収穫ゼロなんていう仕事はない
堂珍:CHEMISTRYのデビュー曲がミリオンヒットになった時、「ああ、これを望んでいたんだ」という感慨はありました。でも、いきなりのスタートだったので、ライブ経験はもちろん人間性の部分や社会人としてのマナーなどが皆無で失敗の連続。最初は結構大変でした。
木下:分かります。私も割とすんなりデビューできたので、怖いもの知らずというか最初はただ楽しいだけで進んでいけたんです。でも、次第に色々とできない自分が見えてきて……。特に19年、ディズニー実写映画『アラジン』の吹き替えをさせていただいた際、たくさんのインタビューを受けたのですが、思っていることをまったく言葉にできない自分にがくぜんとしました。それでも、相手役の中村倫也さんに助けていただくうちに、思ったことをそのまま自分のペースで言えばいいんだと気づかされたんです。仕事の中で学ばせてもらったという感じでしたね。
堂珍:そうなんですよね。僕も何も分からないままデビューしたけれど、そこからさまざまな経験を重ねて今の自分がある。本当に経験が成長させてくれます。
木下:私は今20代ですが、堂珍さんの20代ってどんな感じだったのですか?
堂珍:元々、自分が自分でいられるために音楽をやっているようなところがあるんです。だから葛藤しながらも与えられたものをこなし、同時に自分でやれるだけの実力も蓄えようとしていた。それは今も続いている感じもしますが。
木下:行き詰まったことは?
堂珍:20代後半のころですね。だから何か環境を変えたいと思っていた。そんな時、映画『真夏のオリオン』の出演のお話がきたんです。その直後に舞台の依頼もきた。自分の中で良い風通しになりました。
木下:お芝居を経験することで歌うことが楽になったりするものなのですか?
堂珍:しますね。CHEMISTRYって2人組ですが、昔は自分が歌わないパートの時間がすごく嫌でした。手持ち無沙汰で何をしたらいいのか分からない。でも、舞台を経験するうちに何もしないまま立っていることが平気になった。メンタルがちょっと強くなったという感じかな(笑)。結局、収穫ゼロの仕事なんてないんです。何でもチャレンジするって、大切だと思いますよ。
やり続けた先には必ず何かが残る
木下:「自分が自分でいられるために音楽をやっている」と堂珍さんはおっしゃいましたが、私にとってはミュージカルがまさにそう。今回出演する「アナスタシア」で演じる役とは真逆で、普段の私はそんなに感情を出すタイプではないんです。でも歌や踊りだと自分が出せる。
堂珍:ミュージカルには、俳優のエネルギーが結束することで大きな力を放つようなところがある。そこが魅力です。僕はミュージカル経験が浅いのでうまくできないことも多く、その度に自分に対して「この野郎!」と思う。でも、それが自分を成長させてくれている気がします。
木下:私も、自分にできないことがあるととことん落ち込むのですが、その反動もまたすごく、かなり跳ね上がる。だから立ち向かう壁が高いほど燃えるというか、原動力になっていますね。第一、ずっと人生が低迷することってないじゃないですか。今が谷の底でも、そこからはい上がる時期は必ずくる。少なくとも私はそう信じています。
堂珍:頼もしい! でも僕も同じかも知れない。なぜ今の仕事を頑張るかというと、意地しかないんです、自分の人生に対する意地。ここでやめて田舎に帰ることだってできるけれど、絶対後悔すると思うんですよね。やり続けた先には必ず何かが残るから、それを信じて今の道をコツコツ前へ進むほうを選びたい。継続は力なりという言葉どおり、今は「続ける」ということを大事にしたいかな。木下さんはどんなことを目標にしていますか?
木下:20年は新しい世界へ飛び込みたいというのもあって、映像に挑戦したいです。声優のお仕事にも興味があります。というか今はまだデビュー3年目なので何でもやってみたいです。堂珍さんは?
堂珍:21年がCHEMISTRY結成20周年の節目。20年はそのキックオフイヤーということで、ライブなど色々やろうとしています。その前にまずは「アナスタシア」をお互い頑張りましょう。
木下:そうですね! 頑張ります。
堂珍:今回の対談はすごく楽しかったです。思いをそのまま話してくれたので。
木下:私もお話をたくさん聞けてもっと堂珍さんのことを知りたくなりました。何よりこんなふうに自分を語れる大人になりたい。新たな目標ができました!
リーダーが語る、アシタを開く言葉
堂珍嘉邦さん
「心を働かせる」
小学生の時、先生が板書しながら話してくれた言葉。大事なことって意識していないとキャッチできない。だから、日々の生活の中でも、歌っている時もお芝居をしている時も「心を働かせる」ようにしています。
木下晴香さん
「楽しんだもん勝ち」
少し前、失敗を恐れていた時期があったのですが、ある先輩が「楽しまないともったいないよ」とひと言。確かにそうだなと。実際、何をするにしても楽しんでやっている時の輝きとパワーってものすごいですよね。
堂珍嘉邦
1978年広島県生まれ。2001年にボーカルデュオ「CHEMISTRY」としてデビュー(12年活動休止)し、次々とヒットを飛ばす。09年に映画『真夏のオリオン』で俳優デビュー。12年からはソロとして音楽活動も開始するなどマルチに活躍。17年にCHEMISTRYとして活動を再開。19年に再始動後初のアルバム『CHEMISTRY』をリリース。
木下晴香
1999年佐賀県生まれ。2017年、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」のジュリエット役に抜擢。以後、「モーツァルト!」「銀河鉄道999 さよならメーテル~僕の永遠」「ファントム」などミュージカルを中心に活躍。19年にはディズニー実写映画『アラジン』でヒロインのジャスミン役の吹き替えと歌唱を担当した。
※2人が出演するブロードウェー新作ミュージカル「アナスタシア」の日本初演は3月1日(日)から28日(土)まで東京・東急シアターオーブにて。
(ダブル、トリプルキャストのため、出演日は公式サイトで要確認)。4月には大阪公演もあり。