ダサいと思うものも意外に面白かった
伊沢:礼央さんが子どもの頃、ゲームを買ってもらえなかったという記事を拝見しました。僕も同じだったので勝手に親近感を抱いていました。
土屋:親に買ってもらえなくて、仕方ないのでゲームは自分で作っていました。
伊沢:僕は、塾の模試で上位に入ると塾からソフトがもらえると分かり、中身が手に入れば親がハードウエアを買ってくれるだろうと。それが勉強を頑張るようになったきっかけでもあります。
土屋:僕は何かにつけて自分で何とかしていくタイプでした。頭の中では常に自分の作った歌が流れていて、「これは売れる」と根拠なく思って中1の時に音楽で生きていこうと決めました。作曲ソフトを買って独学で打ち込みを始め、作詞作曲をしていましたね。
伊沢:礼央さんはすべてがオリジナル。憧れて音楽を志したのではないんですね。
土屋:そう。音楽をやると決めていたので大学にも入らなかった。ただ、早稲田大学の軽音楽サークルに入ってバンド活動はしていました。そんななか、高校の後輩から「歌の仕事があるからやらない?」と誘われて入ったのがアカペラグループRAG FAIR。そこからあっという間にデビューとなった。最初、アカペラはダサいと思っていて、でもやるからにはちゃんとやろうと、まず「なぜカッコ悪いと感じるのか」を書き出した。それらをクリアすれば自分が好きだと思えるアカペラになるだろうと考えたんです。
伊沢:そうだったんですね。実は僕も最初、クイズはダサいと思っていました。
土屋:今や「クイズ王」の伊沢君が?
伊沢:ずっとフットサルをやっていたのですが、中学で挫折し、それでクイズ研究部へ。部員も少なくさえない部でしたが、すごく物知りの先輩がいて、その人に認められたくて頑張っていたらどんどん強くなっていきました。その結果、高校生になって「全国高等学校クイズ選手権」に出場し、2連覇達成。テレビに呼んでいただくことにつながっていきました。
土屋:すごい。僕はクイズができる雰囲気を醸し出しているけれど、全然ダメ。
伊沢:でも礼央さんは物知りだし、何かに例えて説明するのもうまい。礼央さんのラジオを聴く度に感服しています。
進んでいくために自分を見つめ直した
土屋:伊沢君はテレビのクイズ番組などを中心に大活躍ですが、クイズを仕事にしようと思ったのはいつ頃からなの?
伊沢:最初は正直、クイズで食べていけるとは思っていなかったので、ほかの仕事に就き、クイズはあくまで趣味として続けていくつもりでした。ただ、大学院で落ちこぼれ、中退を決めた24歳の頃にあらためて研究以外で自分が胸を張ってできることは何かと考え、「クイズだな」と。クイズにはかなりの時間を費やし、相当やってきたという自負があったので。
土屋:なるほど。自分が世間にどれだけ求められているか意識していますか?
伊沢:正直「東大王」に出始めた頃は、伊沢拓司ではなく「東大生」ということで脚光を浴びていました。でも2年ほど前から潮の流れが変わり、僕自身に需要があるかなと感じるようになりました。
土屋:バラエティー番組での伊沢君のイジられ方を見て、あんなことまでOKしている伊沢君は本当に潔いというか謙虚でかっこいいなと。妻にも「あなたにはない魅力」と言われました(笑)。
伊沢:そんな礼央さんはデビューしてすぐ曲がヒットしたんですよね。悩み苦しんだ時期はなかったのですか?
土屋:金銭的な苦労はなかったんですが、精神的には色々。RAG FAIRとしてデビューした途端、いきなりブームになって「NHK紅白歌合戦」にも出場。気づいたらスター街道まっしぐら。自分の足ではなく人に担がれて富士山を一気に駆け上がってしまった感じでした。それだけにRAG FAIRの活動だけでは自分が自分ではない気がして怖くなった。そこで「自分とは何か」を考えたわけです。今思えばそれが本当の意味でのスタート。僕はシンガー・ソングライターで世に出たかったけれどアカペラで評価されてしまった。ハモりは称賛されても自作の曲への評価は聞こえてこない。そのジレンマを打ち破りたくてソロプロジェクトを始めたり、ほかの仕事で自分を発信したりするようになっていきました。だから、自分で積み上げた実績で勝負しようとした伊沢君を尊敬します。
伊沢:僕もスタート時点では東大生というだけで相当げたを履かせてもらいましたよ。でも、それがあったから今があるんですよね。
(続きは3月5日(金)公開の後編で)
リーダーが語る、アシタを開く言葉
土屋さん
「ラジオは企画に逃げるな、人(にん)でいけ」
初めてラジオの帯番組を担当した時、事務所の会長に言われました。ラジオはDJの人柄に引かれて聴くもの。だから企画で勝負しても消費されるだけ。それよりも良い人でいろと。ラジオだけでなくすべてに通じることなので今も守っています。
伊沢さん
「無知であることを恥じず。無知に甘えることを恥じる」
桂文珍さんの言葉ですが、クイズプレーヤーとしての心構えにさせてもらっています。世の中に有る知識は無限なので、知らないことは仕方ない。ただ、知らなかったことは必ず復習する。これだけは心掛けています。
土屋礼央
1976年東京都生まれ。2001年、アカペラ男性ボーカルグループRAG FAIRでデビュー。11年よりソロプロジェクトTTREをスタート。以後、ラジオ、出版など多方面で活躍。YouTube「土屋礼央レオらくごチャンネル」、ニコ生「チャンネル土屋礼央」でも配信中。3月に新刊『ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。』を発売。
伊沢拓司
1994年埼玉県生まれ。開成高校時代に「全国高等学校クイズ選手権」で2連覇。東京大学文科2類入学後、TBSのクイズ番組「東大王」へレギュラー出演。2016年、Webメディア「QuizKnock」を立ち上げる。19年、農業経済専攻の東京大学大学院を中退し、同名の株式会社設立。著書に『伊沢拓司の軌跡』『勉強大全』など多数。