第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.217 食育インストラクター/料理家 和田明日香
資格は自信と、人からの信頼を与えてくれた
Heroes File Vol.217
掲載日:2020/6/5
和田明日香さんは子供のころ、共働きの両親が夕食のだんらんの際に、ビール片手に互いの仕事の話をしているのをそばで聞くのが好きだった。何だか大人っていいなとあこがれたという。
そして今、3児の母で、食育インストラクター・料理家として活躍している。両親のように夫と語らうこともあるが、やはりまだまだ育ち盛りの子供たちが中心になることが多いとか。
そんな和田さんに、料理の世界に飛び込んだきっかけや仕事への思いなどを伺った。
Profile
わだ・あすか/1987年東京都生まれ。立教大学卒業。料理愛好家・平野レミさんの次男と結婚後、修業を重ねて食育インストラクターの資格を取得。現在は料理家のほか講演やコラム執筆など幅広く活躍。3児の母。新刊『和田明日香のほったらかしレシピ』が発売中。
屈託のない笑顔から気さくな人柄が伝わってくる。子育て世代を中心に人気のある、食育インストラクターで料理家の和田さん。これまで著書やメディアで紹介してきたレシピがどれも好評で、昨年暮れに発売した『和田明日香のほったらかしレシピ』もすでに増刷。そんな和田さんだが、実はその昔、料理にはまったく興味がなくて、キャベツとレタスの区別もつかないほど料理音痴だったというから驚きだ。
「もともと音楽が好きで、将来は音楽ビジネスにかかわりたいと思って大学時代は音楽専門の放送局でインターンをしていました。就職もレコード会社から内定をもらい、試用期間として卒業前から働いていたんです。でもその間に妊娠が分かって——それで母になることを選び、内定は辞退させていただきました」
すぐに結婚し、出産。その後も相次いで子供に恵まれ、いつしか3児の母に。和田さんの食への意識が変わったのは、そのような子供の存在と、結婚相手の母親が料理愛好家の平野レミさんだったことが大きかった。
「子供をちゃんと育てるにはさすがに料理ができないとまずいだろうなって。でも、あまりにもできなさすぎてレミさんに習うなんて考えられず、レミさんのレシピを見ながら調理して覚えました。それで料理のイロハみたいなものが何となく分かり、その段階で初めて料理が全然ダメなことをカミングアウト。そうしたらレミさんは『そんな人がいるんだねー』と笑い飛ばしてくれたのでホッとしました。そこからですね、教わるようになったのは」
最初にレミさんの仕事場を訪れたのは第1子を産んで1年経ったころ。「離乳食の本を作るから現役の声を聞かせて、と私を打ち合わせの場に呼んでくれたんです。そこから嫁が面白いらしいという評判が広がり、レミさんの仕事場へ行く機会が増えていきました」
本格的に仕事を始めたのは3人目の出産後だ。「レシピ本を出さないか」という依頼があった。「家族から『おいしい』と言ってもらえるぐらいのレベルにはなっていましたが、さすがに自分には無理だなと思っていたところ、自信がないんだったら資格を取ってみたらと夫がアドバイスをしてくれたんです」
こうして取得したのが食育インストラクターの資格。「子供の孤食やフードロスなど、色々な社会問題を知ることができたことが収穫です。食材を使い切るレシピを考案したりして、以前とは違った視点を持つようになりました」。加えて「レミさんちの嫁」ではなく食のプロとして信頼されるようになり、一人で受ける仕事も次第に増えていった。
初心を忘れないことで自分らしさを引き出す
和田さんは3人の子供を育てながら、食育インストラクターとしてレシピ本を出版するほか、テレビや雑誌、情報番組への出演、コラム執筆など多方面で活躍している。
実は、子育て中であることが今の仕事に大いに役立っているそうだ。「子供は、例えばある時期からすごくたくさん食べるようになったりとか、その食生活って成長と共に日々変わっていく。じゃあ、なるべく食材費をかけずに満足感のある夕食にするにはどうしようかなって考えることが、そのまま新しいレシピのヒントになったりすることも多いんです」
仕事も子育ても、和田さんにとっては両方大切なもの。「子育てがちゃんとできていないと仕事にも集中できない」とフルに働き始めてから気づいたという。「そのため仕事は午後5時までと決め、その後の時間は子供たちと一緒に夕食を食べてお風呂に入るといった感じで家族と過ごすようにしています」
そして、しゅうとめであり料理家の大先輩でもある平野レミさんの存在は大きな原動力だ。例えばレシピ開発の依頼が重なって忙しくなると、「これはこれとして置いといて、早く次のものに取りかからなければ」と考える時がある。「でもレミさんなら時間がなくても納得いくまで何度も作り直してレシピを考えるだろうなって。それでつい私も妥協せず頑張ろうと自分を奮い立たせるようになるんです」
レシピを考える際に大事にしているのは、あくまで自分らしさのあるものを生み出すこと。「どんどん難しい料理に挑戦し、料理家としての道を窮めるという生き方もあると思います。でも私は、初心を忘れず、まったく料理ができなかったころの自分に向けてレシピを考えるように心掛けているんです。昔の私みたいに料理が苦手な人や、子育てに追われて気持ちに余裕がなくなっている人に、『大丈夫! まずはこれから作ってみない?』と寄り添える料理家でありたいなって」
そのためにも、今は目の前の仕事一つひとつに丁寧に取り組むことを大事にしたいと語る。「どんな仕事でも必ず好きになれる部分がある。それを見つけてとにかくやり続けると、何かしらつかめるものがあるはずです。私がまさにそう。料理もやり始めたらどんどん楽しくなって、そして今があるという感じです」
和田さんは子供のころ、その時々を楽しめるような大人にあこがれていたという。もともと料理の仕事を目指していたわけではない。それでも第一線で活躍できているのは、その瞬間を最高に楽しいひとときにしようと大切に生きているからだろう。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
就職の内定をもらっていたのは音楽会社でした。だからおそらく音楽関係の仕事に就いていたと思います。表舞台に立つ方ではなく、裏方として“音楽を届ける”ということをしていたんじゃないかな。
人生に影響を与えた本は何ですか?
レミさんからもらった『ひとりひとりのお産と育児の本』です。著者の毛利子来さんはレミさんも私もお世話になった小児科医。いい意味でゆるい育児書なんですが、産後のつらい時に「暮らしは、力や規律でなく、ずれがありながらも気心を通じさせようとするところに成立するものです」という言葉を読み、子育てのプレッシャーから解放されました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
フライパンです、ずばり「レミパン」(笑)。もはや私の“相棒”です。仕事でもプライベートでもレミパンだと上手に作ることができます。疲れていて料理をする元気が残っていない時でも、レミパンを握ると「よし! 何か作るぞ」という気持ちになるんです。
Infomation
新刊『和田明日香のほったらかしレシピ』が発売中!
2019年12月に新刊『和田明日香のほったらかしレシピ』が辰巳出版から刊行された。実際、調理の際に自分でやるのは、タレにつけることや材料を切って調味料をまぶすことなどシンプルな工程のみ。仕込み5分、ほぼ2ステップで完成してしまう。しかも、おいしくなる秘訣(ひけつ)は“ほったらかしにすること!”。「レシピを考える時はいつも、まったく料理ができなかったころの自分に届けるような気持ちで作っています。この本に出てくるレシピは、テクニックなどなくても誰でも失敗なく簡単に作れるものばかりです」と和田さん。日常のおかずから、ササッと作れるビールのおつまみ、ちょっとしたパーティーに出せる料理まで気軽に作れる56のレシピが紹介されている。「この本に登場するレシピを基に、そこから自分の家庭ならではの味を作り上げていってもらえたらうれしいです」