ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ六十八頑張ったら浮いちゃった……。悪しき風潮に飲み込まれまいと、頑張った結果の悲しさよ

ベタベタとなれ合い、だらけ、そして築かれていく村社会。会社の中に生まれがちな、そんなちょっとイヤンな風景。
しかしそれに流されまいと、己の信ずる仕事のやり方を貫き通し、頑張ったH野さん。報われはしたのですが、違う意味での報いもあって……と、そんな今回の体験談です。

居心地の悪さが彼に決意を促して……

部署内で浮いた存在となったことで、H野さんは正直「居づらい」と思うことが増えてしまったといいます。
「毎日定時上がりを心掛けていたことから、『アイツは暇なんだ』と陰口も叩かれていたようで……」
そうした日々は彼の心に影を落としました。やがてH野さんには、医師から「軽いうつ状態」と診断が下ります。このことが、彼に退職を決意させました。入社から12年目のことでした。
「転職先は、定時後などを使って在籍期間中に探すようにしました」
そうして移った先は、携帯コンテンツ企画のベンチャー企業でした。しかし、それまでは大企業気質の会社で、かつ管理部門で働いていたH野さん。この転職先で、彼は「コスト意識の違い」について戸惑いを覚えることになります。大企業とベンチャー企業とではコストに対するシビアさがまるで違っていて、個々人の肩にのっかる重圧も前職の比ではなかったのです。
「しかもこの時期、ちょうどかかりつけのお医者さんが閉院してしまったもので、うつの薬を切らしてしまいまして」
忙しい毎日、厳しくシビアな職場環境。彼のうつはみるみる悪化の一途をたどります。
結局この会社を、彼は1カ月と待たずに退職してしまうことになりました。そこから4カ月は、奥さんの収入とこれまでの貯金とで生計を賄(まかな)い、病気療養に努めることとなったのです。

辞めて、辞めて、見えたもの

いつまでも療養中というわけにはいかないので、4カ月が過ぎてからは、「リハビリを兼ねて」とH野さんは派遣社員として働くことにしました。2社目で悪化したうつが全快とは言えない状態だったのに加え、4カ月間の休養というのは「いきなり正社員に復帰して大丈夫か? ついていけるのか?」と、彼に怖さを感じさせるには充分なブランクだったのです。
この3社目では、彼はプログラマとして販売系システムの開発に従事していました。 やがて契約期間が満了となり、次の会社……これも派遣で、今度は某企業の社内システム開発・保守を担当することになりました。しかしこの会社、なんだか妙に旧態依然とした風土の会社で、かつ社内の空気はどんより重いしと、どうも肌に合いません。
「なにより、正社員になりたいという気持ちがこの頃には強くなってきていて」
で、辞めました。
この後さらにH野さんは、正社員での転職先を探しながら、5社目~6社目と派遣先を渡り歩きます。
気がつけば、2社目を辞めてから2年半が過ぎていました。
自分は何が理由で転職して、どういう方向に行きたいのか……ということが、今思えば明確でなかったように思います。だから時間がかかったわけですが、今の自分を見いだすためには必要な時間だったんじゃないでしょうか」
最初は大手企業を避けたり、他業種も受けてみたりと、いろんな会社を回っていたそうです。しかし派遣先をいくつか渡り歩き、いろんな会社を受ける中で、最後にH野さんが絞り込んだ条件は「会社の規模よりも、年収や社風が良さそうな会社」ということだったのだとか。
「現在は社員数30名ほどの会社で、正社員としてプログラマをやっています」
そう語るH野さん。今の会社では、社員間のコミュニケーションに重きが置かれていて、そんな環境に身を置ける幸せを感じながら、忙しくも楽しい毎日を過ごしているそうです。

オチの一コマ
本日の一句

体験談を読みながら、かつて自分がなんでもかんでも「これもオレの人生の肥やし」とか言いながら過ごしていたころのことを思い出しました。
うまくいく時も、うまくいかない時も、ちゃんとそのことと対峙する限りは、いつか自分の肥やしになってくれるものなんですよね。H野さんがそうであったように、無駄な時間(経験)なんかない……なのだと思います。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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