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部下やメンバーにジレンマ。「当事者意識がない」「協力してほしい」時のアプローチ法を専門家に聞く

部下やメンバーにジレンマ。「当事者意識がない」「協力してほしい」時のアプローチ法を専門家に聞く

キャリアアップしたい。年収アップしたい。けれど、管理職や責任がある立場になっていくと、悩みも増えるものです。上司や先輩の姿を見てその様子をひしひしと感じ、キャリアアップに対して尻込みをしている方もいるかもしれません。

実際、2024年9月実施のマイナビ転職の調査「管理職の悩みと実態調査」では、「管理職になって良かった」と回答した人は約6割に留まっており、キャリアアップした結果、後悔ともつかぬ感情を抱いている方が一定数いるようなのです。

では、「管理職になって良かった」と思えない理由はどんなところにあるのか。同調査の「管理職の業務で大変だと感じるもの」の質問で最も回答が集まったのは、1位「部下の育成」。

2位と3位も、「部下のモチベーションをあげる」「部としての業績を達成する」と続き、いずれも部下や部のメンバーとのコミュニケーションやケア、モチベーションコントロールを求められるような項目がランクインしています。

管理職の職務で大変だと感じるもの(MA)

また、「部下の指導で困るもの」の問いには、「当事者意識がない」が最多。
管理職、プロジェクトリーダー、役職がないものの年次やキャリアが上がり一定の責任を求められるようになってくるとプレッシャーがつきものです。メンバーとの温度感の差に直面した時、ジレンマを抱えるであろうことは想像に難くありません。

部下の指導で困るもの(MA)

昨今はコンプライアンス意識の高まりでハラスメントへの配慮を求められることも、メンバーへ協力をお願いするハードルを高める一因となっていることでしょう。

とはいえ、このような悩みは、給与アップやキャリアアップを目指していくうえで、そして年次を重ねていくうえで避けられないものです。いざ、実際このようなケースに直面した場合、部下やメンバー、後輩にどのように接していけば良いのでしょうか。

自身だけで抱え込まずに協力を求めていくためのコミュニケーションのヒントを、代表的な事例をもとに探ってみましょう。キャリア・コンサルタントの林 碧(はやし みどり)さんの解説です。

この記事はMEETS CAREER by マイナビ転職で
2025年01月15日に掲載された記事の転載です

キャリア・コンサルタント
林 碧(はやし みどり)

株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。 企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生・保育園児の2児の母。

目次

    <お悩み>
    部下の指導に困っています。みんなが課の目標を達成しようと努力しているなかで、成果を出そうとせず、忙しい人に協力しようという態度もなく、一人だけさっさと帰ってしまいます。もう少し協力してほしいのですが、残業を強制させていると取られたらパワハラになりそうです。どのように対処すべきでしょうか。

    <回答>
    チームの目標達成に非協力的な部下の対応に苦慮している、との内容ですね。読者の方には、似た経験があるという方も多くいらっしゃるかもしれません。試行錯誤されるなかでのご相談かと推察いたしますので、既に取り組まれていることもあるかと思いますが、改めて対応の要点をまとめてみました。

    部下の言い分を確認できていますか

    相談者さんとしては、1人だけ協力してくれない部下の存在は困りますよね。課の目標達成のためにも、他の頑張ってくれている部下のためにも、もう少し業務面で協力してほしいという気持ちが相談内容から感じられます。

    一方で、気になるのは部下側の言い分や思いです。人の行動には本人が自覚している・していないによらず、背景となる感情・行動の動機が存在します。この部下についても、相談者さんから見ると非協力的な行動の背景となる思いがあるはずです。

    彼ないしは彼女の言い分を、きちんと本人から聴くことができていますか? ポイントは、相談者さん側の想像ではなく「本人の口から思いを聴けているかどうか」です。今回のケースでは確認できていない可能性も感じました。

    もし聴けていないのであれば、まずは相手の思いを理解するところからスタートすると良いでしょう。この言葉を受けて「聴いたとしても答えてくれる訳がない」「話したとして建前だろう」と感じる場合は、普段のコミュニケーションを見直すことが必要になります。それこそが、部下が非協力的な理由である可能性が高いからです。

    多くの人は心地よく過ごせない場に長時間身を置きたいと考えないものですし、自分の言い分に耳を傾けてくれない、あるいは受け入れてくれない場を心地よくない、と判断する人も少なくありません。自分の言い分を聴かない相手の主張を聞き入れたくないという心情も生じ得ます。

    いま一度、日常のコミュニケーションを振り返ってみましょう。一方的に叱咤(しった)するような関係性になってはいないでしょうか? うまくいかない理由、部下の業務に関する不明点、困りごとに日頃から寄り添って対話できているでしょうか?

    ご質問内容からも、相談者さんのいらっしゃる部門は大変お忙しいようにお見受けします。それゆえ、指示的なコミュニケーションに偏らざるを得ない、という事情があるかもしれませんね。とはいえ、組織力向上に一番有用なのは円滑なコミュニケーションであるというのもまた事実です。

    日頃のやりとりのなかで、意識的に部下側の言い分を確認する時間を取るようにしましょう。ご自身では難しいなら、その役割を部門内で担保することが必要かもしれませんね。対話量が組織と個人の距離感の改善につながり、結果的に相手の姿勢が変化していくことが期待できます。

    まずは受け止め、そのうえで伝えるコミュニケーションを。

    別の可能性として、相手の言い分は聴いているが、およそ自分には納得できる内容ではない、というケースもあるでしょう。特に世代が離れている部下の場合、上司側から見たときに物事の捉え方が「自分勝手だ」と感じるケースや、「稚拙だ」と感じるケースもあるかと思います。

    とはいえ、その状態で頭ごなしに「それは違う」と叱りつけるようなやりとりをしてしまうと、以降の指導の言葉は受け止めてもらいにくくなってしまいます。特にZ世代と呼ばれる最若手の世代は、「自身の価値観や個性を尊重してもらえる」ことを重視する傾向にあります。

    まずは、そういう考え方であることを受け止め、可能であればそう考えるようになった背景を確認するためのコミュニケーションを取れると良いでしょう。考え方の違いは、育ってきた時代背景や受けてきた教育の違いが影響していることも多くあります。相手の価値観やその背景を一度しっかりと受け止めることができると、今後の業務指導の糸口が見えてくるかもしれません。

    また、「この仕事をしている動機」や「個人として目指すもの」などについても聴くことができると、業務への動機付けはしやすくなります。ぜひ、「分かりあえない」「あり得ない考え方」として終わらせるのではなく、「なぜそう思うのか?」を確認することで、今後につながるきっかけとしていただけたらと思います。

    もちろん、受け止めて終わりでは、協力を得るという目的を達成することができないので、聴いたうえでこちらの思いを伝えることが必要です。ただ、受け止めが浅いと以降の言葉は届きにくくなるため、まずはしっかりと部下の思いを受け止める段階を踏んでいきましょう。

    思いの重なる部分や「WHY」で動機付ける

    業務上の協力を求めるうえでは、相手の価値観を踏まえ、組織として目指すことと重なる部分から伝えるように意識しましょう。そのうえで、具体的に求めている対応を明確に伝えます。その際、「何(WHAT)」をしてほしいのかと併せて「なぜ(WHY)」それを求めているのか? を伝えることを意識すると良いでしょう。

    若い世代ほど物事の背景や意義を重視する傾向にありますし、その業務の目的や社会的貢献度の高さを実感すればするほど高いモチベーションで取り組む傾向にあります。裏を返せば「決まりだから」「やるのが当たり前」と伝えても共感は得にくいです。

    特に若手に対しては、会社や社会への貢献にどうつながるか、組織はその行動にどれだけ助けられるか、言葉にして伝えるよう意識すると良いでしょう。ぜひ、その前段階で捉えた部下の価値観も踏まえ、協力を要請してみてください。その際も一方的にならないよう、相手の反応や意向を確認しながら伝えましょう。これは、ハラスメントと受け取られないためにも重要です。

    また、業務におけるその部下の取り組みについて、日頃助けられていると感じることはありますか? あるいは直近の取り組みでこの動きは良かった、そう感じた場面はありましたか? もしそういう場面があれば、この話をする前段に一度しっかり承認や感謝を伝えると良いでしょう。

    役に立っている実感のある組織にはさらなる貢献をしたいと考えるものですし、逆もまた同様です。このような承認のコミュニケーションは、忙しい組織ほど薄くなりやすい傾向があります。もし、普段あまり伝えられていないと感じる場合、今後こまめに伝えていくことも改めて意識していただけると良いかと思います。

    残業無くして成り立たない業務構造は要注意

    別の観点ではありますが、組織への協力要請という話のなかで「残業」の要請と取られかねないニュアンスがあったことは少し気になりました。繁忙時やプロジェクト終盤、業務上生じる一時的かつ常識的な範囲のものであればよいのですが、もし残業ありきで動いている、過度な残業が常態化している、といった場合は、そもそもの業務構造についても見直しが必要かもしれません。

    相談者さんの立ち位置にもよるとは思いますが、必要に応じ課内の上司や人事などしかるべき相手と相談してくださいね。健全な組織運営には適切な体制が不可欠ですし、それを築くためのコミュニケーションは、結果的に課員の皆さんを守ることや、課の成果を維持することにもつながっていくかと思います。

    今回は非協力的と感じられる部下の育成についてのご相談でした。この相談が、少しでも相談者さんの部下との関わり方、組織運営のヒントになっていれば幸いです。

    文:ミーツキャリア編集部

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