ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ八十四気に入らなければ怒鳴り声、のちカカト落とし!? 胃潰瘍になって、辞めることを決めました

人が退職を選ぶ時の上位にくる項目として、「人間関係」は外せないものだといいます。特に上司との関係。これがまずいといろいろツライ。
今回のS川さんも、上司との仲がどうもよろしくなかった1人。彼は何がつらかったのか。そして、なぜそれが解消できなかったのか。
そんな今回の体験談です。

改善しろよと叫んだものの

S川さんが18歳の時に就職した会社は、某大手SI企業の協力会社で150名ほどの規模でした。社長がこの某大手SI企業の元社員だったので、そのツテで仕事を得ては、社員を出向させる。それが主な事業でした。
出向すると、毎月「人件費」という名目で決まった売上があがります。こうなると、社長は機嫌が良いのです。でも、利益が減ると機嫌が悪いのです。
S川さんが出向した先は、月に200時間以上の残業を強いられるという過酷な職場でした。有給が取れないとかいうレベルではなく、たとえ肺炎になっても休めません。
「これでは持たないので、人員を追加してほしい」
一緒に出向していた先輩方と、何度そのような声をあげたか知れません。
しかし、「予定外の人員を追加する=追加のお金はもらえない」という図式が成り立つために利益は減ります。つまり社長は不機嫌になる。よって答えはいつも却下、却下、却下。ついでに言えば、出張などの経費精算も、経理に直接持参してねじ込まないと却下される会社でもありました。
会社……というか社長にすれば、「とにかく外に出してれば金になる」であり、「社員の声を無視していれば安定して金が入ってくる」であり、「たとえ辞めても、代わりを補充すればそれでうっしっしっ」であると。
そんな自社の状況に加えて、さらにS川さんを悩ませていたのが、出向先の監督者である、発注元の理不尽な上司の存在でした。

右向け左向けカカトをくらえ

この上司。とにかく理不尽。「先を読め」と怒鳴るから先を読んだら「まだ早い」と怒鳴られ、その逆にしても以下同文。始終怒鳴られるもんだから、結局S川さんは、常に彼の顔色をうかがいながら仕事をするほかありませんでした。
だってそうしないと鉄拳制裁が落ちてくることもあるし、時にはカカトが落ちてくる。曇り時々雨ではなくて、罵声(ばせい)時々カカトではしゃれになりません。
当然S川さんの神経は、常にピリピリと張り詰めざるをえませんでした。
病欠さえも許されない過酷な労働状況。そして上司からのプレッシャー。彼の胃に穴が空いてしまうのは、至極自然な流れだったと言えます。
「胃潰瘍(かいよう)ですね」
医師の診断でそう告げられた時、S川さんは退職を決意しました。26歳の年でした。
「まずはとにもかくにも離職して、その後で人材紹介会社に登録して転職活動をはじめました」
しかしその後も、なかなかうまくはいかなかったと言います。
「電気工事や機器設置、現地調整などが主な経験業務だったので、あまりスキルとして認めてもらえず苦労したのです」
ある会社では、「LAN工事ができても、CCNAなどの資格がないと厳しいよ」と言われたそうです。面接を重ねれば重ねるほど、S川さんは「機器設置後の作業を担当する、SE作業やSI企業に従事できてれば良かったんだけど」との思いを強めたのだとか。
その思いが、彼の会社選びの基礎となり、そして熱意に変わりました。やがて1社、彼の熱意を認め、受け入れてくれるSE系の会社が現れてくれたのです。
「今は某大手SI企業本体の方に派遣されて、客先常駐でシステムの保守運用支援をしています。念願叶ってSE業務です」
今度の職場には、あたりまえですが肉体派上司的な存在はないらしく、「お客さまも同僚もいい人ばっかり!!」とわが世の春を謳歌(おうか)する、S川さんなのでありました。

オチの一コマ
本日の一句

待遇が悪い。つぶしがきくようなスキルも身につかない。でもこの場所しか知らないから、なかなか怖くてよそには行けない。
実に理解できる心境です。こういう時って、自信の持てるスキルがないから、余計転職に対して及び腰になっちゃったりもするんですよね。
でも、「じゃあ、あと3年我慢したら行けるようになるの?」と自問してみれば答えはNo。待てば待つだけよそに行きづらくなるだけ。今動かないと!だったりするのです。
我慢は決して問題を好転させてくれる万能薬ではない。そんなことを実感させてくれる体験談だったのではないかと思います。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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