ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ七十九事務職希望で就活中。なのに語られる、夢・夢・夢!!

その経歴から、面接に行くと歓迎されるというT塚さん。休職中の立場であることを考えると、普通はうれしいはずのことなのに、彼女の頭の中ではいつもアラートが鳴り響いてしまうのだとか。
なぜならそれは過去の実体験からくる教訓があるわけで……。
重宝されることが必ずしも幸せだとは限らない。そんな今回の体験談です。

職なしに至るまでの華麗な経歴

WEBデザイナー時代のT塚さんの職場は、人間関係が良好で、新しいオフィス・充実した機材と、社内投資も怠らない実直な「良い会社」でありました。実直すぎて首が回らなくなって倒産に至らなければ本当に「良い会社」だったのですが、残念ながら世は無常。T塚さんはやむなく次の職探しを迫られる羽目となります。
その結果、たどり着いたのはSE職。もともと高専卒でプログラミングを勉強してきた経緯があったため、「そっちの知識が生かせるならいいかな」とIT系を選んだのでありました。
周囲の人間関係は良好ながらも部署間の折り合いは悪く、少しギスギスしたところのある会社。当初はプログラマとして入社して、ほどなくSEとしてシステムを取りまとめる側にまわりました。
「若いから大丈夫さー」
そんなことを言いながら、外食・コンビニ弁当・インスタントラーメンなどを主食とし、かつ運動しない毎日。忙しさにかまけて、己の体調管理を顧みずひたすらパソコンと向き合う毎日。
2年ほどが過ぎた頃、T塚さんは体調不良を自覚するようになりました。なんかおかしい。鬱(うつ)かもしれない。そんなことを思って精神科を受診するも一向に快方に向かう気配なし。
ある日、バタンと職場でぶっ倒れました。病院に運ばれて即検査。胃腸はぼろぼろで、血液も異常な状態だったのだとか。
上司の勧めもあり、T塚さんは退職することに決めました。彼女が25歳の時でした。

今は事務職を目指してます

そんなT塚さんも27歳となり、今は「事務職」志望として地元で就職活動に勤しむ毎日を送っています。でね、面接に行くとすごく歓迎されるんですって。そんでもって、次のようなことを言われるんですって。
「うちの会社でもやっぱりシステムは外注じゃなくて、社内で作りたいね。サイトも立派なものにしたいから外注だと細かい注文ができなくて、更新作業も難しいでしょ? だからそれをいつもやってくれる人が来てくれるとうれしいし、あ、そうそう、やっぱりサーバは会社で持ちたいからネットワークにも詳しい人だと言うことなしなんだよね。そしていつかは外注できるように頑張っていきたいと思ってるんだ」
……これを聞いて、T塚さんは思うのです。
「あの…、私事務職志望なんですが……」と。
実はT塚さん。この2年の間に1度、このようなことを言う会社に入社したことがありました。
出社1日目。「空いてる時間でいいから!」と、なぜかWEBサイト立ち上げやらシステム作成やらサーバ立ち上げに関するあれやこれやが降って湧き、いきなりその日の午後には「まだ出来てないの?」とせっつかれる始末。この日家路につけたのは、日付が変わってからのことだったとか。しかも、「試用期間だから」と残業代はなし。
いやいやそれどころか、「給料以上を稼がんと払う給料なんかない!」と公言してはばからないその会社の社長さん。給料日になると、T塚さんにこう言ってのけたそうです。
「プログラムはさわることができないもの。つまりお前は架空のものしか作っとらん。つまり仕事してないってこった!!」 彼女の給料は0円でした。
「訴えようかとも思いましたが、怪しい人が出入りしてる会社だったのでそのまま逃げました。怖かったよー」
そんなわけでT塚さん。日雇い派遣や短期バイトで生活費を捻出(ねんしゅつ)しながら、「あれもこれもそれもあれも」と事務職相手に夢を語ったりしない、「ちゃんとした会社」を探して今日も面接に駆け回るのでした。

オチの一コマ
本日の一句

いただいた体験談を読んでいると、T塚さんって自分を客観視して笑いに昇華できちゃう人のように思えました。過ぎたことは過ぎたこととして分析だけにとどめ、次にどういう手を打つか計画を立てて淡々とこなしていける的な印象です。
そりゃ面接に行くと喜ばれるだろうなぁ……と。経歴のことは抜きにしても、そんな風に思うのですよ。後は「ちゃんとした会社」に早く彼女が巡り合えることを、ただただ願うばかりです。
ちなみにT塚さんがSE職ではなくて事務職を志望している理由は、「これからIT業界でやっていけるだけの体力が自分にあるとは思えない」からなんだそうな。
なんだかしみじみと辛くなるコメントです。世知辛い世の中だなぁ。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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