ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ九十六「いい会社」だと思った先は、マルチ商法の片棒担ぎ

巻ノ六十八で転職を果たしたH野さん。高い給料と自由な社風。満足のいく職場……だったはずなのですが。
フタを開けてみたら「そんなお仕事!?」とびっくり仰天。そんな今回の体験談です。

やっとつかんだ職なのに……

H野さんの前回の転職。それは、派遣先を渡り歩き、「自分を見出すために」と2年半を費やして、その末にようやくつかんだ正社員の道でした。
ところがその道ときたら、「法律スレスレのところを主業務とするクライアントさんのためのシステム開発」というからびっくり仰天。いわゆるマルチ商法に類するもので、「犯罪にはならない、けれども被害者多数」という内容でした。
「求人内容に『ネットワークビジネス』とだけ書いてあって、あまり深く考えていませんでした。生活のこともあり転職を焦っていて、そのせいで深く調べなかったことが原因だったと思います」
そう、「生活のため」。
一応内定承諾の直後にはその事実に気づいたものの、H野さんは生活の糧を得るためにと、複雑な気持ちを抱えたまま、入社を決めたのでありました。

さて、最初の数カ月は良かったのです。
ところがまあ、仕事の内容が内容だけに、どうもモチベーションがあがりません。社内の人間関係はおおむね良好だったのですが、よりにもよって直属の上司だけはなんだかえらくヒステリックな人だったのもよろしくありません。
そんなH野さんの気持ちを察したのかどうか、入社から1年ほどが経ったある日のこと、彼は「クライアント先に行くから来て」と上司から喫茶店に呼び出されます。
そして……。
そこで彼を待っていたのは、あまりに急な退職勧奨なのでありました。

クビのあとは立ち入り禁止

話し合おうにも全くとりつく島もありませんでした。早い話が「クビ」。H野さんの社内アカウントは削除され、会社に戻ることは禁止。そのまま自宅待機を余儀なくされてしまったのです。
「当時担当していた開発が延び延びになっていたので、残金を早く回収するためにも他の人間に替えて終わらせたい……と理由を告げられました。ただ、今も付き合いのある社内の人から話を聞く限りでは、あの時点で会社が傾きはじめていたので、給料の高い人間を切っていきたかったというのが本当のようです」
こうして突然ポイと放り出されることになってしまったH野さん36歳、2009年の晩夏。
「即転職活動を開始したのですが、この不景気で求人自体も少なく、転職エージェントに至っては『求人がないからダメ』と登録自体断られるという始末で苦労しました」
聞けば5社申し込んだうちの、4社に登録を断られのだとか。むう、実に世知辛い。
前回の反省があったので、この状況のなかでも『焦らないように』と心がけました。あえて転職のことを考えない時間を作ってみたり、自分が何をしたいのか、どうしたいのかと考えたりして、大事なポイントを見逃さないように気をつけていたつもりです」
そんなH野さんが見つけた新しい職場は、社員数15名ほどのアパレル会社。そこのWebサイト店舗運営スタッフとして内定を得ることができたのです。
「もうシステム開発の現場から離れたかったので、アパレルという、自分がかつて行きたかった業界でそれが叶ったことはありがたかったです」
要した期間は4カ月。34社を受けて回って、ようやく見つけた1社でした。

さて、そんなH野さんの再転職から、まもなく3カ月が過ぎようとしています。
「店舗運営が思った以上に楽しいです。あと社内SEとしても業務効率化という面ですごく期待してもらえていて、今もたくさんの依頼を抱えています」
今回の転職には「非常に満足」と返すH野さん。いい意味で堅苦しくない現在の職場は、とても仕事のしやすい、良い環境だと話すのでした。

オチの一コマ
本日の一句

前回の体験談があるだけに、なんとも複雑な思いを抱かずにはいられない体験談でありました。
「入社してみたらちょっとこの仕事って社会的モラルに反してるんじゃないの!?」
そんな現実、たまたま遭遇してないだけで、自分の身に起こりえないとは言えないですよね。じゃあ、もしそうなった時にはどうするか。これは考えておく必要があることなのかもしれません。
しかし……。
いつの時も貯金は大事ですね。「生活のために」と焦る気持ちが目を曇らせる。そうならないためにはまずお金。うーん、厳しい現実です。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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