17
俳優として日本で活動を始めたのが35歳の時。それまでの12年間は韓国で活躍していた。
大谷亮平さんは日本のテレビドラマ界に彗星(すいせい)のごとく現れ、瞬く間にお茶の間の人気者となった。
そんな大谷さんが韓国で学んだこと、そして日本にやって来てどんな思いで仕事に取り組んでいるのかということを、誠実な語り口で話してくれた。
Profile
おおたに・りょうへい/1980年大阪府生まれ。2003年から韓国でモデル・俳優として活躍し、16年から日本での活動を開始。20年5月15日(金)から放送開始予定のWOWOWオリジナルドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』(毎週金曜深夜24時〈土曜午前0時〉~)で主演する。
端正にして精悍(せいかん)なルックス。今、人気を呼ぶ俳優・大谷さんが、2020年5月15日(金)から放送予定のWOWOWオリジナルドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』で主演を務める。中世ヨーロッパのような異世界の古都で居酒屋を営む、寡黙で料理一筋という職人気質の大将役。「毎回、強烈なキャラクターが登場するので、彼らを引き立て、ドラマ全体に安心感を持たせるのが大将の役目。そう思って演じました」
でも大谷さんは、自身の少年時代はこの役とは対照的なタイプだったと笑う。バレーボール一筋で、実力もあり早くからエースとして注目されていた。「今思うと恥ずかしいのですが、中学のころは自分が一番だとうぬぼれていました」。高校時代は国体に出場し、大学もスポーツ推薦。だが、高校、大学と進むにつれ、明らかに自分よりも力のある選手がいることが分かってくる。自分はプロになれないと認めざるを得ず、鼻をへし折られた気分だった。
「でも、お陰で弱い立場の人の気持ちが分かるようになり、自分を過信することもなくなった。僕にとって必要な挫折でした」。とはいえ将来ほかにやりたいこともなく、会社勤めもイメージがわかず就職活動はしなかった。そんな時、アルバイト先の先輩に誘われて始めたのがモデルの仕事。「ファッションショーのイメージしかなかったのですが、チラシや車内広告の仕事もあるよと聞いて、それならできるかなと」
それが思いがけない転機を引き寄せる。韓国で出演したCMが評判を呼び、やがて韓国の芸能事務所から声が掛かって、拠点を移して活動することになったのだ。「住居も語学学校もすべて用意されていたので僕は身を任せるだけでよかった。だから不安もなければ、体一つで挑戦だみたいな気負いもなかった。ただ、せっかくもらったチャンスだから必死に頑張ろうという気持ちはありました」
韓国では約12年間、俳優として活躍。数々のドラマや映画に出演し、知名度と共に人気も上がった。しかし、同国で俳優を続けることに次第に限界を感じていく。「ネイティブではないので役がどうしても限られてしまう。やりたい役ができないことがもどかしかったですね」。そろそろ母国語で演じてみたいという気持ちが芽生えたころ、声を掛けてくれたのが現在所属する事務所だった。
もちろん韓国での生活は今の自身を彩る大切な経験だ。「バレーボールが第一なら、第二の人生となったのは韓国での活動。俳優として育ててもらっただけでなく、人や状況をよく見て判断する力や、人が何を考えているのかを察する力が身に付きました」
後で悔いないよう若いうちに恥をかく
韓国で活躍し、16年から日本で俳優活動を始めて、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で一気にブレークした大谷さん。その後、「まんぷく」「ノーサイド・ゲーム」など数多くのドラマに出演し、着実に実力を伸ばすと共にお茶の間での認知度も上げていった。
韓国で12年間俳優として活躍してきたが、日本での芝居経験はゼロ。「逃げ恥」に出始めたころは、日本語でセリフをどう言えばいいのか全然分からなかったという。「ラクに演じればいいからと言われても、それができない。よく『(芝居が)重い』と注意されました。だからこそ場数を踏みたかった。理屈で考えるよりもまず、経験として日本の撮影現場の雰囲気や進め方、俳優としての立ち居振る舞いを自分の体になじませていくことが、今後のためには必要だと感じたんですね」
幸運にもたくさんの作品に出演する機会に恵まれ、一つひとつの作品から得た経験が自分の血となり肉となった気がすると語る。そしてまた、韓国でも日本でもさまざまな人との出会いがあって、それも俳優になってよかったと感じることの一つだという。「僕は人の縁によって次の道へと導かれてきました。いい出会いに恵まれていると実感してます」
20年5月から始まるWOWOWオリジナルドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』の監督・品川ヒロシさんもその一人だ。「正直、お笑い芸人さんというイメージだったのですが、現場では、伸び伸びとやらせてくれながら役者の力を引き出すという演出でした。素晴らしい監督です」
20年は初めて舞台にも挑戦、ますます俳優としての力を磨き、蓄えていきたいと考えている。「存在感のある役者になりたいのですが、それが演技力で成立するものなのか、それとも普段の生き方から出てくるものなのかはまだ分からない。だから、いろいろと経験しながら自分なりの答えを探していきたいです」
20年に40歳を迎える大谷さんが唯一後悔しているのは、「若いうちにもっと恥をかき、失敗しておけばよかった」ということ。「実は僕、かなり慎重な性格で、かつ理屈で物事を考えるタイプなんです。だから失敗を恐れて回避してしまったことが多々ある。あの時聞いておけばよかったと思うこともたくさんあります」
自戒を込めて若い人には「一日くらいはウジウジ考えてもいいけど、その後はすぐ動こう」と伝えたい。失敗しても恥をかいても、それは絶対、後の自分にプラスになるからと。大谷さんは、言葉を選びながら分かりやすくゆっくりと話す。真っすぐなまなざしの向こうに光るのは、優しさであり、誠実さだった。
ヘアメイク:MIZUHO(Vitamins)
スタイリスト:伊藤省吾(sitor)
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
人生を楽しみたいという欲があるので、やっぱり自分が興味のあることを仕事にしていると思います。具体的な仕事を挙げるとしたら、バレーボールの監督。チームを作り上げていくというようなことをやってみたかったです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
辻仁成さんの『愛のあとにくるもの』です。小説家を目指す日本人男性と韓国からの女性留学生とのラブストーリー。男性目線と女性目線で描かれていて、国や文化の違いによる心のすれ違いについてすごく考えさせられた作品です。韓国にいる時に韓国人の友人がくれた本でした。ちなみに女性の視点は韓国で有名な作家・孔枝泳(コン・ジヨン)さんが書いているという、コラボレーション小説です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
いわゆる願掛けはしないのですが、気合を入れるため、何か大事なことがある日は行きつけの焼き肉屋さんでがっつりと焼き肉を食べます。
Infomation
WOWOWオリジナルドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』に出演!
シリーズ累計発行部数300万部突破のノベルズで、アニメ版も全世界累計視聴数2000万回を突破。そんな人気作が実写化され、2020年5月15日(金)からWOWOWプライムにて放送を開始する。中世ヨーロッパのような異世界の古都・アイテーリアになぜかつながってしまった、居酒屋「のぶ」を舞台にした新感覚グルメドラマ。大谷亮平さんは食を愛する寡黙な料理人、「のぶ」の大将・矢澤信之を演じる。「異世界で暮らす兵士や職人、商人、貴族などが店を訪れ、おいしい料理とお酒で幸せな時間を過ごします。うるっと泣ける温かなエピソードもありますよ。食の大切さを実感できるし、何よりみんな本当においしそうに料理を食べるので結構食欲をそそられると思います」と大谷さん。登場する料理はどれも絶品なので、ぜひ居酒屋「のぶ」にいるような感覚で見て楽しんでほしいという。異世界の人々の舌をうならせる料理人を大谷さんがどう演じるか、乞うご期待。
放送時間:毎週金曜深夜24時(土曜午前0時)開始(全10話/第1話無料放送)
原作:蝉川夏哉『異世界居酒屋「のぶ」』(宝島社刊)
監督・脚本:品川ヒロシ
出演:大谷亮平、武田玲奈 ほか
特設サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/nobu/