自分にしかできないという思いが導いた
木村:私は、女優にあこがれはあったもののすごくなりたかったわけではありません。ただ16歳の時、『アダン』という映画のヒロイン募集を知って、「この役は私にしかできない」と身勝手にも思ってしまい、オーディションを受けたら合格して……。
吉田:素晴らしい。僕も長編映画監督デビュー作がそうだった。「自分にしかできない」と思い込む時ってあるんですよ。木村さんはそこから本格的に女優活動を?
木村:いえいえ、その役だけがやりたかっただけ。高校生活がすごく楽しかったし、レッスンのためにアルバイトを休んだり、友達と遊ぶ時間を削ったりしてまで女優になりたいとは思っていませんでした。
吉田:では、そこからどうやって女優の道を歩み始めたのですか?
木村:そんな人間に仕事が来るはずもなく、徐々にフェードアウト。ずっといろいろなアルバイトをしていました。転機は22歳で、今の所属事務所が声を掛けてくれたんです。その時、「君は頭がカタイから一度全部崩して立て直す必要がある」と社長から面と向かって言われました。
吉田:厳しいですが愛情ある言葉ですね。
木村:ええ。で、そこから2年間もがきました。自身の殻を破りたいのに方法が分からない。オーディションを受けても結果が出せず自分にイライラしました。そんな中いよいよ私を辞めさせようかという話が出たらしいのですが、当時のチーフマネジャーが守ってくれた。そこでようやく改心しました。私の可能性を信じてくれる人がいるんだから頑張ろうと。意識を変えたらオーディションに受かりはじめ、仕事も増えていきました。それが24歳ごろです。
吉田:そういう時って誰かが助けてくれますよね。僕にも似た経験があります。CM制作会社で新人時代から大きな仕事を任せてもらっていたのですが、5、6年でもっと若いクリエーターが次々に出てきて途端に焦ってしまった。頑張れば頑張るほどうまくいかない。でも、どんなに低予算の小さな仕事でも見てくれる人はいて、その都度全力でやっていれば、たとえ100点が出せなくて60点でもちゃんと評価してくれる人がいる。そういう大事なことを、その時学びました。
失敗をしてみて決めることもある
木村:最近は映画監督以外のお仕事もされているのですか?
吉田:CM制作の仕事を少し再開し、昨年(2017年)は舞台の演出もやりました。
木村:お忙しいのにさまざまな挑戦をされているんですね。その原動力は何ですか?
吉田:嫉妬ですね。人が褒められて自分が褒められなかったら気にします。その嫉妬心がおそらくパワーとなって仕事へと突き動かしてくれている感じです。
木村:なるほど。では、どんな仕事でも必ず貫いていることってありますか?
吉田:話すのを面倒くさがらないこと。嫌がられても逃げずに話す。話す力、話す気持ちがなくなったらヤバイと思う。まあ、元々人と話すのが好きなんですけどね。
木村:お話し好きというイメージがなかったので意外です! この対談も私がいっぱいしゃべらなくてはと気合を入れて臨んだのですが、確かにたくさん話してくださったので居心地が良いです(笑)。
吉田:映画『羊の木』の現場ではギターと演出以外の話はしなかったからね(笑)。木村さんが仕事で大切にしていることは?
木村:俳優ってその人の生き方自体が反映する仕事だと思うので、今日できなかったことは明日できるようにしようという努力を毎日怠らないようにしています。その繰り返しで気づいたら自分が行きたかった場所に来ていたというのがいい。目標ってそういうことかなと思うんですよね。
吉田:ところで、54歳の僕には木村さん世代こそが「キボウノアシタ」です。20代30代の人たちが生き生きとしているだけで十分に希望。街で若い人が飲んで盛り上がってるのを見るだけでうれしくなる(笑)。何をしてもいいわけではないけど、木村さんたち世代には多少無茶もして欲しいな。
木村:いやあ、希望が見えました(笑)。たぶん監督たちは「最近の若いもんは」と言わなくなった世代。それはすごくありがたいこと。私たち世代は、馬鹿をしても許してくれる大人たちに甘えてどんどん失敗もしましょう。私も20代は散々でした。今30歳で人生の分岐点に立っています。どっちへ進むにしても失敗をしてみないと決められないことってある。だからもう少し失敗してもいいかなとあらためて思いました。
リーダーが語る、アシタを開く言葉
木村文乃さん
「今日より明日の自分」
今日よりも明日のほうが良くなっている自分でありたい。今日できなかったことは明日できるようにする。今日できて明日できないことも多々あるのですが、少なくとも「今日より明日の自分」と毎日、思っています。
吉田大八さん
「先は長いよ」
若い人に伝えたい言葉です。今、うまくいっていなくても「いつか良いことがあるよ」っていうのも何だか違う気がしているので、「先は長いよ」と言いたい。それで少し気持ちを楽にして次なる勝負に挑んでほしいと思います。
木村文乃
1987年東京都生まれ。映画『アダン』でヒロインデビュー。以後、映画やドラマ、CMで活躍。主な出演映画に『ポテチ』『ピース オブ ケイク』『RANMARU神の舌を持つ男』『追憶』『火花』『伊藤くんAtoE』など多数。1月からスタートのドラマ「99.9刑事専門弁護士 SEASONⅡ」に出演中。
吉田大八
1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクターとして国内外の広告賞を受賞。2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。主な監督作に『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』など。17年は、三島由紀夫の異色のSF小説を映画化した『美しい星』の公開の他、作・演出を務めた舞台『クヒオ大佐の妻』が評判となる。
※吉田大八さんが監督を務め、木村文乃さんが出演する『羊の木』は2月3日から全国上映中。