第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.46俳優 チョウ ソンハ
パンクより芝居は激しい
Heroes File Vol.46
掲載日:2011/3/4
舞台を中心に活躍する俳優、チョウ ソンハさん。抜きん出た身体の動きや演技力が注目され、国内外の著名な演出家たちから引く手あまたの実力派である。学生時代から演劇一筋のチョウさんに、芝居にかける思いを語ってもらった。
Profile
ちょう・そんは 1981年東京都生まれ。2001年劇団「ひょっとこ乱舞」の旗揚げに参加。2002年「北区つかこうへい劇団」に入団し、1年半で卒業。舞台「エンジェルス・イン・アメリカ」「夏の夜の夢」「春琴」などへの出演で話題となる。第18回読売演劇大賞で優秀男優賞を受賞。現在、3月31日(木)まで野田地図第16回公演「南へ」(会場:東京芸術劇場・中ホール)に出演中。
静寂の芝居にあった究極の激しさに惹(ひ)かれ
軽やかに、跳びはねながら舞台を駆け抜ける。せりふを発する声も実に伸びやか。この人が登場するだけで、その作品の全体に勢いと弾みが出る。
チョウ ソンハさん。今注目の若手俳優である。これまでにも舞台「夏の夜の夢」「春琴」「ザ・キャラクター」などの話題作に数多く出演している。
初めて演劇を経験したのは高校2年の時。親しい友人に誘われ、清水邦夫作の「署名人」という芝居に出演した。
「それまではパンクバンドをやっていたのですが、どんなに激しく音量を上げても何か物足りなかった。でも、この舞台で味わった沈黙と静寂にはパンク以上の突き抜け感があった。最もテンションの高い静寂というか。その時、僕の衝動を満たしてくれるものはこれだと思ったんですね」
法政大学入学後、東京大学の演劇サークルに入り、劇団「ひょっとこ乱舞」の立ち上げにも携わる。そして卒業を控え、友人たちが就職を決めていく中、チョウさんは「北区つかこうへい劇団」へ入る道を選ぶ。
「学生時代、ある劇団の看板女優の身体表現に衝撃を受け、僕もあれがやりたいと思ってしまったんです。とはいえ演技もずっと自己流だったので、まずは基礎を学ぼうと思い、つかさんの劇団に入りました。とにかく30歳までは好きなことをやろう、と。幸い、夢を追うことに関して両親が寛容だったので、完全に甘えさせてもらいました」
役者の奥深さを知りますます虜(とりこ)に
繊細かつパワフルな演技が評価されたチョウさんは、その後メキメキと頭角を現していく。そんな彼の大きな転機となったのが、舞台「エンジェルス・イン・アメリカ」の演出家ロバート・アラン・アッカーマンさんとの出会いだった。
「例えば、どう演じればいいのか分からなくて悩んでいると『そういう時は何もせずただ聞いていなさい』と。そんなふうに時折投げかけてくれるシンプルな言葉がすごく深いんです。それと、台本の表紙からすでに読み込もうとする彼の姿を見て、演劇とは実はとても専門性の高い仕事なんだと感じました。もともと僕は静寂に取りつかれてこの世界に入ったというのもあり、どこか感性や感覚の部分だけで芝居に関わろうとしていた。でも、アッカーマンさんと接する中で役者業の奥深さを知り、職業として意識するようになりました」
新しい作品に出会う度に壁にぶつかる。演出家の言葉をかみしめ、意味を考え抜いた上で開き直り前へ進むしかない。でもその繰り返しが糧になる。そこにこそ、役者という仕事の魅力を感じている。
同世代に感じる嫉妬が原動力に
現在、野田地図の公演「南へ」に出演中のチョウ ソンハさん。昨年の「ザ・キャラクター」に続いて野田秀樹作・演出作品は2作目。「野田さんは、自分が書いた台本なのに変に執着せず、できないんだったら変えようよ、と言って現場で軽やかにやってのけてしまう。だから、稽古で芝居が生き物のようにどんどん変わっていく。それができてしまうのがすごい。尊敬しています」
また今回は共演の渡辺いっけいさんから、役者としての現場での「居方」を学ばせてもらっているという。
「細かなところまでしっかりと見ていて、気になったことを放っておかないんです。誰かがいつか言ってくれるだろう、なんてたぶん思わない人だと思う。野田さんにもどんどん意見を言うし、僕たちにも気づいたことは何でも言ってね、みたいな空気を作ってくださる。お陰で僕自身、いつも以上に伸びやかな、いい精神状態で芝居に臨めています」
主演の妻夫木聡さん、蒼井優さんは同世代。それだけに受ける刺激も大きい。
「二人共、根っこから謙虚なんです。でも、わざわざ謙虚さを振りまいてもしかたないというのも分かっているから、ここはあえて強がってガツンと本気でやります、みたいな感じで、何に対してもがむしゃら。その姿勢が本当にかっこいい。思い切りの良さが半端じゃない。覚悟ってこういうことかなと思いました。同世代として勇気ももらいますが、嫉妬もします。いつになったらあんなふうになれるのか(笑)。そんな二人と舞台に立てることはとてもうれしいし、実に幸せです」
人を観察し共通項を探すのが好き
それにしても、しっかりと共演者を見ている人だ。
「父親譲りの性格でもあるのですが、僕はもともと人を観察したり分析したりするのが好きなんです。例えば、意見が全く異なり求めるものも違う二人がいたとしても、絶対何かしら共通点はあるはずだと信じ、それを探そうとする。自分と人との関係においても同じ。自分の好きなものをアピールしつつ、他人の好きなものとどうすり合わせるか。そこを常に考えますね」
芝居を始めて10年以上になるが、「まだ高校時代の、最初に求めた『衝動』は満たされていないんです。人との調和も探すし、時には妥協もするけれど、それによって自分が心底求めているものがブレないよう気をつけながら、前へ進んでいきたい」。人懐っこい笑顔の向こうにのぞかせるまなざしが熱い。どう進化していくか、目が離せない。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
まだあきらめていない、追い続けている夢ですが、いつか音楽をやりたくて。幼い頃、クラシックギターはしっかり基礎から学びました。今も一人でギターを弾くのが好きなんです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
本ではないのですが、フランク・マーシャル監督の映画「生きてこそ」。事実をもとにしたドキュメンタリー映画なのですが、子どもの頃に観てとても衝撃を受けました。ポン・ジュノ監督・脚本作「殺人の追憶」という映画も大好きで今でもよく観ています。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
あえて意図的に、関係ないこと、違うことをしてみる。そうすることで気分をいったんリセットし、本番に臨んだりします。
Infomation
チョウ ソンハさん出演中!
野田地図(NODA・MAP)第16回公演「南へ」
火の山が好きな男が火山観測所に赴任するが、そこで待っていたのは虚言癖の女。やがて大噴火の噂が流れはじめる。流れるのは噂だけか、それとも本当の溶岩が流れ出すのか……。野田地図の新作「南へ」が、東京芸術劇場にて公演中。「ワクワクするエンターテイメント性がありながらも、いろんなことを考えさせてくれる、そんな作品だと思います。ぜひ観に来てください」(チョウ ソンハさん)
「南へ」
日程/2011年2月10日(木)~3月31日(木)
会場/東京芸術劇場 中ホール
作・演出/野田秀樹
出演/妻夫木聡、蒼井優、渡辺いっけい、高田聖子、チョウ ソンハ他
公式サイト/http://www.nodamap.com
問い合わせ/NODA・MAP 03-6802-6681