ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ九十五「君のスキルを高く評価してるんだ!」そんな言葉にほだされて、待っていたのはハローワーク

職を失う。求職活動をしなきゃいけない。
これは誰にとっても大変なことですよね。
でも、そんな時こそご用心。甘い言葉が、スルリと心に入りこんで来がちな瞬間でもあります。
SE職にあったY瀬さん。事業整理で職を失うタイミングに、知人の言葉で次の職場を決めたのでありますが……。
ツテによる転職活動の落とし穴をまざまざと見せつけられるような、そんな今回の体験談です。

最初の半年は良かったんですけども

そんなこんなで知人社長の会社に入ったY瀬さん。いわく「給料は今まで勤めたどの会社より良かったです」だったそうです。
しかも2カ月に1回は社員全員参加の全体ミーティングという名の飲み会やレクリエーションがあって、毎年秋には海外へ社員旅行。社長やほかの同僚たちとの仲も良好で、入社して半年ほどは実に快適な会社生活を過ごしていました。
ところが2008年末のこと。Y瀬さんの頭上に、不況が影を落としはじめます。
Y瀬さんの出向先が契約満了となって、次の案件を見つけなければ……となりました。しかし当時、彼のいた地方では仕事が急速に減り始めており、市場は案件を求める技術者であふれかえっていたのです。

社長はアチコチに営業をかけて回りましたが、どうにも思わしい結果にはつながりません。いくつか案件を見つけて技術者面談にはこぎつけるものの、Y瀬さんに、あふれかえる技術者の中を勝ち抜けるだけの突出した「何か」があるわけでもなく、仕事はほかの会社へと持って行かれるばかり。
社長のイライラは募り、(元から荒かった)言葉遣いはますますひどくなり、「仕事が決まらないのは君のせい」とY瀬さんへの風当たりは増す一方。ことあるごとに叱責され、酒の席に連れ回されては罵倒(ばとう)され、夜中に電話でたたき起こされて延々叱責を聞かされて……と、その度合いも段々エスカレートして行きました。
ある日Y瀬さんは、社長から会社四季報を渡されました。
「この中から、仕事のありそうな会社を探して電話でアポ取って営業して仕事取ってこい!」
「もう君の給料は仕事のありなしによらず月10万や!」

この日Y瀬さんは、社長に対して辞意を伝え、会社を去ることに決めました。2009年1月末のことでした。

「足を洗え!」の言葉に悔しさ噛みしめて

さて、元々「仕事が決まらない」ところに端を発して関係がこじれたわけですから、退職したといって次の仕事が容易く見つかるはずもありません。
「自分のキャリアが生かせて、エンドユーザの声が聞ける環境で働きたい」
そう思って求職活動を行うY瀬さんでしたが、次の仕事が見つかるまでは6カ月もかかることになりました。
「情報処理の資格でも持っていれば少しは違ったのでしょうけど、自分は大した資格を持っていなかったので」
その間、ハローワークに通った回数は週に2回以上で、合計何回だったか覚えてもいません。応募した会社は60社。面接までこぎつけることのできたのはその半分でした。
「中には『これだけ会社を移るってことは適性がないんだろ、今すぐ業界から足を洗え! 会社がつぶれた? そんなもんしがみつけ! それでも駄目なら起業しろ根性なし!』なんてことをおっしゃる社長さんもいたりして、この時はすごく悔しかったです……」
ほかにも、いったん不採用を出しておきながら、あとになって「やっぱり仕事見つかったからどう?」と聞いてくる会社も6社ほどあったのだとか。それらに対してY瀬さんは、「誠意が見られない会社」と考えて、すべてお断りしたそうです。
ようやく1社内定が取れたのは、創業25年と業歴が長く、大手SIerとも取引実績を持つ社員30名ほどのソフト開発会社でした。
「今、会社を移ってから半年ほどになります。給料は前職の3分の2ほどになりましたが、気軽に話せる仲間がまわりにいて、社長や上司からの評価も高くて『普通の会社に戻ってこれた』と実感しています」
おそらくこの会社であれば定年まで勤められそうな気がすると、そんなことを思うY瀬さんなのでありました。

オチの一コマ
本日の一句

たとえ知人であったとしても、それは「ともに仕事をした時どうなるか」の保証とはならない。それを否応なく実感させられる体験談でした。
「知っている」と思ってしまう油断は怖いですよね。知人であるからこそシビアな確認を取りづらいというケースも多々ありますし。
とはいえ、最後には良い会社に巡り合うことができたようでなによりでした!きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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