アクセンチュア保科氏がAI時代の未来語る、「人間の業務価値はデスクワークから現場の価値にシフト」

thumb_accenture「アクセンチュアのデータ&AIグループ日本統括であり、AIセンター長を務める保科学世氏(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

経営層が「AI役員」との対話による意思決定を体験できる「AIセンター京都」

生成AIは、テキストの要約やアイデア抽出、コーディング支援といった現場での活用にとどまらず、経営層の意思決定支援、企業の業務改革や全社変革に活用されるようになっている。アクセンチュアが9月9日に開催した「AIによる全社変革の最新動向」に関する記者勉強会では、同社が支援する企業の経営層が生成AIをどのように活用しているのかを具体的な事例をもとに紹介した。

アクセンチュアは2024年11月、京都市中京区に「アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都」を開設し、企業の経営層が自社の変革構想の着想を得たり、革新的なアイデアを創出したりする支援を行なってきた。このAIセンター京都は、アクセンチュアの拠点のなかでも、すべての技術要素を盛り込んだ世界に2つしかない「フルスケール」な施設(もう1つはインド)であり、京都大学をはじめとする学術機関と連携しながら、大学・教育期間の知見を活用できることが一つの特徴だという。

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2024年11月に京都市中京区に開設された「アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都」【出典】:アクセンチュア「AIエージェントによる全社変革の最新動向とアクセンチュアオファリング」資料

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「アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都」は、アクセンチュアの拠点のなかでも、すべての技術要素を盛り込んだ世界に2つしかない「フルスケール」な施設となっている(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

【参考】:「アクセンチュア、AI主導による全面的な変革を支援する共創拠点を京都に開設」

アクセンチュア データ&AIグループ日本統括 AIセンター長を務め、アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京統括でもある保科学世氏は、生成AIの動向について、こう話す。

「現場のオペレーションから、経営層による事業運営上の重要意思決定、戦略策定まで、すべての企業活動がAI協業にシフトしています。加えてAIエージェントを仮想顧客としても活用することで、市場のデジタルツイン化も可能になりはじめています」(保科氏)

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現場のオペレーションから、経営層による事業運営上の重要意思決定、戦略策定まで、すべての企業活動がAI協業にシフトしているという【出典】:アクセンチュア「AIエージェントによる全社変革の最新動向とアクセンチュアオファリング」資料

現現場のオペレーションでの活用については、AIと人が協働しやすい環境が整備されつつある。例えば、日本航空ではすでに2019年の時点で、アクセンチュアと協力しながら、AIを活用した空港旅客サービスシステムの導入を進めてきた。

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日本航空ではすでに2019年の時点で、アクセンチュアと協力しながら、AIを活用した空港旅客サービスシステムの導入を進めてきた(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

【本事例紹介ページ】:『空港JAL-AI』全国展開までの軌跡|アクセンチュア

【本事例紹介動画】:日本航空、アクセンチュアと共同でAIエージェントシステム「空港JAL-AI」を構築

また、A2AやMCPによって、AI同士が連携しながら、人と協働しやすい環境が整備されたことで、「さまざまなAIソリューション、サービスが登場する一方、全体を貫く設計思想がなければ機能の寄せ集めになるリスクがあります。世の中の技術を組み合わせ、AIと企業の価値を最大化するAIプラットフォームの重要性が増しています」(保科氏)

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アクセンチュアのAIエージェント群【出典】:アクセンチュア「AIエージェントによる全社変革の最新動向とアクセンチュアオファリング」資料

現場AIが乱立し、個別最適化を防ぎながら、全社視点でビジネス効果を最大化できるように、アクセンチュアでは「Accenture AI HUB Platform」というAIプラットフォームやAIエージェント群を提供している。

人間の役員に言われると腹が立つことも、AIなら受け入れられやすい

また、経営層の意思決定や戦略策定での活用という点では、AIを「パートナー」「バディ」とみなして、自社についての財務状況や経営計画などのデータをもとに、経営課題の分析や戦略策定のアドバイスをもらったりする活用方法も普及しつつある。

「AIセンター京都では、CEOの方にお越しいただいて、実際に『AI役員』との議論を体験できます。技術トレンドを把握してくれるAI CIOや、財務状況の把握や予測を行ってくれるAI CFOなど、さまざまなAI CxOを相談したいタイミングで即座に招集し、デジタル空間で問答を繰り返して意思決定を行います。リアルなCxOとAIのCxOとでそれぞれ議論を比較したところ、人はリスクをより考慮する、AIはより細かいデータを重視する、といった違いはありましたが、ほぼ同じような結論に達しました。参加したCEOからは『AIで先にディスカッションしたほうが効率的』『ほぼ同じならそこからスタートできる』といった意見をいただきました。また、AIは、社長に対して耳の痛い話をあえてさせることもできます。それが実は好評で『人間の役員に言われると腹が立つことも、AIなら受け入れられやすい』という声が多くありました」(保科氏)

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AIセンター京都では、CEOが『AI役員』との議論を体験できる【出典】:アクセンチュア「AIエージェントによる全社変革の最新動向と同社オファリング」資料

また別のAIとのディスカッションでは、エキスパートとしての知見を備えたAI同士が行なった議論の結果を、予想される未来シナリオとして経営層に提示することもできる。例えば、社会学エキスパートと経済・産業構造エキスパートなどが議論して、将来の外部環境の変化を読み解いたり、技術倫理学者が新技術などの実現可能性を示したりできる。これまで多く対応してきたケースとしては、組織改革のプラン提案がある。現在の組織構成や配属人数、中計や重点施策などをもとにして、AIが企業戦略に即した組織変革のプランを提示するという。

顧客や消費者をAIエージェント化し、マーケティングのシミュレーションを実施

実際の事例としては、AI活用したDXを進める東洋エンジニアリングがある。同社は、プロジェクトのデジタルツイン化を進め、財務・リソース・リスク・戦略性などの方針に基づいて受注計画と実行計画を最適化しているという。また、AIが実行計画のシミュレーションを行い、生産性を20%高めるプランを発見したり、プロジェクト計画の最適化・自動化により納期20%短縮するアイデアを発見したりしている。AIセンター マネジング・ディレクター 中村隆太氏はこう話す。

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AIセンター マネジング・ディレクターの中村隆太氏(写真撮影:アンドエンジニア編集部)

「東洋エンジニアリングは、エンジニアリング会社として、1つ1つのプロジェクトがどのくらいのリソースを消費して、どのくらい儲かるかをある程度正確に再現されていないと意思決定ができないということです。そこで1つ1つのプロジェクトについて『経営デジタルツイン』『データ&AI駆動型オペレーション』という2つのデジタルツインを構築し、AI使って予測・シミュレーション、最適化、リスク集計などを行っています」(中村氏)

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東洋エンジニアリングでは「『経営デジタルツイン』『データ&AI駆動型オペレーション』という2つのデジタルツインを構築し、AIを使って予測・シミュレーション、最適化、リスク集計などを行っている」(中村氏)という。【出典】:アクセンチュア「AIエージェントによる全社変革の最新動向と同社オファリング」資料

【参考】:「東洋エンジニアリング:データ&モデル駆動型の経営デジタルツイン」

こうした経営分野でのデジタルツイン化と生成AI活用の一方で、市場のデジタルツイン化も可能になり始めている。

市場のデジタルツイン化とは、AIエージェントが顧客や消費者になりかわって取引や消費活動などを行なう世界で、マーケティングやプロモーションを仮想的に行う取り組みのことだ。

「過去の実績・統計に依存するのではなく、多数のAIエージェントの組み合わせでリアルな人間社会を再現し、高速かつ高精度のテストマーケティングを繰り返す事例も出始めています。例えば、多数の消費者エージェントをつくってニーズをマインドマップで特定したり、消費者エージェントや専門家エージェントによるディスカッションを通じて施策の創出を数百から数千の規模で行ったりします。また、顧客のLTVへの影響をバーチャルにシミュレーションしてLTVに寄与する施策を策定したり、消費者の口コミを通じて商品やサービス、ブランドがどう伝播していくかをシミュレーションしたりします」(中村氏)

こうしたマインドマップ構築から、ニーズ抽出、専門家エージェントによるブラッシュアップ、バーチャルマーケティングなどはアクセンチュアがサービスとして実際に顧客に提供できるものになっているという。

そのうえで、保科氏は、次のように今後を展望した。

生成AIにより大半のデスクワークが自動化され、社内業務の多くがAIに代替されます。人間の業務価値はデスクワークから現場の価値にシフトします。現場の課題を捉え、人間の心を理解し、ビジネスを動かすことがより重要になります。また、AI活用を進めるにあたっては、ビジネス・業務を変えるための『全社での抜本的なBPR・働き方改革』、人財・組織を変えるための『包括的な従業員教育・リスキル』、基盤を変えるための『AI/データ基盤の整備』が求められます」(保科氏)

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保科氏は、「人間の業務価値はデスクワークから現場の価値にシフトするため、現場の課題を捉え、人間の心を理解し、ビジネスを動かすことがより重要になる」と話した(画像提供:アクセンチュア)

ライター

齋藤 公二 (さいとう こうじ)
インサイト合同会社 代表社員 ライター&編集 コンピュータ誌、Webメディアの記者、編集者を経て、コンテンツ制作会社のインサイト合同会社を設立。エンタープライズITを中心とした記事の執筆、編集に従事する。IT業界以前は、週刊誌や月刊誌で、事件、芸能、企業・経済、政治、スポーツなどの取材活動に取り組んだ。
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