敬老の日に考えたい「親の介護と自分のキャリア」──未来を守る準備とは【介護離職を考える】
「今は都内で勤めていますが、実家は東北。両親も祖父母も高齢になり、将来介護が必要になるかと思います。今の勤務先は都内にしか事業所がなく、介護をしようと思ったら仕事を辞めなくてはいけません。両親のことは大切に思っていますが、実家に帰るのは正直ハードルが高いです。両親と改めて話をするのも気まずく、そのままにしてしまっています。このままで大丈夫でしょうか?」
――親の介護が必要になったら、今の仕事はどうしよう……。そんな不安を心のどこかに抱えながら働いている人は少なくありません。
「マイナビあなたの介護」が実施した『仕事と介護の両立に関する意識調査』では、「介護をしている・したことがある方の約55%が、転職・休職・離職を検討した経験がある」という結果が。
介護は突然始まることが多く、仕事との両立に悩む人が多いのが現実です。
今回の記事では、「遠方に住む家族の介護と、自身のキャリアへの不安」について寄せられた相談を元に、キャリアコンサルタントの林碧先生にお話を伺いました。
現実的な選択肢や、今からできる準備についてのアドバイスなど、介護とキャリア、どちらも大切にしたい――そんなあなたに向けた未来を見据えるヒントをお届けします。
今年の敬老の日は9月15日。長年にわたり社会を支えてきた世代に感謝を伝える日を、家族の健康やこれからの暮らしを考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
キャリア・コンサルタント
林 碧(はやし みどり)
株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。 企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生2児の母。
この記事はMEETS CAREER by マイナビ転職で
2025年09月05日に掲載された記事の転載です
「介護とキャリアの両立」。不安に気づけたこと自体が、すでに第一歩です
今回は介護とキャリアの両立、というご相談ですね。悩ましい点が多く不安な気持ちが伝わって参ります。
介護は多くの場合、思いがけないタイミングで始まります。「まだ元気だから」と思っていても、転倒や病気、認知症の兆候をきっかけに突然サポートが必要になることも。とはいえ、両親が年を重ねる中で、気にはなりつつもまだ平気、まだ平気、と先延ばしにしてしまう方は多くいらっしゃいます。
ご相談のように、特に親御さんを地元に残して日々キャリアを積み重ねている方の場合、「親御さんの介護」はとても重大で大きなテーマのひとつと言えるでしょう。
これまで積み上げてきたキャリアを大切にしたい気持ちと物理的な距離の狭間で、「辞めなければならないのでは」と不安にもなるはずです。それでもこのようにご相談いただいたこと自体、ご両親を大切に思う気持ちの表れだと思います。
介護について話すことは、両親に年齢という現実を突きつけることにもなる行為。「気まずくて話題にできない」という思いもまた、多くの人が抱く感情です。
今回はこの不安を見逃さず、立ち止まれたご自身を大切にしていただきつつ、現実的にどう検討していけばいいのか、キャリア支援者の視点からお話させていただければと思います。
介護とキャリアの両立で直面する負担
介護は大きく分けて 時間・精神・経済の3つの負担 を伴います。
介護とキャリアの両立で直面する3つの負担
- 時間的負担
通院や買い物、役所手続きなど。突発的な呼び出しで予定が崩れることも珍しくありません。 - 精神的負担
親の体調や将来への不安、家族間の意見の食い違い。先が見えないことによる消耗感は大きいです。 - 経済的負担
介護サービスの自己負担や交通費、収入減など。特に時短勤務や休職で家計が直撃します。
さらに「情報不足」も大きな壁です。制度や支援サービスを知らないまま一人で抱え込み、疲弊してしまう方も少なくありません。
厚生労働省の「雇用動向調査」によると、毎年約10万人が「介護離職」に至っているとされています。男女問わず増加傾向にあり、40〜50代の働き盛り世代が直面するケースが目立ちます。
これは決して他人事ではなく、誰にでも起こりうる現実です。だからこそ、備えていくという視点が求められます。
介護で考えるべき視点は「時間」・「距離」・「働き方」
介護とキャリアを両立するために、まず考えたいのは以下の3つの視点です。
介護とキャリアの両立のために持つべき視点
- 時間軸
介護は今すぐ必要か、それとも数年先か - 距離の取り方
完全帰省か、定期的な帰省や遠隔支援で対応できるのか - 働き方
現職での制度利用や異動が可能か、それとも転職か
実際、Uターン転職の理由に「親の介護」を挙げる人は17%ほど存在しますが、転職先を探すのは簡単ではありません。地方では求人が都市部より少なく、非正規割合が高い地域もあります。それは収入の減少やキャリアの中断につながることもあります。
また、介護を抱える世代の転職は即戦力となるようなスキルやリーダーシップをとる立ち位置が求められやすく、企業の要求と個人の希望の折り合いもつきにくいのが現状です。
だからこそ、介護を前にした際には少し早めに動きはじめ、「現職でできる工夫・可能性」と「将来の備え」を同時に考えることが重要です。
介護のスタートはいつ? ケース別に備える
「今すぐか/将来か」で打つべき手は大きく変わります。大切なのは「どちらの可能性もある」と理解し、二重に備えておくことです。
もし今すぐ介護が始まるのなら
- まずは職場に現状を共有、介護休業や時短勤務、カムバック制度の有無について確認し希望を伝える
- 自治体の地域包括支援センターに相談し、利用できる介護サービスを調べる
- 家族間で役割分担を話し合い、突発対応ができる体制をつくる
数年後に介護が必要になりそうな場合
- 今のうちに両親の希望を確認(在宅希望か、施設希望か)
- 兄弟や親族と「いざというときどうするか」を事前に合意形成
- 転職や異動を考える場合は、時間をかけて求人傾向を調べておく
- 貯蓄やライフプランを点検し、経済的な備えを始める
そして、これをしようとなると、現状知らないことが多いと気付くでしょう。
例えば、介護休業や時短勤務の制度等の理解の不足に気付くかもしれません。介護サービスを調べる中で、介護度認定の仕組みや親の現状を改めて把握したいと思うかもしれません。
家族の役割分担の前に、実際どのような負担はそれぞれが出来るのか、想定しているのか? という点も確認が必要となるでしょう。これらは親御さんや家族との対話、地域社会とのつながりの中でしか得られない情報です。
最初の一歩──今日からできる「介護とキャリアの両立」のための準備
1.ご両親との対話
「介護」という言葉は、伝えにくい。優しい相談者さんはきっとそう思ったのかと思います。
切り出す際には、「これからも安心して暮らすために」とか、「お母さんお父さんにとっての良い状態を大切にしたいから聞くのだけど」と伝えると話しやすいかと思います。
また、例えば「病院の通いやすさはどう?」「最近の体調はどうなのかな?」など日常の延長で聞いてみるのも良いでしょう。
2.情報収集
行政窓口で介護保険制度や利用できるサービスを確認するといいでしょう。
また、地域の福祉イベントやコミュニティ活動への参加もおすすめ。経験者から実践的なヒントを得られ、自分が取れる工夫が見えてくるかもしれません。
3.職場への相談
制度は「ある」だけではなく「使えるかどうか」が重要。
最近親御さんの様子が気になっている、という事実を早めに上司や人事に共有しておくと、実際に必要になった時の調整がスムーズです。
また「こんなことができるなら安心して仕事を続けられるかもしれないのだけど」との要望も併せて伝えておくことで、会社として可能なことについて検討いただけたり、新しい制度をつくるきっかけになったりするかもしれません。
組織を動かすには時間がかかるもの。差し迫っていない時からコミュニケーションをとっておくことは重要です。
4.転職を検討する場合
安易に地元で再就職、と決めるのではなく、実際の市場はどうなのか、実現可能性はどうか、しっかりと情報収集したうえで判断するといいでしょう。
地方での転職は求人が限られるため、在宅勤務可能な企業や副業・フリーランスという選択肢も視野に入れることもひとつです。
企業によっては退職者のカムバック制度などを用意していることもあります。そのあたりの情報も転職を選択する場合は確認しておくと良いでしょう。
介護のための転職・Uターンを選ぶときの現実と工夫
どうしても現職での調整が難しい場合には、転職やUターンも選択肢になりますが、地方転職には、以下のような特徴とハードルがあります。
地方転職における特徴とハードル
- 求人数が少なく、業種に偏りがある
- 即戦力採用が中心で、未経験での挑戦は難しい場合も多い
- 年収水準が都市部に比べて低い傾向がある
一方で、近年はフルリモートを認める企業や、副業を推奨する企業も増えています。そのため、「都内に勤めつつ実家に通う」「週の一部だけ在宅勤務で地元に滞在する」といったハイブリッド型の関わり方を模索する人も出てきています。
大きな環境変化にはリスクが伴うからこそ、「すぐに辞める」のではなく「準備をしながら検討する」「会社と対話しつつ可能性を探る」姿勢も重要です。
最後に──介護もキャリアも、あきらめなくていい
介護とキャリアの両立は、簡単なことではありません。報われないように感じたり、苛立ったりする瞬間もあるでしょう。
それでも、あなたが積み重ねてきた経験やスキル、人とのつながりは、確かに力になります。介護を通して得る新しい力も、きっとキャリアの一部になるはずです。
「このままで大丈夫?」と不安を持ったこと自体が、すでに一歩目です。今から準備を始めれば、いざという時に慌てずに済みます。
介護は人生の一部であって、すべてではありません。介護が終わった後の自分が、その選択に後悔しないように、との視点も持ちつつ検討を進めていけると良いですね。
介護もキャリアも、あきらめる必要はありません。
不安に気づけた今こそ、未来を形づくる第一歩です。不安を力に変えて、一歩ずつ準備を進めてみてください。その積み重ねが、きっと未来を明るくしていきます。
「マイナビあなたの介護」では、働きながら介護をするビジネスケアラーの『あなたのキャリアと介護の両立』をサポートします。施設入居だけではなく、介護の不安や悩みなどにも寄り添います。まずはお気軽にご相談ください。
【出典】
マイナビ転職「地方移住転職・Uターン転職の年収変化と満足度調査」
文:マイナビ転職編集部
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