【修羅場編】「もうダメだ」とは敗色濃厚なエンジニアから漏れる言葉である
お疲れさまです。先日、いつもよりちょっと早めに現場に行ったら、床で寝ている人の姿を見かけてちょっと和んだMWです。最近はそういう光景をあまり見ることはなかったのですが、たまに見ると開発現場の様式美のようなものを感じてしまいました。
職場で眠り、家に帰る時間を省略することで、どの程度進捗をアップする効果があるかは不明です。私も以前、徹夜しなければいけない状況に陥ったことはあります。会社に宿泊することで確かに時間は取れましたし、通勤による疲労を省略できたのは良かったと思います。ただ、あまり根を詰めすぎると頭の回転が遅くなり作業スピードが落ちた部分もありました。
そういう働き方が良いか悪いかは別として、破れない納期や突発的な障害対応といった言葉が存在する限り、午前9時に机や床で突っ伏す光景は、今後も見ることができるのだろうなぁ……、と思っています。
#エンジニアあるある 実録IT用語辞典【修羅場編】INDEX
「もうダメだ」とは
納期が割と近くなってきたころに、開発現場の真ん中のほうでボソッとつぶやかれることがある言葉。
この言葉は、肉体的・精神的に限界になるような働き方を長期間続けて、それでも進捗がギリギリの状態、もしくはギリギリを超えて敗色濃厚な状態にいる時などにエンジニアの口から漏れる。
基本的には、気力と体力さえ切れなければなんとかならないこともないような状況で使われる傾向があるので、この言葉を聞いた時は相手の気力が途中で切れないように、また今後も体力と精神力がギリギリの状態で働いていけるように、「○○さんならなんとかできますよ」と無責任な励ましをしてあげるのが正しい対応方法として挙げられる。
「なんとかなる」とは
進捗がデッドゾーンに近づいた時に、担当の人が発することがある言葉。
「もうダメだ」よりも「なんとかなる」のほうが前向きな表現であるため、聞いている側はまだ大丈夫だと錯覚するかもしれない。だが、この言葉には多分に願望が含まれているため、注意が必要である。
この言葉の使いどころとしては、どう頑張ったって無理だろうという状況にいるのに、現実を直視せずに「うん、きっとなんとかなる」と言ってしまったり、心のどこかで間に合わないと気づいているのに言い出す勇気が持てずに「なんとかなります」と言ってしまう場合などがある。
一度、上記のような「なんとかなる」の使い方をしたエンジニアは、今後も同様の使い方を繰り返す場合が多いので、プロジェクトリーダーは部下の性格や顔色などから、現状がどの程度危険な状況にあるかを読み取る能力が必須とされる。
「ナントカしてくれ」とは
何かトラブルが起きたり進捗が危機的な状況に陥ったりした時に、お客さんや部長さん等の偉い人が使う言葉。
エンジニアが「どうにもなりません」と泣きそうな顔で発言した時に、「それでも、ナントカしてくれ」と冷たい言葉を返すと、泣き笑いのような表情や、押し殺した怒りが背中に立ち上る情景や、魂が抜けたような目といった、人の本質が生に表れたかのようなリアクションを見ることができるので、そういう立場にたった場合はぜひ試していただきたい、非常に破壊力のある言葉である。
この言葉に期日を付けると、よりエンジニアの心を砕く力が高くなる。例えば「今日中にナントカしてくれ」とか「今すぐ解決してくれ」などといった使い方である。
「ネバーギブアップ」とは
スポーツの世界ではとても大切だと言われている言葉。ビジネスの世界でもある程度、大切にされることがある言葉。でも、プロジェクト管理をする時にはできればあまりこだわらないでほしいかもしれない言葉。
この言葉の間違った使いどころとしては、以下の2例などが挙げられる。
1つはたぶん実現できるだろうと思って要件に盛り込んでしまったけど、実際に作ってみようとしたら恐ろしく工数がかかることが判明した機能があった時に、クライアントに頭を下げて説明すれば、無かったことにしてくれそうなあまりクリティカルじゃない機能なのに1度作ると言ったからには必ず作る! という根性論的ネバーギブアップ精神を見せてしまう場合である。
そんな人を見かけたら、費用対効果とか、人間諦めが肝心だよといった言葉をかけてあげると良いだろう。
もう1つは予定していた納期に間に合わないことがヒシヒシと伝わってくるような、床に寝袋が転がっているとか、0時になっても誰も退社する気配を見せないといった状態になっているにもかかわらず、必ず納期には間に合わせてみせると言ってしまう、現実を直視できてない系のネバーギブアップ精神である。
どちらも早めにギブアップの決断をすれば、それだけ被害も少なく済むので、早めに「リスケします」といって土下座することが推奨される。
「明日の朝9時までが今日だ」とは
「この仕事を今日中に片付けるなんて無理だ……」という空気が現場を覆い始めた夕方ごろなどに聞くことができる心強い言葉。もしくは徹夜してでも終わらせなさいという命令が言外に含まれている、たいへんありがたくない言葉。
この言葉を発すると、1日は24時で終了するという一般的な通念が覆され、午前0時から9時までの9時間(労働基準法的には「1日の労働時間+1h」の残業にあたる。開発現場では「日常的な労働時間―1h」くらいだろうか?)という作業時間を確保することができる。まるで魔法のような言葉である。
この言葉が使用される代表的なケースとしては、納品前日に「なんとかリリースに間に合いましたね」と余裕でお茶を飲みながら話しているところに、開発メンバーが駆け込んできて「あの、先ほど最終チェックをしていたら……」という言葉を悲愴な顔で発した時や、直前になって「そういえばこのケース想定してなかったけど、大丈夫だっけ」と思いついたテストパターンを実行してみたら見事にアプリが強制終了といった現象が発生した時などがある。
上記のようなシチュエーションが発生した場合は、「リリース延期」という手段を取るのが最も良い選択だと思われる。だがさまざまな大人の事情によりリスケが不可能な場合は、仕方がないので「明日の朝9時まで……」を使用する必要が出てきてしまう。
この手法は契約問題とか労働基準法といった在って無いような取り決めが絡まなければ非常に手軽に使用でき、かつ効果も期待できるのだが、その分、依存性が高いというデメリットを持つ。
何度も使用していると朝9時まで依存症候群に陥る可能性もあるので注意が必要だ。
この病にかかると、ちょっとピンチになるとすぐ徹夜という安直な選択を行うようになったり、リリース前は徹夜がデフォルトという誤った認識を持ち始めたり、「俺の定時は朝9時まで」という人としてどうなんだろうと思われるような感覚を公言し始めてしまったりすると言われている。タイヘン恐ろしい病である。
周りにこれらの症状を見せる人がいたら、しばらくの間、「定時退社命令」や「寝袋禁止令」等、現状に即した対策を取ってあげることが推奨される。
尚、確かにこの手法を使えば多くの作業時間を捻出することはできるが、コーヒーと栄養ドリンクで眠気を耐え忍びながら働く9時間が、十分に睡眠を取ったうえで働く9時間と同等の作業効率と正確性を生み出すかどうかは不明である。
「明日は我が身」とは
「どこかの航空会社がシステム障害起こして飛行機の運航止めた」とか、「どこかの銀行が統合に失敗して、ATMがしばらく止まった」とか、「どこかの証券取引所が(以下、略)」といった事件がニュースとして流れるたびに、エンジニアの心に去来する言葉。
バグのないシステムは存在しないという言葉もあるように、大抵のシステムはどこかにバグがあるもの。予算の都合で十分とはとても言えないテスト量でリリースせざるを得なかったとか、人手不足で精度を保証できるようなレベルのエンジニアを確保できなかったとか、十分な人員を揃えて頑張ったけどそれでもダメでしたとか、さまざまな事情によって何らかのバグが残ってしまっている可能性が高い。
そう考えると、どんな障害のニュースも自分と決して縁遠いものではないよなぁと思ってしまったりするもの。
中には、正常運用を開始してから数年後になって初めて発覚する時限爆弾のようなバグも存在する。そのため、自身がだいぶ昔にかかわったシステムも、いつか突然問題を起こす可能性があり、明日ももっと先も、我が身が安泰とは言えない。
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注意!!
この連載記事には必ずしも正しいとは限らない内容が含まれています。この記事を信じたことによって発生した障害に対して、筆者及び株式会社マイナビは一切の責任を負いません。ご容赦ください。
※この記事は2007/11/23〜2009/08/28に連載された内容を再構成しています
著者プロフィール:MW(えむだぶりゅー)
Java、PHP、C、C++、Perl、Python、Ruby、Oracle、MySQL、PostgreSQL関連の業務経験がある、典型的な広く浅い役に立たない系のウェブ(時々クライアント)アプリのエンジニア。 週に1日休みがあれば、ほか6日間は終電帰りでも全然へーきな体力と、バグが出ても笑って誤魔化す責任感の無さを武器に、今日も修羅場った開発現場の風景を横目で見ながら、適当に仕事をこなす日々を送る。
著書「それほど間違ってないプログラマ用語辞典」(発行:毎日コミュニケーションズ)