ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ四十一技術的に上を目指す機会がない…… 社内講習に見た、無視できない現実とは

入社早々、他社へ派遣されたまま早5年。派遣先では、当然周囲の正社員とは待遇が違う。
ある種達観していたはずのその状態を、K谷さんが無視できなくなったそのワケは?
会社で得るものは給与だけじゃない。そんなことを再認識した体験談です。

孤立した職場

地方の国立大学を卒業したK谷さん。コンピュータ系の職種に就こうと思ったものの、大学の推薦枠内にはそうした職がなく、自然と個人で就職先探しを行う必要に迫られたそうです。
「そんな流れで、たまたま案内が来ていた会社で内定が取れちゃって……」
就職活動に不案内だったのもあって、K谷さんは深く考えることなく、「とりあえずいいかな」くらいの気持ちで就職を決めたのだといいます。
この会社。入社した翌日には、K谷さんを他の会社へと派遣してしまいました。もちろん、教育その他なんにもありません。
そして派遣先の会社は会社で、K谷さんにその会社の名刺を与えたかと思うと、さらに別会社へと彼を飛ば してしまいます。
社会に出て早々、周囲には誰も自社の人なんかいやしない。そもそも他社の名刺を持って乗り込んできたわけだから、自社の名前なんかも名乗れやしない。そんな境遇に追いやられてしまったK谷さんなのでした。
「自分1人だけフレックス勤務が適用されず、もちろん周囲の誰よりも低い給与で働く毎日でしたね」
身分を隠したまま働くこと5年。それなりに成長してきたつもりのこの5年。それでも彼の給料は、その職場に来る新人よりも、低い水準のままなのでした。

「社内講習に出てみない?」

K谷さんが働く職場では、社内講習は外部の研修会社に委託する形で行っていました。当然その中身は、専門の方による専門のカリキュラム。充実した内容です。
しかしK谷さんは相変わらず蚊帳の外。
彼は正社員じゃないわけなので、いつ講習があるかとか、どんな講習があるかなんて知る立場にはない。参加できる立場でもない。当たり前の話でさして気にもとめてなかった現実ですが、これがある日、大きくクローズアップされることになったのです。
その日、たまたま社内講習を受講する機会を得たK谷さんは、「自分が数年かけて覚えた内容が、わずか5日のコースに詰まっている」と衝撃を受けることになります。よく見てみれば、その先にも体系だったコースが用意されている……。
「このままだと、自分には技術的に上を目指すチャンスもない」
彼はそう痛感したのでした。この場所にいては、こうした講習の存在も知らず、それを受講するチャンスもない。当たり前にそれが与えられる人たちとは、どんどん差が開いていくばかりではないか……と。
こうして転職を決意したK谷さん。意中の企業を3社に絞り、直接その会社のWebサイトから応募して、転職活動を行いました。1社目こそ「赤字なので採用見送り」と断られはしましたが、2社目であっさりと内定に至ります。
辞める2週間前に、はじめて自社の課長に会ったほどなので、引き留めなども特になかったです」
そんなK谷さん。今の会社では「以前より人間らしい生活ができている」と、待遇面に満足しながら責任ある仕事を楽しんでいるそうです。

オチの一コマ
本日の一句

単に人を派遣して、そのあがりをちょろまかすだけで財をなす。ひと頃は、そうした会社が雨後の竹の子よろしく、ぽこぽこと見受けられたものでした。今でもそうした会社はいくつか生き残っているのだと思いますが、最近はどちらかというと、「人材は人財である」と、人そのものを財産と見なし、教育に力を注ぐべきだ……とする会社の方が主流になっていると思います。
自分のなにを自社は財と見ているか。それは働く側の方でも重々気をつけて見るようにしないと、怖い未来が待ってそうだな……。そんなことを思う体験談でした。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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