ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ四十五「歯車はイヤだ」と独立起業。 失敗の末に思うこととは?

大きな会社で働いていると、なにか自分が歯車になったような、小さな部品でしかないような、そんな気がしてくるというのはよく耳にする話です。
O沼さんも、そんな気持ちを抱いた1人。かくして起業の道を選んだ彼は、その後なにを思うことになったのか。 そんな今回の体験談です。

待っていたのは「自主廃業」

O沼さんが起業したのは、40歳を過ぎてからのことでした。航空宇宙用部品の設計開発を主業務とする会社で、わずか1名の研究所です。
起業にあたっては、必要なことを起業塾にてみっちりと学びました。事業計画書も詳細なものを作りました。そしてなにより、技術力にかなりの自信がありました。
ところが……。
「私は経営能力が劣っていたようです。もっと基本からきちんと学ぶべきでした」
そう結ぶO沼さん。そう、起業した会社は、1年と待たずに自主廃業へと追い込まれてしまったのです。
起業塾で学んだと思っていたことは、実践に入るとまるで意味を成しませんでした。現実は事業計画書とは乖離(かいり)していく一方で、お金は湯水のように出ていくばかり。
「資金繰りは、大変のひと言でした」
営業力不足など、様々な要因が重なった末、自身がそれと気づかないうちに破滅が迫っていたのだといいます。
そこでO沼さんは、「地獄を見るような借金は怖い」という結論に至ります。つまり、さらなる借金をしてまで事業にしがみつくかと問えば、答えは「No」。
こうして彼は「自主廃業」という道を選び、再びサラリーマンの身に戻るべく、就職活動を開始したのでした。

「年齢がいってますので……」の繰り返し

自主廃業を選択した後、O沼さんは経営コンサルタント会社に入社します。しかし1年後に退社。次は貿易会社に入社して、やはりここも1年後に退社。
そうして臨んだ3回目の会社探しは、「興味のある分野」に絞っての転職活動となりました。
ありとあらゆる人材紹介会社に登録して、片っ端から面接を受けてまわるO沼さん。その数は、なんと100社以上にのぼるといいます。
「どこも、技術力がおありですね!と期待させてはくれるんですが……」
しかし最後には「年齢がいってますので……」と断られることの繰り返し。そんなにも年齢は壁なのかと、自問せずにはいれません。加えて、「転職回数の多さ」というのも、かなり評価面でマイナス方向に働いていたのだとか。
その後、彼は持ち前の技術力が評価されて、とある設計開発会社への採用が決まります。しかしまたまたこれが「ところが……」でして。
「技術系管理職という立場で入社したはずが、なぜか図面描きという末端の作業をやらされています」 。入社時の契約とはかなり話が違ってきていて、これには困惑するばかりなのだとか。
そんなこんなで、転職に対し「後悔している」と話すO沼さん。ではどうなれば満足できるかと聞いてみたところ、かえってきたのは次のような言葉でした。
「おそらく、永遠に満足はしないでしょう」
そんなO沼さん。自身の転職を振り返り、「今となっては、うかつにヘンな野望を抱かない方が賢明だったかもしれませんね」と語るのでした。

オチの一コマ
本日の一句

うーん、ご本人は「向上心をなくしたら人間おしまい」とか、そんな意味で言ってるのだとは思いますが、なんというか、正直「なにがしたいんだろうか」というのが見えてこない体験談でした。それは結局「こうなれば満足だ」というのがないからじゃないかなぁ……と。
それはさておき、個人的には会社の中で歯車になるか否かは、多分に本人次第の側面が多いんじゃないかと思っています。そしてなにより、歯車に徹することの良さというのもあったりするわけで。こう、ガッチリ噛み合う瞬間の快感といいますかですね。そーいうのですね。
サラリーマンであることの良さというものに、もう少し目を向けることができたら、少しは気持ちも楽になるんじゃないかと……。そう思わずにはいられません。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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