仕事への覚悟が自分を本物にする
草刈:柚希さんが2015年宝塚歌劇団を引退された時、ラストステージは全国の映画館でライブ中継され、劇場前には約1万2,000人が訪れたそうですね。実際に映像で踊るシーンを拝見し、しなやかで柔軟な動きに見ほれながら、確かにこれだけの人を集めるオーラと素材をお持ちの方だなと納得しました。
柚希:草刈さんにそんなふうに言ってもらえて光栄です。
草刈:柚希さんも幼いころからバレエをされていたんですよね。私は8歳から始め、中学ではすっかりバレエ漬け。高校も中退し、それ以降はバレエ一本に絞りました。
柚希:すごい。中退して打ち込んだなんて。
草刈:皆と一緒というのが苦手で、学校が合わなかったのが私には良かったんです。ただ、やめたからには何が何でもバレリーナとして認められるようにならなければと。そのプレッシャーを10代20代とずっと抱えたままでしたね。
柚希:私は両親に「バレエで食べていくのは難しい」と反対され、米国へのバレエ留学を断念して宝塚に入りました。そこで既に一挫折したわけですが、宝塚を選んで良かったと今は思います。ずっとコンプレックスだった長身や広い肩、大きな手がすべて宝塚では「良し」と認められ、大きな自信にもなったし、男役で活躍できたので。
草刈:入団11年目という異例の早さで星組トップスター。相当、人並み外れた努力をされたと思うのですが。
柚希:トップを意識していたわけではなく、「あの人みたいに歌ってみたい、踊ってみたい」と先輩を目標に頑張り始めたら、どんどん楽しくなって上達もしていったという感じです。それと幼いころ通っていたバレエ教室で、一流を目指すなら楽しいだけではダメ、芸事は練習すればするほどうまくなるという感覚を厳しくたたき込んでもらったので、宝塚で学ぶバレエも茶道も日舞も、芸事すべてが面白く、ほかの子が弱音を吐くようなことでも私は頑張れました。それが良かったのかも知れません。
草刈:気持ちの切り替えがうまく、その都度ベストを出せるタイプなんですね。
柚希:草刈さんはバレエで食べていくのは大変と分かりつつも、あえて選ばれたんですよね。
草刈:どんな職業も同じだと思うのですが、その仕事で自分の生活を成立させることを目指さないと本物のスキルは身に付かない。だから、誰もが認めるプロの踊り手になろうと覚悟し努力してきました。幸いチャンスに恵まれ、バレエ団でも早くから主役を踊らせていただいた。それでも自分の生活状況を見て、これではまだ本物ではないと思っていました。それが変わったのは、30歳で映画『Shall we ダンス?』に出演した後です。世間に存在を知ってもらえたお陰でプロのバレリーナとしてのレールをようやく敷けた。世界での活躍の場も随分と広がりました。
そこでしかできない挑戦に魅力を感じる
柚希:草刈さんはプリマバレリーナとして国外の数々のバレエ団で踊っていました。
草刈:主役を踊っていたというのもあり、どこの国のバレエ団でも、どこか日本を背負い「負けてはいけない」という気持ちで臨んでいました。うまく踊ることより負けないためにどうするかしか考えていなかったかも(笑)。
柚希:すごい挑戦ですね!
草刈:今思えばかなり高いハードルでしたが、自分が望んだ挑戦であり、私の夢だったのでつらいと思ったことはないです。言葉も分からない国でたった一人、緊張の連続でしたが、そういう恐怖、不安ですら経験したいことだったので幸せだと感じていました。
柚希:そのメンタルの強さはどこから来るんでしょう。
草刈:いや、柚希さんも同じでしょう。舞台の真ん中にいる時の立ち姿を見れば分かります。そこにいるという喜びにあふれていますよ。スター性って、そういう恐怖にあえて挑む精神からも生まれてくるものだと思うんです。
柚希:草刈さんのプロ魂が格好良すぎて感動しているのですが、恐れながら確かに私もそうかもと共感する部分がありますね。宝塚のトップってスケジュールがかなりハード。でも、これは自分の望みであり、ありがたいことなんだと思っていた。やりたいことなのに、忙しすぎてやらされていると感じるようになったら危険だなと。
草刈:「そこでしかできない挑戦」に魅力を感じられるかどうかなんです。目指す到達点のレベルが上がれば上がるほど、自分で工夫しないと追い付けないから必死になる。でも、そこでひねり出そうとすることが自分の力を伸ばしてくれます。大変な時にしか身に付かないことや、大変なことを乗り越えてこそ初めて一人前になれることってある。上昇志向のある人はそこに魅力を感じられるのですが、守りに入ってしまう人だと自分の可能性も、味わえる喜びもそこ止まりになってしまいます。
柚希:今もその意識は変わらないですか?
草刈:基本的には同じです。ただ、今のほうが余裕ができ、視野も広がった気がします。踊っている時はとにかく目の前のことをやり切らなければ、という思いだけで突っ走っていたので。ほかは考えられなかった。
柚希:私も同じです。宝塚歌劇団にいた時、「どういう男役になりたいですか?」「夢は?」と聞かれるのが一番苦手で。というのも、目の前のことに必死で、それ以外のモチベーションってなかったんです。一つの作品を終えたら次の作品が目標になり、その中でああしたいこうしたいということを繰り返しながら今に至る、という感じでした。
草刈:やめた後こそ、人間的にどう成長するかや、今までの積み重ねが何だったのかが見えてきます。だから、柚希さんにとってもこれからが本当の挑戦かも知れないですね。
(続きは2月5日(金)公開の後編で)
リーダーが語る、アシタを開く言葉
草刈民代さん
「あきらめない」
若いころはうまくいかないことが多いのは当たり前。そこから逃げたり目を背けたりすると後々同じことを繰り返すことになり、結局何も見いだせなくなる。だからこそ、若いうちからあきらめないクセを身に付けることが大切です。
柚希礼音さん
「一生勉強」
草刈さんと対談させていただき、第一線で活躍している方は常に向上心を持って新たな壁を乗り越えようと努力し続けていることを改めて実感しました。同時につくづく「一生、勉強だな!」と思った次第です。
キボウノアシタ読者プレゼント
下記のボタンよりキボウノアシタ読者プレゼントへ応募できます。アンケートにお答えいただいた方の中から、抽選で1名さまに草刈民代さん、柚希礼音さんの限定サイン色紙をプレゼントいたします。
応募締め切り:
2016年2月18日(木)23:59
※当選者の方には、当選のお知らせと景品送付先の確認のため、入力いただいたメールアドレス宛に締切後1週間以内にご連絡させていただきます。当選の発表はこのご連絡をもってかえさせていただきます。
※ご入力いただいた個人情報は、当選者への連絡、景品(賞品)の抽選・発送の目的以外で使用することはありません。
※ご応募はお一人さま1回限りとなります。
草刈民代
東京都出身。1996年周防正行監督の『Shall we ダンス?』で主演を務める。第20回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。2009年バレエ界から引退し、以後、女優として映画、ドラマ、舞台で活躍。12年映画『終の信託』で第36回日本アカデミー賞優秀主演女優賞。4月9日(土)から上演のミュージカル「グランドホテル」(4月9日〜24日/赤坂ACTシアター、5月5日〜8日/梅田芸術劇場メインホール)に出演予定。
柚希礼音
大阪府出身。1999年宝塚歌劇団入団。2009年から星組トップスターを務める。松尾芸能賞新人賞、菊田一夫演劇賞受賞。15年5月に退団、同年10月、ハロルド・プリンス演出『プリンス・オブ・ブロードウェイ』に出演。3月11日から退団後初のソロコンサート「REON JACK」(3月11日〜17日/梅田芸術劇場メインホール、3月26日〜4月11日/東京国際フォーラム ホールC)を開催予定。
(ヘアメイク/CHIHARU スタイリスト/仙波レナ)