第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.67シンガー・ソングライター/俳優 星野源
いろんな顔があっての僕
Heroes File Vol.67
掲載日:2012/1/20
中学時代から音楽に夢中になって曲を作り、演劇にも魅了された。でも物書きにも憧れて、コツコツと一人文章を書き溜めてきた。それらすべてが今、実際の仕事になっている星野源さん。「だから正直、あの頃とあんまり変わっていないんです」といたって謙虚で、一見「普通」な星野さんの魅力に迫った。
Profile
ほしの・げん 1981年埼玉県生まれ。俳優、ミュージシャン、作家として幅広いジャンルで活躍する。映画『キツツキと雨』(2月11日〈土・祝〉公開)の主題歌であるセカンドシングル「フィルム」が、2月8日(水)に発売予定。3月には舞台「テキサス」で舞台初主演。著書に『そして生活はつづく』(マガジンハウス)がある。
やりたいこと絞る発想はなかった
俳優であり、ミュージシャンとしてはインストゥルメンタルバンドのリーダーを務める傍ら、2010年からソロ活動も開始。さらに映像制作や執筆活動も行うなど、様々なジャンルで活躍中の星野源さん。いったいどれが本業なのだろうか。
「全部です(笑)。どれも好きだからやっていることだし、全ての活動をひっくるめて星野源になればいいなと思っています」
いずれも中学時代から始めていたことばかり。でも本人は才能があふれていると思っていたわけではない。むしろ逆。
「何もないからこそ、できるようになりたかった。その頃は誰に見せるわけでもなく、小説や曲を書いたり、楽器の練習をしたりしていました」
役者をやりたい!と強く思わせてくれたのは、高校時代に観(み)た松尾スズキさん主宰の劇団「大人計画」の舞台だ。
「それまでの僕は内気だったのもあり、自分を抑え、いい人を演じていました。でも、心の闇も笑いも感動もある芝居を観て全部破壊されました。内面に秘めていたドロドロした部分を一気に吐き出せたような吹っ切れるものがあり、正直な自分が見えた気がしました」
高校卒業後、さまざまな劇団のオーディションを受け、その都度芝居に出ていたという。そして23歳の時、「松尾さんが楽器の弾ける役者を探している」と星野さんに白羽の矢が立ち、舞台「ニンゲン御破産」に出ることになった。
直談判で大人計画事務所に所属
「その時、勇気を振り絞って『入れてください』とダメもとでお願いしたんです。ずっと憧れていたので。そうしたら『いいよ』と。そんなに簡単でいいの?と思ったのですが、直談判して所属できたのは僕だけだそうです」
すでに音楽活動をしていた星野さんは「バンドもやっていて大丈夫ですか?」と社長に聞いた。すると「全然問題ない。むしろいろんなことをやっている方が面白いよね」と。そんな風に言ってくれる人は初めてだった。
以後、舞台はもちろん、映画やドラマでも活躍。最近ではドラマ「11人もいる!」に出演し、話題を呼んだ。
一方、役者と並行して続けていた音楽。20歳で結成したインストゥルメンタルバンド・SAKEROCKは、その独自の世界観が多くの人に支持される。だが活動を続けるうちに、次第に「歌いたいなあ」という気持ちが募っていった。
「とは言えソロで活動するということは、内面をそのままさらけ出していくこと。それは正直怖かったのであえて触れないようにしていた」。
そんな星野さんの背中を押してくれたのが細野晴臣さんだった。
ソロ活動で初めて自分の軸ができた
ある時、尊敬する細野晴臣さんが、自身のレーベルからソロアルバムを出さないかと声をかけてくれた。これは腹をくくるしかないと、星野源さんは逃げずに自分の素の部分を有りのまま表現し、初のソロアルバムを完成させる。それが想像以上に多くの人に支持され、CDもヒット。
「自分の存在を認めてもらえ、自分の中に大きな軸ができたような手応えを感じました」
ところが、セカンドアルバム「エピソード」の制作では大変な思いをした。制作中に東日本大震災があった上、個人的にも心が引き裂かれる悲しい出来事が次々に起こった。
「人生で最も大変な3カ月だったかもしれないくらい、精神的に過酷でした。それでも自分が求めていた感じに何とか仕上げることができたのでよかったのですが」
そんな経験から、星野さんはつらさも苦しみも仕事として向き合えば楽になるのではないかと思うようになった。
「例えば主婦の不満から便利グッズが登場するように、自分の抱えている不満、不安みたいなものをむしろ利用して、新たなアイデアにしたり、商品化したりしてみる。そういう発想を持つと苦しみもバネになって、さらに楽しく生きられるんじゃないかと。ちょっと例えが変だけど(笑)」
この直後、大きな仕事が入る。映画『キツツキと雨』の主題歌を作ってほしいと、監督直々のオファーが入ったのだ。
いい曲だなって自分でも思えるのがうれしい
それは60歳の木こりと25歳の若い映画監督の交流が織りなす温かな映画だった。
「観終えて思わず拍手してしまった」ほど面白かった。その感動の余韻が冷めないうちにサビができ、自然に曲は完成。
「映画の雰囲気を邪魔せず、しかも自分の言いたいことも伝えられたと思う。この曲を作ったことで一気に突破できたというか、何だかそんな清々(すがすが)しさがあるんです。単純に、聴いていて楽しい雰囲気に仕上がっていて、自分でもいい曲だなって思えるのがうれしい」
確かにそれまでの星野さんの曲と比べると、不思議な力強さと軽やかな前向きさが加わっている。
音楽、芝居などいろんなことを同時にやっていれば、歩みは遅くなってくる。同世代の俳優に比べると出演本数は少なく、作品内容も限られる。でも、それなら今の状況でもやれる方法を見つければいいという。
「何でも自分次第。だからこそ、これからもやりたいことはやりたいと言い、挑戦し続けたいです」
星野さんの作る曲はこれからどう変化していくのだろう。人の成長を見るような楽しさが、彼の歌にはある。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
やりたいことはほぼ職業になったのでなかなかないのですが、あえて言うならAV監督。 エロをつくる人たちって実はすごくまじめで、真剣に取り組んでいますよね。それに、第一線で活躍している映画監督や作家の方の多くは、若い時にピンク映画に携わっていたり、アダルト系の小説を書いていたりする。そういう意味でも非常に興味があります。
人生に影響を与えた本は何ですか?
漫画ですが、山下和美さんの「天才柳沢教授の生活」。 コメディですが、所々にさりげなく哲学的な要素が入っていて、ビビッとくる言葉があります。読んでいていつも「すごい!」と唸ります。ものづくりをする上で非常に勉強になります。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
奮発して食うこと。 鰻とかいいですね。好きです。
Infomation
星野源さんが主題歌を担当した映画 『キツツキと雨』が2月11日(土・祝)より公開!
60歳の素朴で無骨な木こりと気の弱い新人映画監督という、出会うはずのない2人が出会い、奇跡を起こすハートフルな物語。『南極料理人』の沖田修一監督のオリジナル作品だが、かねてより星野源さんの音楽が好きだった沖田監督からの指名オファーで、星野さんが主題歌「フィルム」を完成。聴いているうちに沸々と元気になってくる曲で、映画のエンディングを盛り上げている。
キャスト/役所広司、小栗旬、高良健吾、臼田あさ美、古舘寛治、嶋田久作、平田満、伊武雅刀、山崎努 他
監督・脚本/沖田修一
主題歌/星野源「フィルム」(ビクターエンタテインメントより2月8日発売予定)
公式HP/http://kitsutsuki-rain.jp