最近、銀座の刃物店では、欧米人の料理人らしき人が、長い時間をかけて包丁を選ぶ姿をよく目にします。彼らは「日本の包丁は切れ味がいい」と言いますが、それもそのはず、日本の刃物は世界に誇る日本刀の技術が綿々と今も受け継がれているからなんです。
刃物だけではなく、陶磁器や鉄器、織物など日本の技術が今世界的にも見直されています。そして、東京や各地の観光地で急増している外国人観光客(インバウンド)に人気を集めている物の一つが伝統的工芸品。アニメや食文化と共に「クールジャパン」と称されて海外で人気があり、政府も観光資源として積極的な活用を検討しているのです。
では、数ある日本の伝統技術のなかで多くの人に評価されているのはどれ? というわけで伝統技術の魅力ランキングを作成してみました。
ランキングは「地域ブランド調査2016」における、1,000の市区町村ごとに「優れた伝統的技術がある」と評価された率(%)でランキングにしました。
伝統工芸の魅力ランキング
1位 伊万里焼、2位 輪島塗
見事1位となった伊万里市は、最高級の磁器である伊万里焼の産地。かつては有田焼も含めた輸出用磁器全体を「伊万里焼」と呼んだこともありました。江戸時代から明治時代には、欧州で伊万里焼が大ブームとなって、これを手本に欧州で白磁が作られました。その一つが世界最高峰と呼ばれるドイツのマイセンなんです。
第2位の輪島市の伝統的な漆器「輪島塗」は、下地塗に「地の粉」と呼ばれる珪藻土を漆に混ぜて木地に塗りこませ、お椀の上縁などに布を貼って補強しているのが特徴ですね。
輪島塗の工程はすごく複雑で、完成まで20工程100以上の手数を要するんだとか。ちなみに、輪島市では小学校の給食に輪島塗の食器を使用しているんだそうです。うらやましいですねぇ~。
3位 京都市…… 織物や器など目白押し
京都市には、伊万里市や輪島市と違ってたくさんの伝統技術があるのが特徴です。
特に多いのが染織で、西陣織や京友禅のほか、京小紋、京くみひもなど日本の和服文化を代表する伝統技術があります。海外では西陣織の帯をインテリアとして飾るのが大流行のようで、外国人観光客は京都観光でリサイクルショップやガレージセールなどを回って、古着を買い求める人も多いとか。
そのほかには京焼・清水焼、京漆器、京扇子、京人形など国内外で人気の高い商品が目白押しです。
伝統工芸の魅力ランキング11以下のランキング
「JAPANブランド」今治タオル
今治市と言えばタオル。明治12年に四国で初めてのキリスト教会が今治に設立され、西洋人が持ち込んだ商品を手本に今治でタオルの製造が開始されたのです。大正時代に高級なジャカード織りが導入されて、生産額も急拡大したのですが、平成になると外国産の安価なタオルに市場を奪われて出荷額が急減してしまいました。
そこで、平成18年にデザイナーの佐藤可士和氏が加わった商品開発や、外国産タオルとの品質の違いを前面に打ち出した「JAPANブランド」の取り組みが開始され、みるみるうちに人気急上昇。今では「今治タオル」は誰もが知っている地域ブランドになっています。
ちなみに、燕市の金属洋食器、鯖江市のめがねなども、伝統的な地場産業をブランド化しようという「JAPANブランド」の取り組みです。
天童市の急上昇は、将棋ブーム?
上位ランキングの中で急上昇したのは天童市。将棋駒と温泉のまちとして知られていて、現在でも将棋駒の多くがこのまちで生産されているのです。4月下旬の天童桜祭りで行われる「人間将棋」は一見の価値があります。よろいや着物姿の人が駒となり、プロ棋士の指し手に従って、巨大な将棋盤の上で戦うというもの。NHKで放映された、主人公が棋士の人気アニメでも紹介されましたが、どうやら天童市の上昇はこのアニメの影響が大きいようです。
伝統技術の認知度と購入率は必ずしも一致しない?
ランキング上位10市を、横軸に「優れた伝統的技術がある」と評価された率(評価率%)、縦軸には具体的に購入したい商品名が記述された率(購入率%)をとった象限図にプロットしてみました。すると、A~Dの4つのグループに分かれました。
Aグループは評価率も購入率も高くなっているケースで、輪島市と伊万里市が該当しました。Bグループは評価率より購入率のほうが高いケースで、上位では今治市だけでした。
Cグループは評価は高いが購入率はあまり高くないケースで、京都市と金沢市。いずれも複数の伝統工芸品がひしめきあっている市です。Dは評価率も購入率もそこそこというケース。なお、11位以下の市区町村は大半がDグループにプロットされましたが、他産地との差別化や、購入(実売)につながる商品化が、地域の活性化には不可欠のようです。
博士のトリビア
―「市区町村ランキング」では見えてこない人気伝統工芸品―
南部鉄器や熊野筆のように、国内外で人気のある伝統的工芸品でありながら、上位のランキングには名を連ねていないものもあるようじゃ。例えば南部鉄器は、岩手県の伝統的な鉄器じゃが、青や赤にデザイン化された急須がフランスで大ブームになったのは記憶に新しいのぉ。熊野筆は世界の一流の化粧品ブランドで「化粧筆」として採用されて、いまや国内外の女性に大人気。
そのほかにも甲州印伝、九谷焼、江戸切子、信楽焼などもそうじゃが、これらは広い地名が名称になっているため、市区町村のランキングには現れてこないが、人気は確かにあるようじゃ。
京都、石川が両雄。
都道府県ごとの「優れた伝統的技術がある」のランキングを作ってみました。その結果、1位は京都府で、2位は石川県。石川県は輪島塗のほかにも、金沢金箔、加賀友禅、九谷焼などたくさんの伝統的工芸品があり、3位以下を大きく引き離しています。
ジモーちゃんのつぶやき(・o・)
各地にたくさんの伝統工芸があって、海外や観光客に人気になっているというのだから、日本の人が気づいてない価値がまだまだあるんだね。
でも、若手の職人が減少し、職人が高齢化してしまって、技術が伝承できずに絶滅してしまいそうな産地が多いのが問題となっているって聞いたよ。伝統の技術を学べて、世界中から注目されるのであれば、ぼくもぜひやってみたいなぁ。
みんなも、ぜひ一緒に産地に飛び込んでみてはどうかなぁ。
市区町村ランキングの説明
「地域ブランド調査2016」は、1,047の地域(1,000市区町村及び47都道府県)を調査対象とし、全国3万人が各地域のブランド力を徹底評価する日本最大規模の消費者調査です。2006年に調査を開始、毎年実施し今回で11回目の実施となります。
調査はそれぞれの地域に対して魅力度、認知度、情報接触度、各地域のイメージ(「歴史・文化のまち」など14項目)、情報接触経路・コンテンツ(「旅番組」など経路14項目、「ご当地キャラクター」などコンテンツ9項目)、観光意欲度、居住意欲度、産品の購入意欲度、地域資源の評価(「街並みや魅力的な建造物がある」など16項目)などを質問。また、出身都道府県に対する愛着度、自慢度、自慢できる地域資源など出身者からの評価などを調査しています。
市区町村の調査対象はすべての市(790)、東京特別区(23)、それに認知度がある程度高く、地域ブランドへの取り組みが積極的な町村(187)の計1,000市区町村です。
マイナビ転職 編集部
執筆:ブランド総合研究所
(http://tiiki.jp/news/survey2016)