巻ノ七十八毎日毎日マザーボードを交換するだけの日々に、「成長が望めない」と会社を出る心を決めた
厳しいことは多々あるけれど、同時にやりがいもある。そんな環境で仕事を頑張っていたT島さん。けれどもある日を境にその環境は激変。新しい仕事は彼に漠とした不安の影を落とすようになったのですが……と、そんな今回の体験談です。
止めないけども、落ちぶれるなよ
T島さんが会社を退職しようと決めた理由。それは「ここにいると、これ以上の成長は望めない」というものでした。
だってパソコン修理がなりわいになったといっても、扱う機械はいつも同じ機種なのです。だから毎日の交換作業もただ同じことを繰り返すだけ。新しく身につく技能は何ひとつないといっても、決して言い過ぎじゃありません。
しかも、社内環境はとてもだれだれで、現場仕事のない時は昼寝してるものまでいる始末。
給料はちょっと少ない職場でしたが、人間関係に不満はありませんでした。でも、ちょっとこの現状はひどい。自身の将来に、彼が不安を抱くのはごく普通のことだったと言えます。
「たぶんここでは今の仕事しかないから、それ以外を望むなら辞めてもらっていい。ただ落ちぶれた姿は見たくないから、失敗はしないでくれ」
退職という選択肢を含めて、彼は上司に今後のことを相談してみました。そこでいただいたのがこの言葉。T島さんは、これを「励まし?」と受け取ったようです。
こうして彼の転職活動は始まることになりました。とりあえず会社に籍は残したままで、イメージとしてはシステムエンジニア的な仕事にありつくこと。以前のサポート業務で小規模な事業所のネットワーク構築をお手伝いしたことがあり、その時の「お客さんからヒアリングして、ルータ設定して、ドキュメントを作って……」といったことが、T島さんにはとても楽しい経験だったのです。
資格取って「I can!」なのです
「といっても“システムエンジニア”って仕事も、正直よく分かってはいなかったんですけど」
そう語るT島さん。転職サイトでめぼしいところを見つけては、とにかく応募して落ちて探しての繰り返し。10社程度を半年くらいかけて回り、その期間で資格も取ってみたりしながらの転職活動であったようです。
ちなみに資格は、MCP(WindowsXP)とCisco社のCCNAを取ったそうです。
「転職活動にどれだけ効果があったか正確には分かりませんが、書類審査は通りやすかったのと、転職後の給料には、他の転職組と比較して多少色がついていました。そのあたりは資格の差があったのではないかと思います」
最終的に彼は、某大手企業のシステム系子会社から内定をもらいます。
「なぜここを選んだかという以前に、応募して内定をくれたのは結局この1社だけだったので」というわけで、悩む余地なくこの会社に転職決定。その後は、運用保守を1年やった後で、老朽システムの刷新プロジェクトに放り込まれ、さらに1年後は別の刷新プロジェクトでサブリーダーとなり……と思ったらリーダーはただのお飾りなので実質リーダーになっちゃったり……と、どうやら新しい環境で、T島さんは着実に歩を進めることができているようなのであります。
ただ……。
「明らかに経験不足の自分に大役をあてがっておきながら、まるでフォローのない上司や、さらに仕事を押しつけてくる会社組織には少し不満を抱えています」
という鬱憤(うっぷん)もなきにしもあらず。でも給料は1.3倍になったし、仕事も前職より面白いですと、そうポジティブに話を締めくくるT島さんなのでありました。
将来への貯えって大事ですよね。それはイチ仕事人にとってはお金の話だけじゃなくて、やっぱり「仕事を通して何を自身に積み重ねていくか」ということでもあるのだと思います。
だから転職を決意する前段階のT島さんの不安はよく分かります。そりゃ不安ですよ。「今は楽なんだからそれでいーやー」と、キリギリス状態で働いてるのと同義ですもんね。
仕事を通じて抱いた不安を、後々につながる良いきっかけに転換できるか否か。
「転職して良かった」と将来振り返ることができるかどうかの判断基準として、これも外せない要素であるように思えます。
■著者プロフィール
きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/
■著書紹介
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