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第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

Vol.240 お笑い芸人 岩井勇気
誰も手を付けていない隙間にあるものを探す

掲載日:2021/10/29

岩井勇気さんの写真1

お笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気さん。相方の澤部佑さんがバラエティー番組やドラマなどテレビを中心に活躍しているのに対し、岩井さんはテレビのみならず、ゲームの原作・プロデュース、漫画原作、エッセーの執筆など色々な分野で幅広く活躍している。
しかし主軸は、ハライチとして澤部さんと共にお笑いをやることだという。
そんなお笑いへの熱い思いを伺っていたら、岩井さん独特とも言える、物事に対する取捨選択のスタンスの話も出てきた。

Profile

いわい・ゆうき/1986年埼玉県生まれ。澤部佑さんとお笑いコンビ「ハライチ」を結成し、2006年デビュー。19年に自身が出した初エッセー集『僕の人生には事件が起きない』がベストセラーに。第2弾エッセー集『どうやら僕の日常生活はまちがっている』を21年9月に刊行。

お笑いコンビ「ハライチ」のボケ担当の岩井さん。2019年に出版して累計発行部数10万部(電子版を含む)突破のベストセラーとなった初エッセー集『僕の人生には事件が起きない』に続き、21年9月、第2弾『どうやら僕の日常生活はまちがっている』を刊行した。

「前作同様、30代独身、一人暮らしの自分のどうでもいい日常をつづっているだけです」と語るが、その文章の切れ味は鋭く、独特の視点と想像力によって肉付けされていて、ありふれた日常の面白がり方が絶妙だと好評だ。「大事件がなくても小さな事件は誰にでも起きています。非日常を求めなくても起きたことを面白がればいい。苦しいことも客観的に捉えれば笑いに変えることができるんです」

ハライチの相方・澤部佑さんは4歳からの幼なじみ。中学の頃には、もう一人の友人も含めて3人でお笑いをやろうと決めていた。だが、高校卒業間近になってその友人が「大学へ行くから」と抜け、岩井さんと澤部さんは2人で今の所属事務所が主催するオーディションを受けることになる。そこでグランプリを獲得し、特待生として養成所へ入学。そして数年後には漫才日本一決定戦「M-1グランプリ」の準決勝に進み、翌年には決勝進出を果たす。

岩井勇気さんの写真2

「下積みもわずか3年で、挫折経験もないまま運良く22歳の頃にはテレビのネタ番組に呼んでもらえるようになっていました」 ハライチがブレークするきっかけとなったのが「ノリボケ漫才」。岩井さんがお題のフレーズを振ると、澤部さんがツッコミを返さずひたすら乗っかり続けるという新スタイルの漫才だ。これを編み出したのはネタ作りを担う岩井さんである。

「眠気でうつらうつらしている時にひらめきました。ノリボケ漫才は30秒から30分まで伸縮自在で汎用(はんよう)性があってなかなかいいんです」。何度もお客さんの前でネタを披露し、ブラッシュアップさせながら自分たちの漫才を確立していくやり方もある。しかし岩井さんは、この一つのひらめきに賭けたという。

「一か八かで勝負するのが好きなんです(笑)。確かにお笑いには歴史があるし、正統な漫才スタイルもある。でも、誰も気づいていない隙間に、まだ新たな笑いの火種があると信じているんです。それを見つけて人を驚かせたいと思いながらこの仕事をしていますね、昔も今も」

ほかの芸人が今までにない新しい価値観の漫才やコントを披露すると、「ああ、こいつが第一発見者になっちゃった」と悔しい。と同時に、それはたまらなく楽しい瞬間でもあるそうだ。

ストレスをてんびんにかけ、苦でないほうを選ぶ

岩井勇気さんの写真3

お笑い芸人の枠にとどまらず、ラジオのパーソナリティーからゲームのプロデュース、漫画の原作、音楽、ドラマ出演、そしてエッセーの執筆まで多方面に活躍の場を広げている、お笑いコンビ「ハライチ」の岩井さん。以前は相方・澤部さんの屈託ない明るさに押され、ややその存在感も薄めだったそうだが、最近はこうした活躍ぶりからじわじわと注目度も高まり、世代を超えて支持されているようだ。

ただ岩井さんは、やはりお笑いが最優先事項だと言い切る。「芸人の定義ってあやふやなんですが、僕はネタさえやっていればお笑い芸人だという捉え方。それができていれば後は何をしてもいいというスタンスです」

例えば21年、2冊目のエッセー集『どうやら僕の日常生活はまちがっている』を出したが、お笑いの仕事には一切触れなかった。「お笑いはほかの仕事とは異なり、僕にとっては別格。だから安直にエッセーのネタにはしたくなかった」。そういう考えが根本にあるが故、「ネタを披露する仕事よりギャラの高いイベントを優先させる芸人をたまに見かけると、『まずはネタをやれよ』って思ってしまうんです」。

この歯にきぬ着せぬ、何でも思ったことをスッと発言するところもまた、岩井さんらしい魅力として最近支持されているゆえんだ。そう伝えると「世間が自分をどう見ているかなんてどうでもいいんです」と一言。「確たる信念があるわけでもないので。人って、自分を貫き通すのはしんどいことでほかの人に合わせるほうがラクだと思っている。でも僕はまったく逆です。自分を曲げてまで人に合わせるというのがストレス。僕が思ったことを言って、それに対して『そんなこと言うなよ』とムカつかれるほうが、実はストレスが少ないんです」

人生には二者択一がつきもの。どちらかを選んで次へ進んでいる。「その際どちらがうれしいかではなく、どちらにストレスを感じるかとてんびんにかけて考え、自分にとってストレスがないほうを選んでいます。そのほうが、うまくいかない場合でも、少なくとも最悪なストレスを受けずに済んでいるので後悔はないと思う」

そんな岩井さんと対照的なのが、相方・澤部さんだという。性格も好みもまったく異なるものの「お互いの許容範囲を知り尽くしているので、漫才をやっていても安心なんです。自分だけではなくハライチとして笑いを取りたい。その意識は年々強くなっていますね」

21年は漫才日本一決定戦「M-1グランプリ」に4年ぶりに出場。「コロナ禍でネタをやれる場が少なかったので」と岩井さんは意気込む。どんなネタを見せてくれるか期待したい。

ヒーローへの3つの質問

岩井勇気さんの写真4

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

絵を描いていたと思います。たぶん現代アートとかやっていたでしょう。正攻法ではない表現方法を、どこかで見つけようとしていると思います。

人生に影響を与えた本は何ですか?

「Sonny Boy -サニーボーイ-」というテレビアニメです。本はまったく読まないのですが、アニメは結構見ています。ただ割と物事をよく考えるほうなので、その作品の構造や法則を見つけようとしながらアニメも見てしまいがちなんです。でもこの「Sonny Boy」にはすごくワクワクさせられて、分析するのをまったく忘れてしまうほど不思議な魅力がありました。オチや伏線回収なんて気にせず、純粋に作品に没頭していた初心の頃を思い出すアニメです。

あなたの「勝負●●」は何ですか?

漫才の大きな大会でネタを披露するなど、ここぞという大勝負の時は「一か八かケンカを売ってやろう」と思って挑みます。それで大スベりすることもありますが、自分の気持ち的にはすがすがしいので。

Infomation

エッセー集『どうやら僕の日常生活はまちがっている』が発売中!

のどに刺さった魚の骨に悶絶(もんぜつ)したり、スピーチを頼まれた同級生の結婚披露宴をすっぽかしたり、地球最後の日に食べる物をひたすら想像しながら“寅さん映画”に突然涙したり……。独特の不適な笑みを浮かべながら、ハライチの岩井勇気さんは平凡な毎日に一撃を食らわせる——。累計発行部数10万部(電子版を含む)を突破した初エッセー集『僕の人生には事件が起きない』に続き、2021年9月28日に第2弾『どうやら僕の日常生活はまちがっている』(新潮社/1,375円〈税込み〉)を刊行! 初の小説作品も収録している。「本嫌いな人が『それでも一冊読め』と言われたら、僕の本を選んでほしい。僕自身も本をほとんど読まないので、極力、労力を使わずにスイスイ読めるように書いていますから」と岩井さん。それほど易しいエッセーだが、読めば視野が変わるかも。

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