第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.37女優・モデル 菊池亜希子
広がる世界で迷子に
Heroes File Vol.37
掲載日:2010/10/15
映画『森崎書店の日々』で主演デビューを果たした菊池亜希子さん。人気モデルとして、またイラストエッセーの書き手として多彩な才能を持つ彼女はどんな風にこれまで歩んできたのか。また初めての主演で彼女が得たものは何だろう。
Profile
きくち・あきこ 1982年岐阜県生まれ。千葉大学都市環境学科卒業。高校生の時からモデルとして活躍し、女性誌「PS」にてイラスト&エッセーを手がけ、その連載をまとめた著書「みちくさ」がある。女優としては映画『ぐるりのこと。』、ドラマ「恋空」などに出演。10月23日(土)に公開される映画『森崎書店の日々」で初めての主役を務める。
背の高さがコンプレックスな道草好きの少女
このたび公開される映画『森崎書店の日々』にて初主演を務めた菊池亜希子さん。モデルとして女性誌を中心に活動し、最近は健康的で透明感のある女優としても活躍する28歳だ。高等専門学校から大学までの約7年間、建築を学ぶという硬派な顔も持ち、ここ数年、女性誌で「道草」がテーマのイラストエッセーの連載を続けている。
「岐阜の田舎で育ち、子供の頃から道草が大好きでした。学校帰りは『今日は竹やぶを通っていこう』などと自分なりの道草ルートもいろいろあって。ひとり遊びも大好きで、おままごとをする時は地面に間取り図をきちんと書くような子供でした。また、家を造っている現場を見るのが好きで、基礎工事の状態を見てどんな家が建つのか想像したり、大工さんの子供に、現場に連れていってもらったりしていましたね」
住宅について興味が強かった彼女は、5年間みっちりと建築を専門に学ぶことができる高専に進学する。
「当時、すでに170センチの身長があり、それがコンプレックスでした。思春期に好きな男の子から『おれより手が大きい』と言われたことがトラウマになって。そんな時、友達から『あなたはモデルになれる体形では』と言われ、そんな可能性があるならと手元にあった女性誌の募集に応募したんです」
その募集は終わっていたが、プロダクションを紹介され、休日だけ上京してモデルの仕事をするという生活が始まる。
「昔からすごく雑誌が好きだったので、雑誌の作り手側に行けるんだと思うとわくわくして。新しく広がった自分の世界が楽しかった。でも当時、雑誌モデルは小柄な人が多く、結局ここでも『大きいね』と言われていました(笑)」
多忙な日々の中、向かう先に出てきた迷い
高専卒業後は上京して大学の建築科の夜間コースに編入。昼間はモデル、夜は大学。専攻を「街作り」にしたこともあり、趣味と勉強が一致し、多くの街が密集する東京でさらに路地裏散策を深めた。
「モデルの仕事と同様、建築にもとても興味があったものの、仕事にするのは何か違う気がして。でも周囲が就職活動を始めたら不安になって自分も活動してみて、やっぱり違うと思い知ったり。また、モデルの仕事の方はジャンルに広がりが出て楽しかったのですが、私はいろんな服を上手に着こなせるタイプじゃないと徐々に分かってきた。なのに、何となく服を着こなしている自分にストレスを感じて……。世界が広がっていく毎日の中、私は自分のやりたいことに向かえているのかと、とても迷う気持ちがありました」
道草してきたことが 結びつき始める
行き先に迷っていた頃、菊池さんに雑誌のイラストエッセー連載の話が舞い込んだ。それが現在も続く「みちくさ」。建築で学んだエッセンスがつまった、かわいいマップと街歩きの知識が生きたエッセーだ。
「それはモデルの世界とは対極にあるものでした。モデルは洋服が主役でそこに『私』は必要とされないけれど、こちらは自分の感じたことが表現できる。飾らずに自分が出せる場があることで、モデル活動で感じていたストレスが軽減され、気持ちのバランスがよくなりましたね」
やがて映像の世界へと仕事の幅が広がる。自分の演技を初めて画面で見た時「私ってこういう時にこんな表情をするんだ」と、多くのことに興味はあっても自分の内面には関心がなかったことに気がついた。そして今後は自分を含め人に興味を持とうと思う。
そんな時、映画『森崎書店の日々』の主演依頼が来る。恋人に裏切られ、会社を辞めてひきこもっているOLが、叔父に呼ばれ、彼が経営する神保町の古本屋で店番をしながら、人と本と触れ合い、心を癒やしていく物語だ。
「脚本を読んだ時、これは私だ!と思いました。普段は波風が立たないように生活しているのに、気づいたらどん底まで気分が落ちている。またそういう感情を人にうまく伝えられないところも、主人公と共通してました」
自らの殻を破り、28歳で本格的なスタートを切る
撮影のクライマックスに、主人公が自分の心をさらけ出して感情を爆発させるシーンがある。菊池さんは他のシーンの撮影中、そのことがずっと気がかりだった。でも、本番では激しく泣きじゃくり主人公の心情を吐露できた。
「それまでは、自分の心の中に抱えていることを人に言う時ってどういう感じか分からなかったのですが、本番は主人公に同化して、感情のコントロールが利かないほどでした。でもすごく気持ちよかった。自分の中の見たくない部分ときちんと向き合い、それをさらけ出すのはつらくても、お芝居は自分の殻を破り、思い切り自分を開放するものだと分かった。この経験でもっとお芝居をしたいと、ようやくスタートが切れたと思います」
しかし、今後も女優一本!と肩に力を入れずに、その時々の興味で道草を続けたいそう。
「道草は、目的地を決めずに行きたい方向に歩いていくと、意外な物や新たな自分を発見できることが醍醐味(だいごみ)。いずれ私も全力で走らなければならない時はくる。その時全力を出せるように、しんどい時は休む勇気も持って歩いていきたいと思っています」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
文章を書いていたと思います。なんらかの表現をする仕事でしょう。
人生に影響を与えた本は何ですか?
建築家の藤森照信さんの「タンポポ・ハウスのできるまで」です。それまでも住宅は好きでしたが、高専生の時に読み、「建築」という響きに興味を持った。こんなとんでもない建築が存在していいんだ、という愉快な本です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
ラジオ体操。しかも第一と第二を通しです。実は小、中学校は学年で1番運動神経がよく、小学校の時は体育委員長だったんです。体育祭の時など、前で見本をする役をしていました。1カ月、体育の先生に指導を受けたので、もう完璧に体操できるんです(笑)。今もiPodにラジオ体操の音楽を入れており、ここぞという時は音楽を流してやります。
Infomation
映画「森崎書店の日々」
2010年10月23日(土)から全国順次ロードショー
平凡な日々を送るOLの貴子は、ある日同じ会社に勤務する恋人から、別の人と結婚すると告げられる。そのショックで会社を辞め、こんこんと眠る彼女に、神保町で古書店を営む叔父から電話がかかってくる。彼の申し出で、貴子はその古書店の2階に住みながら店番をすることに。本の世界に次第にひきこまれ、さまざまな人との出会いや神保町という街に、貴子が癒されていく日々を描いたストーリー。
キャスト/菊池亜希子、内藤剛志、田中麗奈、吉沢悠、きたろう、奥村知史 他
監督/日向朝子
公式HP/www.morisaki-syoten.com