ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ八十一憧れと現実。自分向きなのはさてどっち?

なんらかの憧れを抱いて職に就く。好きこそものの上手なれというように、本来であれば喜ばしいことに違いありません。
ところが、「憧れの職」が「向いている職」だとは必ずしも限らない。今回のF本さんも、そうした現実にぶち当たった1人。彼はその結果なにを考えたのか。
そんな今回の体験談です。

憧れと、そして正直な気持ち

緑あふれる世界への憧れ。その憧れに近づくべく、大学進学に際してF本さんは「環境デザイン学科」を選びました。ところが入ってみてびっくり。環境デザイン学科とは単に「今って環境問題が流行ってるみたいねー」と時流にのっかって改名しただけの、単なる建築学科だったのです。なのでもちろん、F本さんが想像していた造園学分野の授業なんか一切なっしんぐ。けっきょく彼は卒業の時まで、「思ったのと違う」というギャップにつきまとわれることとなります。
卒業は1997年のこと。バブルもはじけきって、就職氷河期と言われた時代でした。学内推薦で得られる就職口はなく、F本さんは自力で就職活動を行い、土木コンサルタント会社の下請けの、小さな公園設計事務所に入ることとなります。
社員数は5名ほど。仕事は個人任せで、決まった研修制度などはありません。給料も、月の手取りはそこそこながら、ボーナスは寸志程度。ただ「1部屋に常に皆がいる小所帯」がゆえに社長との距離感はないに等しく。そのちょっとしたアットホームさが気に入っていたのも確かです。
「それに憧れだった公園設計の仕事だし!!」
しかし入社から3年目、はじめて公園設計を任せてもらえた時、彼はあることに気づいてしまったのです。
「なにも思い浮かばない」
「そもそもオレ、花とか樹木とかの名前あんまり知らないし、覚えるのも苦手だし……」
「頭の中の漠然としたものを、ズバッと図面におこす能力も足りてないように思える」
最終的に、この仕事は先輩がやることになり、彼はその手伝い役となりました。「できません」と言った際、先輩からは特に叱られるようなこともなく、「そうか」と言われただけだったそうです。
「この仕事、向いてないのかもしれない」
それがF本さんの、正直な気持ちでした。

好きな仕事はこっちかも!?

いつからかF本さんは、設計業務と並行して、社内のコンピュータ管理やCADソフトの導入担当という役目を背負うようになっていました。本当なら本流からずれた、ともすれば雑用の範疇(はんちゅう)になるところですが、コンピュータやCADソフトをさわっているうちに、「オレ、こっちの方が向いているのかも」なんてことを彼は思うようになっていきます。
花や樹木の名前はなかなか覚えられないけど、コンピュータ用語やCADソフトの知識は労せず自然に覚えることができるのです。しかも、出入りしているITベンダーのSEさんが、これまた頼りになる良い人で、「あの人のようになりたい」「あの会社に入りたい」なんてことも思うようになっていました。
一方で、自社の状況は年々深刻さを増していました。なにを言われたわけでもないですが、身近にいる社長を見てれば、どんな状態にあるかなんて容易に想像がつきます。
やがて健康保険の会社負担ができなくなり、国民健康保険や国民年金に乗りかえる必要が出てきました。そして、給与の遅配がはじまりました。
意中のITベンダーさんのWebサイトに「中途採用のお知らせ」を見つけたのはそんな折りのことです。もうためらうことなく即応募。出入りしていたSEさんと担当営業さんが「あの人なら大丈夫」と後押ししてくれたおかげで、無事採用に至ることができました。
退職の意思を社長に伝えた時、社長の方では「設計ではなく、PC関係の仕事をさせることでキャリアプランを宙ぶらりん状態にしてしまい、ビジョンを示せないまま転職に至らせてしまったこと」を申し訳ないと思ってくれていたようでした……。
そんなF本さんの今の仕事は、2次元・3次元CADの提案や導入・運用支援など。もう入社から7年が経とうとしています。
「自分の能力を底上げしてくれるコンピュータやCADが大好きです」と、「好きこそものの上手なれ」を地で突き進む、F本さんなのでありました。

オチの一コマ
本日の一句

「趣味を仕事にすると逃げ場がなくなって大変だ」とはよく言われることではありますが、一方で「好きだからこそ努力を努力とも思わず習得が進む」のも事実。
多分「好き」と「趣味」と「楽しい」は、イコールでつながるものではないんでしょうね。でも、それが限りなくイコールに近くなるなにかがあって、しかもそれを仕事にすることができれば、これ以上の幸せはないような。
F本さんにとってのコンピュータ、そしてCADは、まさにその「限りなくイコールに近い」なにかだったのかもしれません。そう考えると、実に幸せ者な体験談だな! なんて思うのでありました。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

著書紹介

キタミ式イラストIT塾「ITパスポート試験」 平成22年度キタミ式イラストIT塾
「ITパスポート試験」 平成22年度

出版社:技術評論社
定価:¥2,079(税込)
http://www.amazon.co.jp/dp/4774142026

★このコーナーが本になりました!

SE・エンジニアの本当にあった怖い転職話SE・エンジニアの
本当にあった怖い転職話

出版社: 毎日コミュニケーションズ
定価:1,470円(税込)

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

勤務地を選ぶ

職種を選ぶ