
この記事でわかること
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エンジニアが長期的に市場価値を維持するための「ポータブルスキル」の鍛え方
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新しい環境で急成長するエンジニアに共通する、自社文化へのリスペクトと「相談力」
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生成AI時代求められる「問いを立てる力」とツールの正しい活用法
AIツールがコードを自動生成する現代において、エンジニアの「評価基準」は大きく変化しつつあります。高い技術力を持つことは大前提となり、それらをどのようにビジネスの価値へ変換できるかが問われる時代になりました。
本記事では、株式会社エーピーコミュニケーションズで取締役副社長を務める永江耕治氏と、人事本部 Talent Acceleration部 部長の小山清和氏にお話を伺いました。
人事視点から見える「本当に評価されるエンジニア」の条件をはじめ、転職後に飛躍するためのマインドセット、そして中堅エンジニアが陥りやすいキャリアの罠まで、市場価値を高め続けるための具体的な行動指針を深掘りします。
▶ログ分析基盤の利用率を20倍にした「実演アプローチ」永江 耕治
株式会社エーピーコミュニケーションズ 取締役副社長
Webエンジニアとしてキャリアをスタートし、2002年入社後はSIer案件に従事。人事部門への異動を経て、人的資源管理のMBA(中央大学大学院)を取得。2016年にインフラ部門へ復帰し、250名以上を統括。2018年より現職。
【X(旧Twitter)】:https://x.com/Kooozii
小山 清和
株式会社エーピーコミュニケーションズ 戦略人事本部 Talent Acquisition部 部長
株式会社グッドパッチなどでの豊富な採用経験を経て、2023年11月にエーピーコミュニケーションズ入社。2024年1月より現職。採用戦略の立案から実行、認知向上施策まで幅広く手がける。(一財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ。
【X(旧Twitter)】:https://x.com/nontaro0214?lang=ja
株式会社エーピーコミュニケーションズ
1995年11月創業。ITインフラ自動化のプロフェッショナルとして、Azure Kubernetes ServiceやAnsibleなどを用いたクラウドネイティブ環境の内製化・自動化支援やシステムインテグレーションを手がける。お客様の課題解決と共に、エンジニアが熱狂できるキャリアパスの創出にも積極的に取り組んでいる。
【URL】:株式会社エーピーコミュニケーションズ | AP Communications(APC)
目次
人事視点で見えた「評価されるエンジニア」。技術力以外で市場価値を分けるポイント

エンジニアの採用や組織統括を数多く経験されてきた中で、技術力が同等でも現場で重宝される人とそうでない人がいると思います。人事視点から見て、評価されるエンジニアの共通点はどこにあるのでしょうか。
技術者の方は技術が好きな方が多く、それ自体は新しいスキルをアップデートしていく上でとても重要でポジティブな要素です。一方で、技術を自分で楽しむだけになってしまうと、実際のビジネスの中で技術をどうやって価値として提供していくかという視点が抜け落ちてしまうことがあります。
自分の趣味の範囲に留めず、エンジニアが技術をビジネス価値に転換するためには、具体的にどのような意識を持つべきだとお考えですか。
提供するサービスを届ける相手、つまりお客様が誰なのかをしっかり意識して考えられるかどうかが、評価の大きな分かれ目になります。もちろん、技術的に尖っている人を評価する場面もありますが、チーム全員が技術志向に偏りすぎるとビジネスとしての推進力がなくなったり、チームとして機能しなくなったりする恐れがあります。多様性を確保しつつも、チーム最適の視点を持つことが重要ですね。
技術力というベースの上に、顧客視点やチームへの貢献意識が乗ってくるわけですね。小山さんは長年IT業界の採用に携わられていますが、時代とともに、エンジニアが市場から求められる「価値」はどのように変化してきたのでしょうか。
私は約15年IT業界の採用に携わっていますが、昔は「システムを作れること」自体の価値が先行していたように思います。当時はブラウザゲームなどが主流で、一つの共通システムをベースに見た目やテーマを変えて量産するような時代で当時はとにかく『作ること』が正義でした。
そこからフィーチャーフォンからスマートフォンに移行していく中で、徐々にサービスがリッチになり、サーバーサイドだけでなくフロントエンドやアプリのエンジニアが出てきて、UIやUXといったユーザー側のことを考えてサービスを作ることが求められるようになりました。
さらに最近では、AIの台頭などによってその価値基準もスピード感を増して変わってきているとお聞きします。これからの時代に価値が上がるエンジニア、あるいは残る仕事の要素とは何でしょうか。
現在はさらに変わり、作って出した後に、お客様がそれを最適に活用できる状態を作ることが重要になっています。導入して終わりではなく、お客様が使いやすいようなガイドラインを整備するなど、自分たちが離れた後もお客様が活用できる状態にしておくことが重要になってきています。加えて、非エンジニアの方とも関わる機会も多く、そうした意思決定者を説得するコミュニケーション能力も不可欠です。
| エンジニアに求められる価値の変遷 | 時代背景と特徴 | 求められるエンジニアのスタンス |
| 第一段階:作る価値 | 作ること自体が重要視されていた時代。 | 高い技術力でシステムをスピーディーに構築する。 |
| 第二段階:届ける価値 | スマートフォンが主戦場となり、サービスがリッチ化した時代。 | UI/UXを考慮し、ユーザー視点でサービスを設計する。 |
| 第三段階(現段階):活用される価値 | AIの進化により、顧客が自分たちでツールやサービスを使いこなせるように導くことが求められる。 | ガイドライン整備や非エンジニア層との関わりを通じ、顧客がツールやサービスを個別最適に活用できる状態を作る。 |
SNSなどで「AI時代に消える仕事・残る仕事」というような発言がありますが、それを脅威とするのではなく、逆説的に「AIにはできない領域を磨くことで、逆に自分の市場価値を高めるチャンスだ」と捉える視点が必要だと思います。
転職後に急成長するエンジニアの共通点。自社のカルチャーをどれだけリスペクトできるか
エンジニアが転職などで新しい環境に飛び込んだ際、早く活躍できる人とそうでない人がいると思います。新しい環境でスムーズにオンボーディングし、急成長するエンジニアにはどのような共通のマインドがあるとお考えですか。
これはエンジニアに限った話ではないですが、新しい環境の歴史や背景、カルチャーをリスペクトできるかどうかが鍵になります。エンジニアとしての「こうあるべきだ」という正義や正論をいきなり押し付けてしまうケースは失敗しやすいですね。
前職での成功体験や、最新の技術トレンドをそのまま持ち込んでしまうと、軋轢を生む原因になりそうですね。では、既存のやり方に疑問を持った場合は、どのようにアプローチするのが正解なのでしょうか。
まずは「なぜ今の仕組みになっているのか」という理由を探りに行くことです。例えば「競合他社はクラウドを使っているのに、なぜうちはオンプレミスなんですか?」と技術的におかしいと指摘しても、例えばその会社としては予算なども考慮して合理的にオンプレミスを選択している可能性があるわけです。
その文脈を無視して否定から入ると、正論であっても受け入れてもらえません。状況を特定した上で、ボトムアップで提案するのかトップダウンでいくのか、どう立ち振る舞うかを選択できる人は柔軟に対応できます。
なるほど。永江さんにもお伺いしたいのですが、新しいプロジェクトにアサインされた際など、実務面でうまくいく人の行動特性はありますでしょうか。
うまくいく人の大きな特徴として「相談がうまい」という点が挙げられます。自分が今どこで困っているかを適切に可視化し、自ら周囲に「ちょっといいですか」と声をかけられる人は、新しい環境にも馴染みやすく、周りも支援しやすいんです。
「相談できること」自体が一つの重要なスキルなんですね。ただ、マネジメント層などポジションが上がると、責任感から逆に相談しづらくなるという悩みも聞きそうです。責任範囲が広がる上位レイヤーのエンジニアが、うまく立ち回るためのコツはありますか。
ポジションが上がれば上がるほど、自責の念が強くなり一人で抱え込みがちになります。しかし、責任範囲が広がるほど認知の限界が来るため、全てを自分一人で他の人よりも高いレベルでこなすのは不可能です。
だからこそ、上長への相談はもちろん、メンバーの専門能力を頼り、適切に委任することが不可欠になります。自分の状況を開示し、様々な人と相談しながらチームで進めていくスキルが非常に重要になりますね。

AI時代のエンジニアの「資格」と「評価」は? 評価者の視点を持つ重要性
AIがこれだけ普及してくると、エンジニアが取得する「資格」の意味合いも変わってくるのではと感じます。AI時代におけるエンジニアの「資格」の価値について、どのようにお考えでしょうか。
AIによって今すぐ資格の重要性が下がるかというと、そんなことはないと思っています。資格は体系的に知識を学ぶ手段として優れていますし、一定の知識を獲得していることを第三者的に証明する意味ではとても良い手段です。
ただ、昔も今も、資格さえ取っていればいいわけではなく、やはり現場では業務知識や業務経験の方が重宝される傾向にはあります。
私も同意見です。AIのツールが使えるようになったからといって、世の中の評価者の価値観がいきなり「AIが使える人を評価する世界」に切り替わるわけではありません。評価する側の価値観はもっと緩やかに変わっていくものです。
以前よりは緩くなったものの、学歴フィルターが急にはなくならないのと同じで、いきなり「AIツールが使えます」と言う人と「努力して資格を取得しました」という人がいれば、今の世界観だと後者を評価する企業もまだ多く存在します。自分がどう評価されるのか、評価する側がどこを見ているのかという視点を持つことが非常に大切です。
| AI時代におけるスキルの証明と評価 | 意味合いと特徴 | 評価者の視点 |
| 資格の取得 | 体系的な知識の習得と、第三者によるスキルの証明。 | 努力の過程や基礎知識の担保として、依然として高く評価される傾向がある。 |
| 業務経験・知識 | 現場で即戦力として機能するための実践的なスキル。 | 資格以上に、実務でどう価値を発揮できるかが最も重視される。 |
| AIツールの活用 | 開発の効率化や品質向上をもたらす強力な武器。 | 重視されつつあるが、世間の評価基準がいきなり全面的に切り替わるわけではない。 |
「成功体験」を手放せるか。役割の変化で飛躍するエンジニアの考え方
中堅エンジニアになると、開発職からインフラへの転換や、プレイヤーからマネジメントへのキャリアチェンジを迫られることも多いと思います。こうした役割の変化において、つまずいてしまう人にはどのような傾向がありますか。
一番つまずきやすいのは、過去の成功体験に固執してしまうケースです。例えばエンジニアからマネジメント側に移ったのに、まだ自分で手を動かしてコードを書きたいという思いが強かったり、自分の方が早くできると思ってしまったりすることがあります。
マネジメントはチームの成果を最大化することが役割なので、プレイヤー時代とは違う見方をしていかなければなりません。自分に今求められている役割を客観的に捉え、「この行動をやめよう」「人に任せよう」と行動変容を設計できることが成功の要因になります。
行動を変えるためには、まず自分の現在地を正しく知る必要がありますね。小山さんはプロフェッショナルコーチの資格もお持ちですが、キャリアの壁にぶつかった際、どのように思考を整理して壁を乗り越えるべきでしょうか。
私がコーチングの中でよく「Will(理想)」「Can(能力)」「Must(やるべきこと)」の観点からその方のキャリアを整理するのですが、多くの方は「どうなりたいか」という理想(Will)を描くのですが、なりたい自分になるために必要となる「Can(自分の現状の能力や周囲との信頼度など)」に目を向けていないことが多いんです。

なぜなりたい自分になれないのかと考えた時、それは自分の能力が足りないからなのか、周囲からの信頼が足りないからなのか、といった原因を特定してMust(やるべきこと)に落とし込む作業が実は一番大事なのです。
つい環境や会社のせいにしてしまいがちですが、まずは足元の自分自身の不足分に向き合うということですね。とても耳が痛いですが、本質的です。
例えば、マネージャーになったのにメンバーの視座のままで経営の方向を向いていないと、プレイヤーの時はそれでよかったかもしれませんが、マネージャーとしては評価されず壁にぶつかります。外の環境や他人といった「定数」を変えようとするのではなく、自分自身という「変数」に目を向けなければなりません。行動を変えないと壁は越えられないので、逃げずに自分と向き合うことが重要です。
| 思考のフレームワーク | 意味 | キャリアの壁を越えるためのアプローチ |
| Will (理想) | ありたい姿 | 自分が目指すキャリアやポジションを描く。 |
| Can (能力・信頼) | 現在地 | 理想に到達するために不足している能力や視座、周囲からの信頼を客観視する。 |
| Must (行動) | やるべきこと | 周囲や上司の期待にまずは応えられるように、不足を補うための具体的な学習や、信頼残高を増やすための行動変容を設計する。 |
エンジニアの市場価値を下げてしまう「避けるべきキャリア選択」
キャリアを重ねるにつれて、長期的な市場価値を意識するエンジニアも増えてきます。市場価値を下げてしまう「避けるべきキャリア選択」があれば教えていただけますか。
気をつけたほうがいいのは、「コンフォートゾーンに長く居すぎること」です。特定の部署やお客様と長く付き合うと、過去の経緯や社内の人間関係に精通し、その中では重宝されるようになります。
しかし、それが「外に持ち運びできるスキルなのか」を客観視しておかないと、長期的な市場価値は停滞してしまう危険性があります。社内事情への精通だけに依存した評価は、一歩外に出た時に通用しないことが多いですからね。
小山さんも、この「会社に依存したスキル」について懸念されていますか。環境が変わっても市場価値を保つためには、何が必要になってくるのでしょうか。
そうですね。私はスキルを可視化する際、「テクニカルスキル(専門性)」「ポータブルスキル」「スタンス」という3つの構造に分けて考えているのですが 、特定の環境に依存したテクニカルスキルだけに頼ってしまうのは非常に危険です 。前の会社では上手くいっていたのに、会社が変わった瞬間に全く通用しなくなってしまう 。私はこれを「専門性の罠」と呼んでいます 。
その罠を回避して市場価値を保ち続けるために必要なのが、どの会社にいても必要、かつ持ち運びができる「ポータブルスキル」なんです 。これらを専門性と掛け合わせることで、環境適用力を高めていくことができます。もちろんスタンスも重要なのは言うまでもありません。
エンジニアであっても、対話力や構造化のスキルが身を助けるのですね。採用面接などで、ポータブルスキルの有無はどのように見極めているのでしょうか。
ポータブルスキルは自己評価ではなく、周囲がその能力があるかを判断して初めてその能力があると言える側面があります。「私は〇〇が高いです」とアピールがあった際、それは自己評価なのか、それとも周囲からの評価なのかは冷静に見極めることが必要です。面接時は、会話の運び方や結論から伝える姿勢、根拠の提示など、コミュニケーションの中で自然と現れるものから私達は判断しています。
| エンジニアのスキル構造と 市場価値の決まり方 | 特徴とキャリアへの影響 |
| テクニカルスキル (専門性) | 企業や業界のトレンド・予算によって価値が変動しやすい(専門性の罠に注意)。 |
| ポータブルスキル (汎用スキル) | 論理的思考力、構造化スキルなど。どの企業でも必要となり、専門性との「掛け算」で価値を生む。 |
| スタンス (姿勢・人間性) | 企業の歴史や背景をリスペクトし、周囲とも良好な関係を築き、適切な立ち回りで信頼残高を築く基盤となる。 |
エンジニアが希望する「キャリア」や「案件」を勝ち取るための行動指針
AIがコードを書ける時代になり、エンジニアの存在意義が問われる場面も増えてきました。生成AIが進化する中で、人間にしかできない、あるいはAI時代に価値が上がるスキルとは何でしょうか。
AIにできないこととして、「問いを立てる力(課題設定力)」と「最終的なアウトプットに対する責任を負う覚悟」の2つが人間に残る重要な役割です。何をAIに任せるべきかという課題を設定し、AIが生成したものの品質に責任を持つのは、どれだけ技術が進歩しても人間の仕事です。
日本のIT業界は海外と違い、これまでシステム構築を外部のベンダーに発注して「責任を外に置く」文化がありました。しかし、AIを自社で活用するとなれば、うまくいかなかった時の責任は自分たちで負わなければなりません。この「責任の内在化」を引き受ける覚悟が求められます。
AIが出した答えを鵜呑みにせず、最終的なジャッジを下す責任感がより求められるのですね。日々の業務でAIツールを活用する際、エンジニアが気をつけるべきことはありますか。
「動いたから良い」という思考停止に陥らないことです。出力の根拠を咀嚼し、仕組みを理解する手間を惜しまないことが重要です。便利になるほど原理がわからなくなる危険性があるので、品質と再現性を担保するためにも「原理の理解」は継続していく必要があります。
AIに頼りきりになるのではなく、人間側の専門性を上げ続ける両輪の努力が必要ということですね。では、自分の希望するキャリアを獲得するために、実践するべきことを教えてください。
自己分析の実践として、定期的に信頼できる「外部の視点」を取り入れることをおすすめします。例えば、私はあえてSNSなどを通じて知人などから、敢えて耳の痛いフィードバックをもらいにいくようにしています。もちろん全て受け止める必要はありませんが、信頼する人からの本質的な指摘に焦点を当て、自分の行動変容につなげていくことが重要です。
会社に対しては、自分がやりたいことをしっかりと開示し続けることが大事です。会社が目指す方向と自分のやりたいことが100%一致しなくても、重なる部分は必ず見つけられるはずです。一度伝えて終わりにせず、期待のすり合わせを行うために、しつこいくらい何度も繰り返しコミュニケーションを取り続けることが、希望するキャリアを勝ち取る第一歩になると思います。
ライター