老舗の筆記具メーカーである「ゼブラ」。その名前は、創業者が英語辞書の後ろから検索して決めたという
「どれだけ力を込めても芯が折れない世界初(※)のシャープペン」として発売されたゼブラの「デルガード」。
シンプルながら夢のようなその機能は、さまざまな方向からの筆圧に対して芯を守る2つのメカニズムの開発によって実現された。2014年11月の発売後すぐに火が付き、約1年でおよそ400万本を売り上げたという。
当初の0.5ミリ芯用に加え、現在は芯のサイズを増やし、金属グリップの高級タイプなど多様化して販売を拡大。それらの企画を担っているのが瀬川さんだ。
大学では「感性工学」という、人の心に着目したもの作りについて学んでいた。「もともとは、自分のかかわったものが、商品にどう組み込まれているかが見えるものを作りたいと思っていました」
基礎研究部を経て現在の部署に異動した09年、社内で「デルガード」が生まれるきっかけとなる動きが起きる。
当時シャープペンは500〜700円の高機能タイプが潮流で、ゼブラはその分野が手薄だった。そこで本格的に乗り出そうと中高生のニーズを調査すると、浮き彫りになってきたのが「芯が折れない」ことへの強い要望。それに応える研究はすぐに始まったが、目指す解決策が見つからず、研究は中断された。
紙面に対して垂直に上からかかる筆圧は内蔵されたスプリングが吸収し、斜めからの筆圧には金属パーツが出てきて芯を保護する
しかし12年、再度この案件に光が当たる。そして研究者が苦労の末、上からかかる筆圧にはスプリングを利用し、斜めの筆圧には金属パーツが下りて芯をガードするという2つの機構を開発して「折れない」機能を実現させた。
こうして生み出された画期的な製品。それをどう売り出すか。瀬川さんが携わったのはここからだ。
「最初に見た時からこれは売れると思いました。今まで無理と考えられていた技術の実現をいかに世間に訴求できるか。例えば『折れにくい』をうたった他社製品と差別化するため、インパクトを持って世に送り出そうと、『折れない』と言い切ることにしました。これまで負けていた領域なので、普通ではダメだと攻めの気持ちだったのです」
商品デザインはコンペ形式で採用。また中高生を集め、「折れない」シャープペンと銘打って使い心地を試してもらった。各人がどの長さで芯を使うかを計測し、折れないためのカバー領域を探って、3回ノックまでガードできるという品質にたどり着く。そしていよいよ、1年後の販売に向けて大量生産の準備に入った。しかしその直前、問題が発生する。
※同社調べ。
最初に発売した0.5ミリ芯の「デルガード」。価格は450円(税別)
芯が折れないゼブラのシャープペン「デルガード」。その発売まで1年を切るタイミングで、問題が発覚する。斜め上からかかる筆圧に対して芯を守るため金属パーツが下りてくるのだが、その時の作動音が気になるというのだ。
「音が、書く人の集中力をそぐというわけです。発売の遅れは怖かったですが、設計変更となっても時間内で挑めることはやろうとなりました」。販売戦略を担った瀬川さんはそう語る。そして研究者の努力の末、ゴム製のリングを挟むことで問題を改善。発売に向け、瀬川さんたちはブランディング(ブランド作り)に注力することになる。
「従来にない商品の世界観を明確に伝えるため、『もう折れない。』というキャッチコピーや、リリースなどで発していく情報も一言一句、細かくつめていきました。勉強に集中できて、ベストパフォーマンスを発揮できる筆記具なんだと。お陰で、社内外のプレゼンで何を聞かれても核心を伝えられたと思います」
「3回ノックまでなら本当に折れません」と語る瀬川さん。社内のプレゼンで試用してもらった際も好評を得た
発売前、ネットに商品の詳細が分かる動画を公開すると、すぐに反響を呼ぶ。瀬川さんがとても印象的だったというのが、大型文具店への商談に同行した時のことだ。
「普段なら説明後にいろいろと質問をいただくのですが、この商品に関しては説明すると『はいOK!』みたいな感じでした(笑)。『こういう商品を待っていた』と言ってくださり、ニーズを満たすものを作れば、こんなにいい反応をいただけるのかと感動しました」 そして14年11月、ついに発売。約4カ月で200万本の年間目標を達成し、現在もその勢いは止まらない。
「この経験で、筆記具の主な消費者である子供の数は減っても、単価の高いものの販売数が上がれば利益は生まれるということを実感しました。付加価値のある商品を細部まで作りきって売れ筋にすれば、市場の伸びしろはまだまだあるんですね」
瀬川さんが企画の仕事で大事にしているのは、周囲の人に「おっ!」と関心を持ってもらえる点をどれだけ作れるかだという。
「いい案を思いついた時は研究者をまず口説き、何とか試作品を作ってもらい、第三者に試してもらって、その手応えを必ずフィードバックします。すると研究者が同じ目線でやる気になってくれる。だから協力を仰ぎやすいんですね。今回は技術ありきの仕事でしたが、次は自分のアイデアを実現した商品で、今回のような状況を生み出したいと思っています」
少年ジャンプへの広告とフリスク
『週刊少年ジャンプ』の裏表紙に出稿した広告です。ジャンプの読者は筆記具のメインターゲット。雑誌の雰囲気を生かす形で「折れない」ことを強調し、「デルガード」のイメージを誇張しました。面白いものになってすごくうれしかった。心が折れそうになった時にちょいちょい見ています(笑)。そして、仕事中の気分転換に利用しているのがメタルケースに入った「フリスク」。大きなケースが珍しいので、これを持っていると社内のいろんな人に声を掛けられるので、コミュニケーショングッズとしても重宝していますね。
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