巻ノ七十二「叱る」でなくて「怒る」職場。そして板挟みで疲れ果て……
高校卒業後、I垣さんが飛び込んだ会社の社長は、「叱る」よりも「怒る」タイプの人でした。
自身の経験不足もあって、いなし方が分からない中、顧客と社長との板挟みに、ただストレスばかりが募る日々。
やむなく転職の道を選ぶことになった彼なのでありますが……と、そんな今回の体験談です。
正直「見つからないだろう」と思いつつ
現場には、自社の先パイだって、他社ではあるけれどもベテランエンジニアさんだっていたはずなのに、なぜか社長の矢面に立たされてしまったI垣さん。
彼がその境遇に陥ったのは、入社から3年目のことでした。
「リーダー経験なんかも皆無でしたし、社長の指示も一方通行だったので、他社の方からはお叱りを受けるし、社長からは理由も分からず怒られるしで……」
特にこの社長。「分かってないくせに余計な口はさまれると困るんだよ!!」などとお客さんからクレームが出るほど、あちこちで不興をかっていたのだとか。自身の未熟さに対する文句に対しては「申し訳ない」「頑張ろう」と思えるI垣さんですが、社長に対する文句については、なんとも応じようがありません。結果、あちらこちらからメッタ打ちという惨状でした。
そんな状況が長く続いたため、「いざ転職」と思った時、彼は自分自身に対してまったく自信が持てなかったと言います。
「なんせいつも怒られる立場でしたし、高卒でしたから、こんな自分を拾ってくれるところがあるのかなぁ……って」
それでも半分は「社会勉強」と割り切って、ダメもとで転職サイトにプロフィールを登録してみました。
「自社は普通なのだろうか、恵まれているのだろうか、それともおかしいのだろうか」
I垣さんは、それを誰かに聞いてみたかったのです。
あまりの違いに軽くパニック
それからしばらく。「どうせダメだろう」と放置していた転職サイト経由で、I垣さんのもとに企業からのアプローチが届きました。そして、「さっそく日曜日に面接を」という話になりました。
その席上。I垣さんは「軽くパニックを起こしていました」と言います。
面接の場にあらわれた社長さんは非常に朗らかな方で、人柄の良さがにじみ出ている、そんな人だったのです。
「あまりに自社と印象が違う!!」
その驚きは、「この会社だったら、働き続けることができそうだ」と彼に思わせるに十分なものでした。
翌月曜日。今度はその会社の社員さんたちやほかの取締役の方と、話す機会をもらいました。
「自由な雰囲気で発言できる環境であるのにびっくりしました。自社ではそんな空気みじんもなくて、いつも息が詰まりそうな環境だったので」
もうI垣さん、「働き続けることができそう」どころではありません。
「この会社で働きたい!! 今すぐにでも!!」
……こうして彼の新しい会社は決まりました。先方も、「若くしていろいろ経験している」と、彼を将来性込みで評価してくれたようです。
そんなI垣さんの今はというと……。
「部下のモチベーションに気を配ってくれる上司のおかげか、現職ではキツイ状況にあっても『やめたい』ではなく『最後までやり遂げたい』と思えまして、その違いが印象的です」
もちろん今回の転職については、「満足」とのことでした。
「自分が他社でも通用するかどうか、正直言って自信がない」
こうした不安は、転職を考えた時に多くの人が抱くものじゃないでしょうか。その結果、時には転職を躊躇(ちゅうちょ)してしまったりとか。
でも、その場にとどまったからといって、何が好転するというわけでもないんですよね。
だからこそ、「半分勉強」と割り切って転職活動を試みたI垣さんの選択は良かったんでないかなぁと思うのです。
勉強のタネは社内だけじゃなくて社外にも転がってる。そのタネを探す一策として、転職活動も大いに活用すべきだ。
そんなことを思う体験談でありました。
■著者プロフィール
きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/
■著書紹介
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