ServiceNow、新AIプラットフォーム「Zurich」リリース--「3年後・5年後を見据え仕事のパートナーに」

thumb_zurichServiceNowプラットフォームの最新バージョン「ServiceNow Zurich」について説明する同社プレジデント CPO(最高製品責任者)兼 COO(最高執行責任者)アミット・ザヴェリー(Amit Zavery)氏(画像提供:ServiceNow Japan)

ServiceNowが提供する3つの価値、それに加わった新たな価値がAI

ServiceNow Japanは9月10日、米国時間同日にリリースされたServiceNowプラットフォームの最新バージョン「ServiceNow Zurich」についての記者説明会を開催し、Zurichで新たに追加されたAI関連機能を紹介した。

ServiceNowは2011年にリリースされたAspen(米国アスペン)以降、バーション名に都市名を冠しており、Zurichは、2024年8月にリリースされたXanadu(上都)、2025年3月にリリースされたYokohama(横浜)に継ぐ、都市名の最初のアルファベットが最後(Z)となるバージョンとなる(次バージョンは2026年のAustraliaと、国名の最初のアルファベット順での名称・リリースとなる予定)。

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AI関連機能が追加されたServiceNowプラットフォームの最新バージョン「ServiceNow Zurich」についての説明会が東京都港区で開かれた(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

Zurichの特徴は「セキュアでスケーラブルなAI Platform」としての機能を拡充したことにある。これらは、3つの機能群に分けることができる。

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最新版のZurichではエンタープライズグレードの開発とガバナンスプラットフォームを提供する(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

1つめは、ビルドエージェント「Build Agent」や最適化エージェント「Adaptive Agent」などのエージェント機能の提供と、開発者サンドボックス(Developer sandbox)などの開発者向け新機能の提供だ。これらは「バイブコーディング(Vibe Coding)とエンタープライズの統合」を実現したものだという。

2つめは、新しい「ServiceNow Vaultコンソール」や「Machine Identityコンソール」などによる「AIセキュリティの強化」だ。

3つめは、エージェント型プレイブック(Agentic Playbook)やタスクマイニング・プロセスマイニング機能の強化などによる「データを価値に変える自律ワークフロー」の実現だ。

ServiceNowが提供する3つの価値、それに加わった新たな価値がAI

発表にあたり、 ServiceNow Japan 執行役員社長 鈴木正敏氏は、顧客が抱える課題やニーズについて「この3年で、IT部門自身の変革、生産性向上に直結するDX強化、次世代CRMという3つの領域において、お客様の課題やニーズが変化したと実感しています。IT部門自身の変革では、ITサービスマネジメント(ITSM)やITオペレーションマネジメント(ITOM)などServiceNowをデファクトとして利用いただいてきました。DX強化についても、ServiceNowをSystem of Engagementのためのサービスとして活用いただき、実績も積み上がっています。さらに、次世代CRMについてもフロントエンドのCRMだけでなく、基幹システムを含むミドル、バックエンドと連携した一気通貫のサービスとしてServiceNowに注目いただくケースが増えました」と説明した。

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ServiceNow Japan 執行役員社長 鈴木正敏氏(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

そのうえで、これら3つのトレンドに新たに加わる価値がAIだという。

「AIは、生成AIを中心に、作業としての業務効率化に一定の効果を果たしてきました。ただ、個別の導入が多く、全社でのビジネス効果創出には課題も残ります。そんななか、分断した業務をつなぎ、自動化を全社横断で進められるエンタープライズAIプラットフォームを提供し、イノベーションを支えます。 3年後、5年後の未来を見据えると、AIエージェントは、一緒に働くパートナーとなるでしょう。AIで企業価値を高めていくことを今から取り組んでいくことが重要です」(鈴木氏)

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3年後、5年後の未来を見据えれば、一緒に働くパートナーとしてAIエージェントを活用することは必須だと鈴木氏は訴えた(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

マルチエージェントワークフォースのコントロールタワーとして機能

続いて、ServiceNowのプレジデント CPO(最高製品責任者) 兼 COO(最高執行責任者)アミット・ザヴェリー(Amit Zavery)氏が、製品や機能を紹介した。ザヴェリー氏はまず、ServiceNowの差別化要素は「製品戦略としてサイロを打ち破るエンタープライズ全体のソリューションを提供すること」にあると指摘した。

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ServiceNowのプレジデント CPO兼 COOのアミット・ザヴェリー氏が直々に説明、日本市場重視の姿勢が垣間見えた瞬間だ(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

ServiceNowは、ITSMやITOMのプラットフォームとして知られるが、近年では、サードパーティー製のCRMやERPなどと連携しながら、フロントエンドからバックエンドまでのさまざま業務のコントロールタワーとして機能させられるように進化してきた。AIについても、2025年5月に「AI Control Tower」をリリースし、さまざまなエージェントを管理しながら、業務を連携させ、ワークフローの自動化を推進できるようになっている。

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ServiceNowは2025年5月に「AI Control Tower」をリリースし、さまざまなエージェントを管理しながら、業務を連携させ、ワークフローの自動化を推進できるようになっている(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

「AIエージェントが構成するAIエージェントファブリックは柔軟性を支える鍵です。お客様はあらゆるAIモデル、あらゆるクラウド、そしてあらゆるデータソースを企業全体で活用できるようになります。ServiceNowは、こうしたエージェントのオーケストレーションとマルチエージェントワークフォースのコントロールタワーとして機能します。このAIエージェントファブリックと幅広いパートナーシップにより、信頼性、安全性、セキュリティ、コンプライアンスにおいて一線を画し、企業全体に価値を届けます。Zurichリリースはその延長線上にあります」(ザヴェリー氏)

新たにエージェントとして提供する「Build Agent」は、バイブコーディングの要素を取り入れたビジネスエキスパート向けの会話型開発支援機能だ。例えば、「人事、IT、施設にタスクを割り当てるオンボーディングアプリを作成してください」と自然文で問いかければ、Build Agentが設計、構築、ロジック、統合、テスト、ガバナンスまでを考慮してアプリを作成してくれる。また、Adaptive Agentによって、作成したアプリケーションを継続的に進化させるシステムへと自律的に変更してくれるという。開発者はこうしたアプリ開発を、開発者サンドボックスという安全な環境で実施することができる。

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「Build Agent」(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

AI開発には、重要情報の漏えいや知的財産の侵害、ハルシネーション、APIへのサイバー攻撃など、新たなリスクが伴うことも懸念されている。そこで、Zurichでは、AIに対応したセキュリティ機能として、ServiceNow VaultコンソールやMachine Identityコンソールを強化した。

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ServiceNow Vaultコンソールでは、AIを用いてワークフローを保護するテンプレートを提供する(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

ServiceNow Vaultコンソールでは、機密情報を不正なアクセスや盗難などから保護するVault機能においてAIの活用を進めた。機密情報の発見・分類を支援し、データに適用すべき保護ポリシーをインテリジェントに推奨する。一方、Machine Identityコンソールは、AIエージェントを含むあらゆるAPI接続(マシンID)を一元的に可視化し、高リスクのサービスアカウントIDの特定や予防的な対応を行なう。

また、データを価値に変える自律ワークフローとして、エージェント型プレイブック(Agentic Playbook)やタスクマイニング・プロセスマイニング機能を強化した。

Agentic Playbookは、AIエージェントのためのPlaybookだという。コンテキストに基づいたフォーム入力などの繰り返し作業を自動化したり、承認、検証、重要な意思決定に人を適切に関与させたりできる。例えば、クレジットカードのサポート業務で、Agentic Playbookの指示に従ってAI エージェントが本人確認を行い、カードを凍結し、交換カードを送付して顧客に通知するといったことができる。また、ビジネスルールを徹底することでエラーを減らすことにも役立つ。

タスクマイニングやプロセスマイニングは、イベントログやタイムスタンプから業務のボトルネックや改善点を見つける機能だ。新たに、AIエージェントでプロセスマイニングやタスクマイニングを実行できるようにした。

最後にザヴェリー氏は「日本でこそAIが求められる」とし、次のように訴えた。

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説明会の最後でザヴェリー氏は日本重視の姿勢を強調。それだけ日本企業のDX化が進んでいないということを示しているのかもしれない(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

「日本には大幅な生産性向上の余地があります。日本経済は依然として手作業やサ イロ化されたシステムに大きく依存しています。ServiceNowは、こうしたシステムを最新化する最適な立場にあります。高齢化と労働力の減少のなかで、業務の自動化は必須であり、AIはこの課題解決に最適 です。創造性や新しい技術に対する日本の開放性は世界的に知られています。AIの活用により、日本は国内課題を解決すると同時に、世界にリーダーシップを示すことができます」(ザヴェリー氏)

ライター

齋藤 公二 (さいとう こうじ)
インサイト合同会社 代表社員 ライター&編集 コンピュータ誌、Webメディアの記者、編集者を経て、コンテンツ制作会社のインサイト合同会社を設立。エンタープライズITを中心とした記事の執筆、編集に従事する。IT業界以前は、週刊誌や月刊誌で、事件、芸能、企業・経済、政治、スポーツなどの取材活動に取り組んだ。
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