第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.43女優・歌手 黒木メイサ
つか劇団が芝居の原点
Heroes File Vol.43
掲載日:2011/1/21
力強い意志をたたえた眼差しが印象的。立ち居振る舞いに華がある。話題のドラマ、映画、舞台に引っ張りだこの女優・黒木メイサさん。2009年から音楽活動を開始し、表現者としての厚みも増している。彼女の芝居の原点、そして音楽への思いなどをうかがった。
Profile
くろき・めいさ 1988年沖縄県生まれ。2004年つかこうへい演出の舞台「熱海殺人事件 ~平壌から来た女刑事~」で主演デビュー。テレビ、映画、舞台と幅広く活躍するほか、09年からアーティストとして音楽活動を開始。1月26日にファースト・フル・アルバム「MAGAZINE」をリリース予定。
恩師の言葉で女優として居続ける覚悟
数年前のことだ。故つかこうへいさんが「黒木メイサはきっと大きな女優になる」と新聞でコメントしたことがあった。記事を見た黒木さんは「つかさんにここまで言ってもらったんだから、女優として頑張るしかない」と覚悟を決めた。「恩師をうそつきにするわけにはいかない。その思いは今も私の根っこにあります」。生前、つかさんは黒木さんのドラマや映画を観(み)ては電話で叱ってくれたそうだ。いつも見守ってくれていた。
黒木さんのデビューは15歳、つかさん演出の舞台で、いきなりの主演だった。「毎日セリフが変わるし、稽古は相当厳しかった。でも、お陰で舞台に不要な羞恥(しゅうち)心が取り払われたし、自分の内面からいろんなものを引っ張り出してもらえる感覚が楽しくてたまらなかった」
ホームシックになったり、稽古がつらくて落ち込んでいると、劇団員が遊園地に連れていってくれたこともあった。
「圧倒的な存在のボスと兄弟のような先輩たちがいて、みんなが一つの家族になって芝居を作り上げていく。その過程をそばで学べた。初めて芝居を経験したのがこの劇団で良かったと思っています」
昨年、6年ぶりにつかさんの舞台に立った。
「昔、つかさんが『お前は直球しか投げない感じがいいんだ』と言ってくださった。でも6年経って成長していないわけにもいかないし、かといって『変化球も投げるようになったな』とか言われたらどうしようと(笑)。いろいろ考えていたらおなかが痛くなるほど緊張して、正直、怖かったです」
しかし、それは杞憂(きゆう)に過ぎなかった。熱い稽古場の空気に触れた瞬間、懐かしい気持ち良さを感じ、「ここが私の原点なんだと確信しました」。
「黒木メイサ」を演じていた10代
初舞台での堂々とした演技と圧倒的な存在感で、たちまち黒木さんは注目され、話題のドラマや映画などへの出演が相次いだ。しかし、演技の仕事が続く中で、いつしか自分が周りの顔色をうかがいながら発言するようになっていたことに気づく。
「黒木メイサがこんなことを言っちゃいけないとか、他人が思う私を演じなくてはいけないという気がして、10代後半は息苦しかったですね」
本来の自分をそのまま表現できる場所を作りたい。そう思っていた彼女は、アーティストとして音楽活動を開始する。それは、寮を出て独立し、「作品との向き合い方が変わった」というドラマ「風のガーデン」の撮影の頃と重なる。20歳は彼女にとっていろんな意味で大きなターニングポイントだった。
弱さを認めてこそ人は強くなれる
ダンスは10歳から始めた。ジャネット・ジャクソンに魅せられ、ダンススクールへ通い、ストリートでも踊った。「人見知りなのに、ダンスなら人前でも全然平気でした」
そんな黒木さんだからこそ、ニューアルバムでも「音を聴いて体が自然に動かしたくなる」ような曲作りにこだわった。「音楽では素の自分を出していきたいし、うそは歌いたくないので、歌詞も納得いくまで話し合いました」
彼女自身、強い女性への憧れがあり、これまでのCDは、人にパワーを与えるようなアグレッシブな曲が多かった。
「でも今回は強いだけじゃなく、『人間、弱くてもいい、その弱さを認めてこそ強くなれるんだよ』というメッセージを伝えたくて、その思いを歌詞と曲に託しました」
音楽活動の時は素の自分をさらけ出し、すべてを爆発させる。そして演じる仕事に戻れば、その役に没頭する。メリハリができ、「どちらの仕事にも真っすぐ、新鮮な気持ちで向き合えるようになった」と言う。実はそんなに器用ではなく、役者の仕事をする時は一切音楽を聴かない。一つひとつの仕事にそのつど集中し、真摯(しんし)に取り組む。それが彼女にとって精神的にもバランスのいい働き方なのだそうだ。
過去や未来は考えない
この世界に入り、7年。「ようやく大人として扱ってもらえるようになり、私の中にも責任感が芽生えてきた」。与えられるだけでなく、自ら積極的に取り組むだけで、こんなにも仕事のおもしろさは変わるのだと実感しているところだ。
「決して好きなことだけをやってきたわけではない。でも好きなことは誰に何と言われようとも絶対にやめなかった。譲れないものを持っていたことが強みとなり私を支えてくれている気がします」
過去を振り返らないし、未来を考えたりもしないという。
「今を一番大切にして生きたい。悩む時間ももったいないと思っているので。もし失敗したら? 開き直ります(笑)。やれることをやって失敗したんだったら、仕方がないと思ってとにかく次に向かって動き出す。行動すれば何かしらプラスになるものにつながっていくはずだから」
そしてこんな話もしてくれた。「先日『どんなことも筋を通したいし、人にも筋を通してほしい』と友人に話したら、『その筋はあなたが基準でしょ。みんながあなたと同じ筋の通し方とは限らないわよ』と(笑)。その通りだと反省しました」
決してぶれない。でも、どんな言葉でも「いいな」と感じたら素直に受け入れる。硬質で柔軟な心。それが彼女の美しさだ。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
子どもたちにダンスを教えていると思います。ダンスはもちろんのこと、子どもも大好きなんです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
高橋歩さんの本が好きですね。写真を織り交ぜた旅エッセイを読んでいると刺激されます。最近、旅がしたいモードなのでとくに影響を受けています。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
舞台などの本番前に、私、体のあちらこちらをパンパン叩くんです(笑)。緊張するから気持ちを落ち着かせるのと、叩いて体をほぐすために。それと、初舞台の時、掌に「人」という字を書いて飲み込むというのをやってしまったので、それはもう効く効かない関係なく、習慣になっていますね(笑)。
Infomation
2011年1月26日発売!
黒木メイサ ファースト・フル・アルバム「MAGAZINE」
そのタイトル名、雑誌のようにスタイリッシュな撮りおろし写真、レコーディング直後の黒木さんのインタビュー、それに各楽曲の解説やクリエーターのインタビューなど内容盛りだくさん。シングル「SHOCK-運命-」「5-FIVE」「LOL!」も完全収録。初回限定盤AとBではDVDのみならず中身の写真にも異なる部分があるそう。今の彼女を「見て」「読んで」「知って」「聴ける」豪華マガジン仕様のニュー・アルバムだ。
「MAGAZINE」
価格/初回生産限定盤 ¥4,200(税込)
通常盤(CDのみ) ¥3,059(税込)
発売元/ソニーミュージック
初回生産限定盤詳細/
限定盤A(CD+今までのPV完全収録DVD)
限定盤B(CD+初のワンマンライブ ダイジェスト映像DVD)