第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.31歌手 伊藤由奈
自分を信じればきっと伝わる
Heroes File Vol.31
掲載日:2010/7/23
22歳の時、映画「NANA」のレイラ役に抜擢(ばってき)され、劇中で歌った「ENDLESS STORY」が大ヒット。その後もさまざまなジャンルでヒットを飛ばし、セリーヌ・ディオンとのコラボ作品も発表するなど、その類まれなる歌唱力を存分に発揮している伊藤由奈さん。まさに現代の歌姫、伊藤由奈さんに歌にかける思いを語ってもらった。
Profile
いとう・ゆな 1983年生まれ、ハワイ出身。2005年映画『NANA』のレイラ役に抜擢(ばってき)され、デビュー。劇中歌「ENDLESS STORY」が記録的大ヒット。その後も多くのヒット曲を出し、07年リリースのファーストアルバム「HEART」はオリコン初登場1位を記録。7月28日から、洋楽曲カバーソングの着うた・着うたフル配信を開始。
マライア・キャリーの曲で人生が決まった
笑顔がいい。パワフルで、女性らしい優しさ、繊細さも秘めた歌声は、世代を超えて多くの人を魅了する。伊藤由奈さんはまさに現代の歌姫だ。
ハワイ育ちの彼女が、歌手になると決めたのは13歳の時。中学校で嫌なことがあり、落ち込んで家に帰った。いつもの習慣でラジオをつけるとマライア・キャリーの「オールウェイズ・ビー・マイ・ベイビー」が流れてきた。
「その瞬間、制服を着たまま空に浮かんでいるような、すごく自由な気持ちになれたんです。音楽ってすごいなと思いました。と同時に、私も音楽で人を元気づけられる人間になりたい、そうだ、歌手になろうと決めました(笑)」
その日からマライアやホイットニー・ヒューストン、TLCなど、好きなアーティストのまねをしてひたすら歌った。小遣いをためて買ったCDは、ただ音楽を聴くだけではなく、作詞作曲、コーラス、演奏ミュージシャン、曲の解説文などすべて暗記するほど読み込んだ。
初めてライブを経験したのは14歳の時。ハワイの小さなお祭りで歌った。
「マイクを食べてしまうんじゃないかと周りが心配するぐらい、超緊張しました(笑)。実際は悔しさの残るパフォーマンスだったのですが、でも同時に、私のやりたいことはこれだ、間違いないと思えたんです」
というのも、1人の女性が最後までずっと聴いていてくれたからだ。「今でも、彼女のすてきな表情は忘れられない。私の歌を聴いてくれる人がいる限り、歌い続けようと心に誓いました」
忙しさを味わいたくてラッシュアワーの電車に
出演映画『NANA』で歌った「ENDLESS STORY」が大ヒットし、その歌唱力が支持され、一気に世に知られるような存在となった伊藤さん。だが、決して順風満帆だったわけではない。
「高校を卒業して日本へ来たものの、デビューが決まるまでの数年がすごく長かった。つらかったです。一人暮らしに慣れる努力をし、日本語を勉強したり歌を練習していましたが、それだけでした」のんびりしたハワイタイムより、日本の慌ただしさが魅力的に思えた。常に「次」を考えるのが好きだったからだ。
「でも、私自身は一向に忙しくならない(笑)。私も早く忙しい気分を味わいたいと思い、ラッシュアワーの電車にわざわざ乗ったこともあります」
それだけに、デビューが決まった時はうれしくてたまらなかった。「私の歌を聴いて」という13歳の頃からの願いを、神様がようやくかなえてくれたと思った。
さまざまなアーティストが育ててくれた
「あんた、やるじゃん」
デビュー前、ライブハウスで歌う伊藤由奈さんに、会場の一番後ろから手を振って駆け寄り、そう声をかけてきた女性がいた。歌手のAIさんだった。以来、彼女とは互いに励まし合うほどの大の仲良し。「AIちゃんをはじめ、本当に様々なアーティストの方たちからすごくいい刺激を受けています」
セリーヌ・ディオンさんとの出会いも大きかった。シングル作品でデュエットを実現。彼女のツアーにゲストで呼んでもらったこともある。
「セリーヌさんのドームツアー公演の最後の日、本番5分前に呼ばれ、彼女の所へ行くと、『由奈は本当にできる歌手、そのまま進みなさい』と励ましてくれました。もう感激して『よっしゃ、行くぞー』って心で叫びました」
そんな温かいセリーヌさんの言葉に対し、伊藤さんは「日本のアーティストとして精いっぱい頑張ります。あなたに負けないように」と答えた。すると「ぜひ、そうしなさい。私も応援しています」と。セリーヌさんは、人に対して絶対きついことを言わない。スタッフでも誰にでも優しく接するのだそうだ。
「まさしく『愛の人』としか言いようがないほどすてきな方です。DVDなどで見るのではなく、直接お会いでき、同じステージに立たせていただき、私もアーティストとしてひと皮むけたような気がしました」
カバーソングで新たな自分を引き出す
「伊藤由奈の歌う洋楽曲が聴きたい」というファンの要望に応え、今夏から洋楽曲カバーソングを着うた・着うたフル配信することになった。第1弾はエアロスミスの楽曲。「曲の良さやパワーをキープしつつ、優しさも感じられるようにバランスを考えて歌い上げました。あくまで伊藤由奈が歌う歌としての表現にこだわりました」
伊藤さんは、どんな歌でも「恥ずかしがらず、堂々と歌う」ということを心がけている。言葉で表現できない思いや感情は誰にでもある。でも歌ならそれも表現できるし、誰かに伝えられる。だからこそ、ちゃんと伝わるように歌いたいと。
彼女自身、かつてマライア・キャリーの歌に救われた。だからこそ歌の力を信じ、歌い続ける覚悟だ。もちろん、時には曲のことで悩んだり、煮詰まったりすることもある。そんな時は迷わず女友達とカラオケへ行く。切ない気持ちの時は切ない曲を歌いまくる。「結局、歌に戻ってしまうんです(笑)」
笑いたい時は思い切り笑い、泣きたい時は泣き、発散したい時は発散しまくる。そんな、その時々の感情をとても大事にしている。だからこそ彼女の歌は人の心を揺さぶる。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
幼稚園の先生。子供が好きというのもありますが、それ以上に子供と一緒に歌えるでしょ。どうしても音楽と関わっていたいから、そういう仕事を選びますね、きっと。
人生に影響を与えた本は何ですか?
「ザ・ギバー」(ロイス・ローリー著)や、「ハリー・ポッター」(J.K.ローリング著)のシリーズあたりでしょうか。特に「ハリー・ポッター」のような世界観が好きなんです。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
「いつまでも輝けるように」という願いをこめ、星の形をしたものはいろいろ持っています。あとは、ハートのもの。「いつか本当の愛に出会えますように」と思って。星とハートが私のラッキーチャームですね。
Infomation
I Don't Want To Miss A Thing / エアロスミス
2010年7月28日 着うた・着うたフル配信
伊藤由奈さんがパーソナリティを務めるラジオ番組「Heart To Heart」(JFN系)に、以前から多数寄せられていた「由奈さんに洋楽曲をカバーして歌ってほしい」という声を受け、番組ではリクエストを募集。その中から由奈さんがセレクトした曲を番組で披露するという企画が進行中だが、同時に、ラジオ番組が聴けないファンからの要望に応え、今回は配信限定で発表することになりました。
その第1弾(7月28日配信)が、エアロスミスの「I Don't Want To Miss A Thing」。第2弾は8月下旬に配信する予定。「スティーヴィー・ワンダーや、映画の主題歌など意外なリクエストもたくさん届いています。何を歌うか、楽しみにしていてください」(伊藤由奈さん)。