第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.38歌手 K
言葉の壁を乗り越えて
Heroes File Vol.38
掲載日:2010/10/29
「天国からの歌声」と呼ばれ、多くの人の心をとらえてきた歌手のKさん。母国の兵役に就くために一旦活動を休止することを発表した彼が、5年間の日本での活動の思い出や今後の目標を率直に語ってくれた。
Profile
ケイ 韓国出身。2004年韓国でデビュー後、日本デビュー。ドラマ「H2~君といた日々」の主題歌「over...」がヒットし、その後数々のヒットを飛ばす。10月27日に、5年間の活動を振り返り、感謝の思いを込めたシングル「dear...」をリリース。11月30日には武道館コンサートを予定。
教会のゴスペルで培った天国からの歌声
このたび母国での兵役に就くため、日本で5年前から行ってきた活動の一時休止を発表した韓国人歌手、Kさん。美しい日本語の甘く切ない歌声は「天国からの歌声」と評され、数々のドラマや映画の主題歌に取り上げられて多くの人々の心に届いてきた。
韓国で生まれたKさんは、父親が音楽好きだったことで、幼少の頃からソウルミュージックやR&Bに親しみながら育つ。中学時代に独学でピアノを始め、やがて教会でゴスペルの演奏活動を行うようになると、その歌声が注目され、韓国で歌手デビュー。名字のイニシャルから取った「K」という名で活動し、数カ月後には日本でデビューすることになった。
「びっくりしました。韓国にいた時も日本の文化が好きで音楽も映画もアニメも楽しんでいましたが、まさか自分が日本でデビューするとは思ってもみなかったです」
今ではとても流暢(りゅうちょう)な日本語を操るKさんだが、当時はまったく日本語を話せなかったという。
日本語を勉強し微妙なニュアンスも理解
「最初はしゃべれなくていいと言われたんです。でも、僕のように自分の心の中を素直に歌詞に表現するタイプはきちんと日本語が分かっていたほうがいい。それにせっかく日本にいるのだから日本の言葉で生活したいと思いました」
デビュー曲の「over...」はオリコン5位のヒットとなり、その後も順調にヒットを飛ばす。その裏で、慣れない異国で単身、言葉の壁と格闘した。「ささいなことですが、中華料理店でスプーンを頼んだら、発音が分かりづらかったのかスープが来たり(笑)」。
映画やアニメのDVDを見ながら懸命に言葉を覚えようと頑張る彼に、周囲のスタッフも協力してくれた。日常で気になった表現などは常にメモを取って調べ、半年もする頃には日常会話はほぼマスターし、歌詞も日本語で書けるようになった。
「実際に接すると、自分が思い描いていた日本人のイメージとは全く違っていました。一見イメージ通りでも、その中にある微妙なニュアンスはそれぞれ違う。それはたぶん通訳を介していたら分からないことで、自分が日本語でやり取りできたから分かったこと。当たって砕けたことも多いけれど、そのニュアンスが分かってから改めて日本の映画や音楽に接すると見方が変わり、自分の歌詞も変わってきた気がします」
そして、47都道府県すべてでワンマンコンサートを成功させるなど活動はさらに充実。しかし、ここで彼の活動は一時幕を下ろすことになった。
過去の自分に手紙を書いて気づいたこと
日本でのデビューから、兵役に臨むための活動休止までを第1幕と位置づけたKさん。このたび第1幕のラストを飾るシングル「dear...」をリリースしたが、その歌詞は5年前に日本へ来た時の自分に、現在の自分が手紙を書くというスタイルだ。
「今回この歌詞を書くことでいろいろなことが見えてきました。たとえば最初に来日した時は一人ぼっちだと思い、不安だった。でも今になって振り返ると、仲間も、助けてくれる人も、その時は気づかなかっただけで実はたくさんいた。そんな風にして5年が経ち、自分はこうだと思っていたことが違っていたりして、今では当たり前になったことの特別さに気がつきました」
異国で様々な困難があっただろうに、「大きな苦労はなかった」と笑顔で語るKさん。そんな強い彼でもつらいと思ったのはどんな時か。
「時々、なぜ今自分はここにいるのか、それは正しいことなのかという疑いが出てきて、それに答えが出せない時はつらかったですね。そんな時は今回の『dear...』の歌詞にある『自分がキライだった』状態。乗り越えてまた自分が好きになる、その繰り返しでした」
自分が信じる道を進み違っていたら謙虚に反省
そうやって多忙な日々の中で頑張り、結果を出してきた彼が大事にしてきたことは「自分を失わないこと」だ。
「物作りの仕事では、いろんな人が様々な意見を言います。同じ曲に対しても褒められたり、けなされたり、もっとこうしたらなど多くの意見があり、自分を見失う瞬間がすごく多い。結局それが一番よくないことで、自分が決めた道を信じることが大事だと思う。たとえ失敗しても、反省すればそれはプラスに変わるはず。曲作りも、以前は人の心に届くためにはどうすればいいのかとすごく迷いました。でも今は、自分が感動したことや寂しさを素直に表現することが、結局、共感を呼ぶ気がしています」
第1幕のフィナーレは日本武道館でのコンサート。今までの集大成を見せたいという。
「その後、韓国の国民の義務として誇りを持って兵役に行ってきます。活動休止に不安がないと言えばうそになるけれど、ある意味貴重な機会だと前向きにとらえています。それに休止を決めたら、自分がやりたかったことがもっとたくさん見えてきた。日本での活動の第1幕が自分という存在の基盤作りが大きかったとすれば、兵役から復帰する第2幕は、1幕ではまだ挑戦できていなかったことを一つずつクリアしていくための舞台にしたいですね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
韓国式剣道の先生ですね。剣道を子供の頃からずっとやっていて、先生になりたかった。今はカメラマンかな。ここ数年カメラが好きになって、フィルムで撮影した作品集をパソコンで作っているんです。人を撮るのも大好きなので、復帰したらそういう活動もやってみたいですね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
「The Road On The Music Note」。韓国のラジオ局で働いていたADが解雇されてからの日記のような本です。辞めさせられたショックでひきこもりになった彼が、このままではいけないと思い、これまでのことをリセットするために友人とアメリカの旅に出ます。 旅の中頃、韓国の友人から電話がかかり「早く帰ってきて仕事を探さなくていいのか?」と言われ、一瞬彼は心が動き旅を中断して戻ろうとするんです。でも一緒に旅をしていたアメリカの友人の「人は偉くなりたいから、つい縦に高く伸びようとする。でもたまには横に海のように広がっていくのも大事なんじゃないか」という言葉で、彼は最後まで旅を続けたというすてきなお話です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
勝負「手洗い」。必ず手を丁寧に洗うことです。特に清潔好きというわけじゃないけど、ライブではピアノも弾くので、石鹸をつけて丁寧に手を洗う。するとすっきりした気持ちでステージに臨めます。
Infomation
日本での活動の第1幕を締めくくる、 シングルのリリースと武道館コンサート
デビュー5周年の記念シングル「dear...」。数々の困難を乗り越えてきた5年前の自分自身に向けたバラードソング「dear...」をはじめ、オリジナルの「ハラボジの手紙」、カバー曲にはビリージョエルの「Piano man」、スティービーワンダーの「Lately」などを収録。初回限定盤は、収録曲の違うA・Bの2種類があり、いずれもライブ映像のDVD付き。
価格/初回限定盤A・Bともに1,700円(税込み)、通常盤1,300円(税込み)
発売元/ソニーミュージック
「live K in武道館~so long~]
日時/2010年11月30日(火)
19:00開演
会場/日本武道館
詳細/オフィシャルサイト
http://www.k-official.com/