無謀な夢を公言してみる
朝井:ずっと高橋さんのファンで、テレビのオーディション番組「ASAYAN」に出演されたころから見ていました。高橋さんはダンスも歌も素晴らしく、どこで一時停止しても姿勢がパシッとキマって美しいですよね。
高橋:そんな風に言っていただけてうれしいです。
朝井:どうしてまた、モーニング娘。に入ろうと思ったのですか?
高橋:タカラジェンヌにあこがれていましたが、身長が伸びず諦めました。モーニング娘。も最初は遠い存在。でも一つ違いの後藤真希さんが加入したのが衝撃と言うか、自分の意識も少し変わって。
朝井:ちょっと身近に感じられた?
高橋:そう。ただ私の地元、福井は「ASAYAN」が4週遅れの放送でなかなかオーディションに応募できなかったんです。それが中2の時、5期の応募を偶然新聞で知り、テレビ局に問い合わせをしたら「締め切りは明日です」と。慌ててカラオケボックスに行き、曲を録音して郵送。当日消印有効だったので何とか間に合いました。
朝井:受かる自信は……?
高橋:全然なかったです。ただ、最終審査直前まで行き、これに合格したら上京、という段階になって、初めて「父を説得しなくちゃ、どうしよう」となって。そうしたらなぜか私、父に向かって「ゴマキ(後藤真希さん)を抜くから」と宣言していたんです。
朝井:かっこいい!
高橋:いや、とっさにそんな言葉を発した自分が怖かった。でも一次二次審査と受かっていくうちに、モーニング娘。に入りたいという気持ちが自然に高まっていたんでしょうね。朝井さんはなぜ作家になられたのですか?
朝井:中2の時、綿矢りささんが19歳で、金原ひとみさんが20歳で芥川賞を受賞されたんです。大人の世界だと思っていた文壇に同じ10代の人が居ることに衝撃を受け、僕も19歳までにあそこへ行きたいと。僕にとってのゴマキが綿矢さんと金原さんだった。
高橋:実際19歳で『桐島、部活やめるってよ』で作家デビュー。有言実行、すごいですね。この本で高校生を題材にされたのはなぜですか?
朝井:14歳の時、僕の書いた小説を姉に読んでもらったら「キモイ」と(笑)。そして「子どもが背伸びをして大人の世界を描いても人の心に届かない。身の回りのものを書いた方が絶対いい」と言われた。それが僕の原点。だから、目の前にあった学校生活を描くことにしたんです。
高橋:そうして作家になったのに、大学卒業後は一般企業に就職されますよね。
朝井:小説を書くことと就職は僕にとって別次元のものだったからです。賞をもらったからといってその先、小説だけで食べていけるとも思えなかったし、好きな小説でお金をもらうことに後ろめたさもあった。それで在学中は普通に就職活動をしたんです。
人と人の間で自分に何ができるか
高橋:就職先はどんな基準で選んだのですか?
朝井:作家活動との両立を前提に、最初は働く時間に余裕を持てるという条件で会社を探しました。そんな時、またも姉に「新卒採用ほどなんだかんだと会社を選べるチャンスはもうないから、消去法で選ぶのはやめた方がいい」と助言され、時間の余裕のことなどは考えるのをやめて直感で選びました。
高橋:重要な場面で的確なアドバイスをくれるステキなお姉さん! 結局、作家と会社員の二足のわらじを約3年間続けられた。相当大変だったのでは?
朝井:体力的にはきつかったけれど、貴重な経験でした。作家という夢がかなったとは言え、まだ若いし社会経験も少ない。自分は何もできない存在だと毎日きちんと確認していたかった。会社では、新卒者なんて無条件に一番下。お客さんが来たらお茶を出し、早く電話を取れと言われ、雑用を頼まれる。直木賞とか関係なくそれが当たり前であり、日常でした。そういう当然のことを忘れずにいられたので就職して本当に良かったです。高橋さんはモーニング娘。に約10年間在籍し、リーダーも経験されていますよね。
高橋:私は決してリーダータイプではないんです。後輩を叱るのも本当にしんどくて、毎回泣きながら怒鳴っていたので、かえって「愛ちゃん、大丈夫?」って心配されて。特に中国人メンバーが加わった時なんて大変。どう思いを伝えていいのか分からず、他のメンバーと役割分担して、モーニング娘。を嫌いにならないような指導を考えたりしていました。
朝井:リーダーとして人をまとめるって確かに大変。貴重な経験だったのでは?
高橋:そうなんです。私、集団行動が苦手で一匹狼(おおかみ)だったのですが、周りに目を配る力がついて、調子が悪い子には「今なら大丈夫だから脇にハケな」って言ったり。周囲を見て行動するのが癖になり、最近はミュージカルなどで、どんなチームに入っても人間関係はスムーズです。グループでやってきたことが役立っているなって実感しています。
朝井:僕が会社に入って痛感したのは、全員が人と人の間に居る存在で、そこで調整役となって円滑に物事を進めていく力こそが会社員には必要なんだってこと。かつ、人と人の間に居る自分に何ができるかを考え続けることが仕事では大事なんだって分かりました。
高橋:人と人の間で役割を全うするのが仕事。
朝井:英語が話せたりなど分かりやすい力が必要な時もあるけれど、例えば会議の開始時間が変更になっても会議室が使えるように周囲と調整できる人が、本当の意味で仕事ができる人なのかな、と。そういう社会人スキルを高橋さんはモーニング娘。に在籍した10年間で習得された。話を伺いながらそう感じました。
(続きは9月18日(金)公開の後編で)
リーダーが語る、アシタを開く言葉
朝井リョウさん
「同じ人なら踊ろぜワイヤイ」
モーニング娘。のシングル曲『恋のダンスサイト』のワンフレーズ。「♪そうよ 人生はカーニバル 踊る人に見てる人」に続くこのフレーズを初めて聴いたのは、思春期。体育祭を頑張るのってちょっとダサイとか思い始めかねない年ごろでした。でも、この曲を聴き、直感的に「自分は踊る人でありたい」と思った。更に言えば、「読む人より書く人になりたい」と。このフレーズのお陰で今があると言っても過言ではありません。
高橋愛さん
「夢」
知り合いに40代になっても夢を持ってキラキラに輝きながら自分の道を突き進んでいる人がいるんです。年だからといってあきらめずにそうやって生きられる人って素敵。かっこいいなあって思う。私も夢を持ち前へと突き進んでいきたいと思っています。ちなみに、私の一番の夢はいつかハリウッド映画に出ること。口に出して言うことで自分を追い込んでいます(笑)。
キボウノアシタ読者プレゼント
下記のボタンよりキボウノアシタ読者プレゼントへ応募できます。アンケートにお答えいただいた方の中から、抽選で1名さまに朝井リョウさん、高橋愛さんの限定サイン色紙をプレゼントいたします。
応募締め切り:
2015年10月1日(木)23:59
※当選者の方には、当選のお知らせと景品送付先の確認のため、入力いただいたメールアドレス宛に締切後1週間以内にご連絡させていただきます。当選の発表はこのご連絡をもってかえさせていただきます。
※ご入力いただいた個人情報は、当選者への連絡、景品(賞品)の抽選・発送の目的以外で使用することはありません。
※ご応募はお一人さま1回限りとなります。
朝井リョウ
作家。1989年岐阜県生まれ。2009年早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』(集英社)で第22回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。12年同作が映画化され注目を浴びる。13年『何者』(新潮社)で戦後最年少で第148回直木賞を受賞。14年『世界地図の下書き』(集英社)で第29回坪田譲治文学賞受賞。最新刊は『武道館』(文藝春秋)。
高橋愛
女優/モデル/モーニング娘。OG。1986年福井県生まれ。2001年モーニング娘。のオーディションに合格して5期メンバーとして加入。07年からリーダーに就任し11年に卒業。卒業後は舞台、ドラマ、バラエティーなどのほか、抜群のファッションセンスを生かし、モデルとしても活躍。待機作に2016年春公開『星々の約束』。