「Claude Code一強時代」の到来?現役CTOが語る生成AIツール選定の実践知

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この記事でわかること

  • 生成AIツール選定で失敗しないための具体的なチェックポイント

  • Claude Code、Cursor、GitHub Copilotなどの実践的な使い分け術

  • 複数AIツール併用時のメリットとリスク管理方法

生成AIツールの進化が加速する中、開発現場では「どのツールを選べばいいのか」「どう使い分ければ効果的なのか」といった実践的な悩みに直面するエンジニアが増えています。

AIを使った開発を強みとする株式会社テックビーンズの前川和浩代表は、Claude Code、Cursor、GitHub Copilotなど複数のAIツールを戦略的に使い分け、開発速度と品質の両立を実現しています。

本記事では、前川氏へのインタビューを通じて、現場で本当に使えるAIツールの選定基準から効果的な運用方法、そして今後のエンジニアに求められるスキルまで、実践的な知見をお伝えします。

株式会社テックビーンズ

2015年設立。Webシステムのサーバーサイド開発を中心に、AWSなどのインフラ構築・運用、スマートフォンアプリ開発、Webシステムのフロントエンド開発などを手がける受託開発会社。

【X(旧Twitter)】:https://x.com/techbeans_jp

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前川 和浩

株式会社テックビーンズ 代表取締役社長 2007年にIT業界に入り、システム開発、インフラ保守・運用、セキュリティなどの実務を経験。2010年にWebエンジニアとして独立し、2015年に株式会社テックビーンズを設立。現在も代表取締役として同社の事業を牽引している。

【X(旧Twitter)】:https://x.com/kazumae

AI格差が顕在化する開発現場の実情

岸 裕介
岸 裕介

まず、現在の事業概要と、AIを活用した開発の取り組み状況について教えてください。

前川さん
前川さん

当社はAI活用を強みにWebシステムの開発からインフラ構築まで幅広い受託開発を手がけています。昨今、案件としてAIを取り込んだサービス開発の依頼も増えていますが、劇的に増えたというわけではありません。 むしろ重要なのは、クライアント向けに「AIを組み込んだサービス」を数多く提供することよりも、開発プロセス自体で「AIツールを活用して開発効率を高める」ことを強みにしている点です。基本的に、入れられるプロジェクトには全てAIを導入しています。

岸 裕介
岸 裕介

開発現場でAIを活用する際の課題はありますか?

前川さん
前川さん

最も大きな課題は、社内でのAI格差です。「AIを使っていますか?」と聞くと、みんな「使っています」と答えますが、そのレベルに開きがあるんです。表面的な使い方にとどまっていて、AIの真の力を引き出せていない。こうした状況を変えていくことが、非常に大きなテーマになっています。

岸 裕介
岸 裕介

なるほど、「使っている」と一口に言っても、その中身には大きな差があるということですね。具体的にはどのような格差でしょうか?

前川さん
前川さん

AIにコードを書かせることばかりに注力してしまって、設計書やドキュメントを作成させるという重要な観点が抜け落ちている人が多いんです。そこで今、社内では『ドキュメント駆動開発』という手法を推進しています。

岸 裕介
岸 裕介

ドキュメント駆動開発とは、どのような手法なのでしょうか?

前川さん
前川さん

AIにドキュメントをまず作らせて、それをAIに読み込ませて、その上で開発をさせていく方法です。例えば「ユーザー一覧機能を作りたい」というタスクがあったときに、それをAIにドキュメント化させます。AIにドキュメントをテンプレート化して生成させ、それを読み込ませてコードを生成していく流れです。

これにより個人の開発の考え方や思想を取り除いて、一定のガードレールの中で開発を進められます。その結果として、AI格差を縮めていくことができるんです。

岸 裕介
岸 裕介

なるほど、ドキュメントを起点にすることで開発の品質を標準化できるということですね。現在、大手企業の案件ではAI利用に制限があるとお聞きしました。

前川さん
前川さん

大手企業の案件では、AIを使ったコード生成が禁じられていることがあります。ChatGPTで問い合わせを聞いたり、相談したりするのは可能な場合もあるのですが、AIでのコード生成を許可していない大手企業は多いです。

機能・コスト・運用・セキュリティー…現場が重視するAIツール選定基準

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岸 裕介
岸 裕介

新しい生成AIツールを評価する際、どのような基準で判断されていますか?

前川さん
前川さん

当社は開発会社ということもあって、最も重要視するのは機能面です。ちゃんとコードを書けるかどうか、そして今あるコードを読み込めるか、理解できるかというところが非常に重要なポイントです。

岸 裕介
岸 裕介

機能面以外では、どのような点を重視していますか?

前川さん
前川さん

次にコスト面ですね。求める機能に対してあまりに費用が高いと、社内で利用するのが難しい場合もあります。また、会社としては見えないコストを嫌がるところがあるので、基本的には定額制のツールを優先して使います。定額制がないツールについては、従量課金での導入を検討するという流れです。

岸 裕介
岸 裕介

運用面についてはいかがでしょうか?

前川さん
前川さん

会社としての運用では、組織として登録して使えるツールがベースになります。例えばCursor(※1)はOrganizationで登録ができて、社員ごとにライセンスを配れるので、そういう仕組みは重要ですね。

ただ、Claude Code(※2)が(現時点では)法人登録に対応していないので、今はやり方を変えて、社員が個人でツールに登録し、会社がその費用を補助する制度を作っています。会社として推奨しているツールを使ってくださいという形にして、セキュリティ的に担保できていないものは除外しています。

※1 Cursor:AI統合型のコードエディターで、コードの自動生成や補完機能を提供する開発環境

※2 Claude Code:Anthropic社が開発したClaude AIの開発特化版で、コード生成やレビューに最適化されたAIツール

岸 裕介
岸 裕介

セキュリティ面での判断基準はありますか?

前川さん
前川さん

基本的には、データを学習に使用しない設定ができることが必須条件で、それができないツールは使わないようにしています。そこが一つの判断基準ですね。

それから、利用者が多く普及しているツールであることも一つのポイントです。逆に、リリースされたばかりで使い方の情報が少ないものや、まだ実験的な段階のものは、個人で試してみるぐらいにとどめています。

岸 裕介
岸 裕介

実際に導入を見送ったツールはありますか?

前川さん
前川さん

GitHub上でISSUEを指示して作ってくれるようなツールは見送りました。本当は使いたかったのですが、GitHubのOrganizationのプランを上げる必要があり費用が倍増するため、コスト的に断念しましたね。

Claude Code、Cursor、GitHub Copilotの使い分け方は?

岸 裕介
岸 裕介

現在メインで使われているツールについて、それぞれの特徴と使い分けを教えてください。

前川さん
前川さん

最近はClaude Codeの一強になってきているという印象があります。Opus 4.1の最新モデルを使っていますが、設計やドキュメント作成から大規模なコード生成まで、何でもできます。特にソースコードを読み込む能力は非常にレベルが高いと思います。

岸 裕介
岸 裕介

Claude Codeが主力ツールになった経緯について、詳しく教えてください。

前川さん
前川さん

一つは機能面で、開発作業を進める上での最適化が図られている印象があります。

もう一つの大きな理由は稼働時間ですね。以前使っていたRooCode(※3)では、セッションでの上限があって、一定まで開発を進めると新しいセッションに移る必要があるんです。

一方のClaude Codeは非常に長く動いてくれるので、一日中動かせるぐらいの持続性があります。

※3 RooCode:VS Code拡張機能として提供されるAIコーディングアシスタント

岸 裕介
岸 裕介

長時間の継続作業ができるというのは、実際の開発現場では大きなメリットですね。Claude Code以外では、どのようなツールに注目されていますか?

前川さん
前川さん

最近注目しているのがAWSが出した「Kiro(※4)」というIDEです。このツールは、ドキュメント作成やタスクの管理・分解機能を最初から備えているんです。もしかしたらタスクの管理や分解は、Kiroが強いかもしれません。

また、アーキテクチャを整理していくという観点では 「Devin(※5)」がかなり優秀だと思っています。特に案件の引き継ぎのタイミングや、プロジェクトが一段落したタイミングで、アーキテクチャを解析させてまとめさせるには、非常に良いと思いますね。

※4 Kiro:AWSが開発したAI統合開発環境

※5 Devin:Cognition Labsが開発したAIソフトウェアエンジニア

岸 裕介
岸 裕介

Cursorの現在の使い方はいかがですか?

前川さん
前川さん

最近はCursor CLI(※6)を使っています。IDEベースの開発は最近行っていませんが、ソースコードを細かく確認しながら調整する場合には、IDE版のAIエージェント機能が非常に優秀だと思います。IDE版では一つひとつの処理をじっくりと検証できる一方、CLI版は全体を一気に生成する傾向があります。

※6 Cursor CLI:Cursorのコマンドラインインターフェース版で、ターミナルから直接AI機能を使ってコード生成や編集ができるツール

岸 裕介
岸 裕介

GitHub Copilotの使用頻度や役割について教えてください。

前川さん
前川さん

当社でCopilotを使っている人は相当少ないですね。CursorとGitHub Copilot(※7)を比較検討した結果、Cursorの方が機能的に優れていたことが主な理由です。具体的には、ファイルの読み込み能力に大きな差がありました。

GitHub Copilotは単一ファイルに対してコメントを書いてコードを生成する比較的シンプルな形式ですが、Cursorはプロジェクト全体のソースコードを読み込んで理解し、ディレクトリ構造まで含めて自動生成してくれる高度な自動化機能を備えていました。

※7 GitHub Copilot:GitHub社とOpenAI社が共同開発したAIペアプログラミングツール

「適材適所」vs「管理の煩雑さ」―AIツール併用における現実的なトレードオフ

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岸 裕介
岸 裕介

複数のAIツールを同時に使うことのメリットはどこにありますか?

前川さん
前川さん

個人的には作業分担が明確になるので、わかりやすいと思っています。例えば、CodeRabbit(※8)を今でもコードレビューで使っていますが、このツール単体で十分に機能しており、ダッシュボードもあって、今誰がどういうレビューをしているかがわかるんです。また、使用者ごとの傾向もまとめてくれたりしています。

やろうと思えば、Claude Codeでもコードレビューはできますし、Copilotでもできるはずですが、そこはCodeRabbitに任せています。用途別に分けることで、それぞれの分野に特化して考えられるので、自分の思考としては整理がしやすいですね。

※8 CodeRabbit:AIを活用したコードレビュー自動化ツール

岸 裕介
岸 裕介

逆に、複数ツール併用で生じるリスクはありますか?

前川さん
前川さん

やはり、「面倒くさい」と思う人がいることですね。私はいろんなツールを使うのが好きなのでいいのですが、「統合した方がラク」だとみんな言います。

また、複数ツールの場合、会社としては管理が煩雑になります。各プロジェクトでのツール利用状況の把握や、プロジェクトを離れたメンバーのライセンス管理といった運用面での課題が結構ありました。

岸 裕介
岸 裕介

コスト管理の観点では、どのように運用されていますか?

前川さん
前川さん

会社では見えないコストを嫌がる傾向があるため、従量課金を使う場合は会社発行のAPIキーを使ってもらい、月額の上限を設定してそれ以上使えないように制御しています。個人利用の場合は比較的自由度がありますが、組織運用では透明性を重視した管理をしています。

実際、個人でRooCodeを使っていた頃に月20万円ぐらいかかったことがありました。それは流石にまずいと思って、定額制に移行したんです。今はClaude Codeの月額200ドル(約3万円)で済んでいるので、非常に財布に優しいです。

AIを使いこなせるエンジニアに共通する「完璧を求めない」マインドセット

岸 裕介
岸 裕介

AIツール導入後に、成長が早いエンジニアとそうでないエンジニアの違いはありますか?

前川さん
前川さん

端的に言うと、AIに完璧性を求める人というのは、使いこなせない傾向にあります。AIに依頼したら何でもちゃんとやってくれる、という思考ですね。最近メディアでも取り上げられていましたが、日本ではAIがなかなか浸透しないのは、そういう国民性があるんじゃないかとも言われています。

岸 裕介
岸 裕介

AIとの付き合い方で、どのような心構えが必要でしょうか?

前川さん
前川さん

AIは現在の技術レベルでは万能ではないので、人間がコントロールしてあげなければいけないんです。ただ、AIができる範囲、例えばプログラミングやライティングは、人間よりも圧倒的に速く、高いクオリティで実行してくれます。

そういった特性をちゃんと活かして、苦手なことをやらせないという管理の仕方ができるかどうかがポイントだと思います。

岸 裕介
岸 裕介

「AIを人間が補完する」という考え方について詳しく教えてください。

前川さん
前川さん

AIの性格的な特徴を理解してコントロールすることが重要です。例えば、Claude Codeは非常に優秀ですが、不要な機能まで実装してしまうことがあります。そういう性格を理解して、Claude Codeの適用範囲を適切に設定することが大切です。

その上で、AIができることの幅はちゃんと広げて、例えばClaude Codeはコードを書くのが得意なんだから、自分がコードを指示する必要はない。返ってきたアウトプットのコードをレビューするのは人間がやる。アウトプットまではもう自由にやらせるという感じです。

岸 裕介
岸 裕介

まさにAIの特性を理解した上での役割分担ですね。今後のエンジニアに求められるスキルについてはいかがですか?

前川さん
前川さん

これからは人間力というか、AIにできない領域での能力が求められていくでしょう。人の勘、創造性、コミュニケーション力などがわかりやすい例です。技術の話に落とし込むと、このサービスはどう作るべきなのか、どういうアーキテクチャがコスト的にもサービス的にも最適なのかを考えられる人です。ちょっと上流の設計っぽい話ですよね。

岸 裕介
岸 裕介

なるほど、AIが普及することで、逆に人間にしかできない部分の価値が際立ってくるということですね。

前川さん
前川さん

従来もシステム設計ができる人は重要視されていましたが、今後はより一層その傾向が強くなると思います。変わらないところで言うと、その設計とかシステムをちゃんと包括的に見られるかというところかなと思いますね。

判断軸は「開発で使えるかどうか」。AIツール評価と社内展開の極意

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岸 裕介
岸 裕介

新しいAIツールの情報収集はどのように行っていますか?

前川さん
前川さん

最近はYouTubeが多いですね。主に3つのチャンネルを見ています。一つは「あきらパパのAI活用学習部屋」というチャンネルで、毎回AIツールなどを深掘りした解説動画がとても参考になります。他にも、「まさおAIじっくり解説ch」、「テックナビ」というYouTubeチャンネルをチェックしています。

後者の2つは割と頻繁に動画投稿していて、何かリリースされたら概要を速報で出してくるんです。さわりだけを紹介している動画も多いですが、新しい情報がすぐに配信されるので、何がリリースされたかをキャッチアップするには便利ですね。キュレーションしてくれるので助かっています。

岸 裕介
岸 裕介

新しいツールを試す際のプロセスはどのようなものですか?

前川さん
前川さん

基本的には開発で使えるかどうかが判断軸になります。例えば動画生成のAIは開発で使えないので、そういうのは試しません。ただ、コード生成やプログラミング支援系のAIは、開発に活用できる可能性があるので必ず試して、有用だと思ったものはすぐに社内に周知します。

岸 裕介
岸 裕介

社内での展開方法にコツはありますか?

前川さん
前川さん

本格的に導入するときは、技術的なリーダー層に対して「これを使ってみてください」と言って、良さそうだったら取り入れていく展開が良いと思います。当社でも、推奨ツールをリスト化して費用を補助するようにしているので、比較的柔軟に運用しています。

できる人、例えばClaude Codeを使える人のロールモデルができあがったら、そこに下のエンジニアがついてくるような感じになるので、ロールモデルを少しずつ作っていくような導入の仕方が多いかもしれません。

岸 裕介
岸 裕介

受託開発では、全社での一律導入が難しいという課題もあるのでしょうか?

前川さん
前川さん

たしかに受託開発では一律導入は難しいですね。1週間の勉強会を実施して、「この1週間はAI以外でコードを書いてはいけません」とAI活用の積極的な推進を促した大手IT企業もありますが、クライアント業務をやっているとそれができないんですよね。

岸 裕介
岸 裕介

たしかに受託開発特有の制約がありますね。今回は、AI活用についてさまざまなお話を伺いましたが、これからAIと向き合っていくエンジニアのみなさんにメッセージをお願いします。

前川さん
前川さん

日本のエンジニア全体を見渡すと、まだまだAI活用が浸透していないという実感があります。私が管理しているLINEのエンジニアコミュニティは900人ほどの規模ですが、そこでもAIを積極的に開発に取り入れている人はそれほど多くないという印象です。

個人的には、日本のエンジニア全員がもっとAIを積極的に活用してほしいと思っています。AIを使うことで開発スピードが向上し、より深くプロダクトを理解できるようになって、結果的により良いサービスを生み出せるはずです。この技術革新の波に遅れることなく、ぜひみなさんには積極的にチャレンジしていただきたいですね。

ライター

岸 裕介
大学卒業後、構成作家・フリーランスライターとして、幅広いメディア媒体に携わる。現在は採用関連のインタビュー記事や新卒採用パンフレットの制作に注力しながら、SaaS企業のマーケティングにも携わっている。いま一番関心があるのは、キャンプ場でワーケーションできるのかどうか。
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編集

田尻 亨太
株式会社できるくん 記事制作ディレクター 17年にわたり複数の会社で一貫して編集・ライターとしてのキャリアを重ねる。2020年に採用やマーケティングを支援するコンテンツ制作会社VALUE WORKSを設立。記事制作を通じてあらゆる顧客の採用や集客を支援。2025年6月に株式会社ユーティルに事業譲渡し、現在はグループ会社の株式会社できるくんで、記事制作できるくん取材できるくんを立ち上げ中。