第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.103俳優 窪田正孝
今、役者に本気で向かう
Heroes File Vol.103
掲載日:2013/7/19
2006年にドラマで主演デビュー。以来、さまざまなドラマや映画に出演し作品を重ねるごとに演技の幅を広げメキメキと頭角を現してきた俳優・窪田正孝さん。落ち込むことがあっても、それを上回る何かを得ることの方が多いという。だから今は、俳優という仕事にたまらなく夢中になっている。
Profile
くぼた・まさたか 1988年神奈川県生まれ。2006年にドラマ主演で俳優デビュー。以後、ドラマや映画などで活躍。現在、フジテレビ系ドラマ「SUMMER NUDE」、テレビ東京系ドラマ「リミット」に出演中。13年10月にBunkamuraシアターコクーン(渋谷)で上演される「唐版 滝の白糸」に出演(11月に大阪公演もあり)。
巨匠たちと出会い、芝居の本当の面白さを知る
「幼い頃ですか? 食いしん坊な野球少年。とにかく元気があって、やんちゃな子どもでしたね」。あどけなさの残る笑顔が印象的な窪田さん。
映画やドラマを観(み)るのも大好きで、俳優の山田孝之さんや市原隼人さんに憧れていたという。雑誌で見つけた芸能事務所のオーディションを受け、この世界へ入ったのが高校1年の時。ダンスユニットでの活動などを経て2006年に俳優デビュー。以後、さまざまな作品に出演している。
「最初はただ単純に現場が楽しくて続けていた気がします。その『楽しい』が、現場に居られて『幸せ』に変わったのがドラマ『ケータイ捜査官7』でした。芝居の面白さをより深く感じることができたし、ずっと役者をやり続けたいと本気で思うようになったのもこの作品から。役者としての原点です」
同作は1話完結で、毎回監督が代わった。「1年間に11人の、そうそうたる監督たちとご一緒させていただき、毎日が本当に刺激的でした。中でも三池崇史監督との出会いは、僕に大きな変化を与えてくれました」
それまでは頭であれこれ考えて役作りをしていた。「でも三池監督の現場では、沸々とアドレナリンが湧いてきて、自分の体の内側から自然に役へ入っていくような、そんな感覚があったんです。不思議ですが、三池監督には役者をそういう気持ちにさせる力がある。監督のお陰でもっと芝居がやりたいという欲が出てきました」
三池監督はドラマ収録後、「10年後にまた会おう」と。しかし実際には半年後、映画「十三人の刺客」に呼んでくれた。
先輩俳優の一挙一動が勉強になる
それにしても窪田さんは、役によって変幻自在、違う表情を見せる。「どうも僕には、周りが見えなくなるほど役に集中するところがあるようで。実際、役作りのためなら何でもするつもりでいます」
例えば映画「ふがいない僕は空を見た」の時は、格差社会の底辺を生きる高校生という役に少しでも近づきたくて、かなり食事を制限し、体も心も極限に近い状態に自分を追い込み、現場に臨んだという。
「でもどの作品でも、先輩の役者さんを見ていると僕なんてまだまだと感じますね。役所広司さんなんか、現場の控室に居る姿を見ていたら、役所さん演じるキャラクターそのものが居る気配がしました。それほどのものを感じさせるなんてすごいと思いました。僕もあの境地に行けるまでもっと頑張らないと」
と同時に、そんな風に先輩たちの一挙一動から刺激を受け、さまざまなことを吸収できることが今は楽しくてたまらないという。
正直に話すことで気持ちも好転する
2013年10月、唐十郎さん作、蜷川幸雄さん演出の舞台「唐版 滝の白糸」に出演することが決まった。それは心底うれしかったけれど、台本を読んだ瞬間、ポカンとしたという。唐さんならではの独特の世界観、そしてセリフの意味が全く理解できなかったのだ。
このままではマズイと思い、辞書で難しい言葉を引いたり、インターネットで作品について調べたりした。だが、それでもセリフが頭に入ってこない。思い余ってポスター撮影の際、蜷川さんに「すみません、内容が分かりません。セリフの流れや言葉の意味を教えてください」と直談判した。
「蜷川さんに聞くのは相当勇気が要りました。でも役者として台本の意味が分からないままでは困ると思って」
すると蜷川さんは、「いやあ僕も分からない。唐さんのセリフは詩だと思って、頭で考えず体で反応しながらやればいいから」と。「気持ちがすっと楽になりましたね。分からないことはやっぱり聞いた方がいいんだなと。同時に、急に唐さんの世界に飛び込んでみたくなりました」
蜷川さんの演出も初めての経験だ。共演者も、自分よりははるかに経験の長い先輩たちばかり。「役者として大切な何かを拾うことができる場になりそうでワクワクしています。より多くのものを得られるよう、真っ白な状態でこの舞台に臨みたいです」
新しい何かを見つけ続けたい
役者という仕事の魅力は、多くの尊敬できるスタッフや俳優仲間と出会えること、そしてその出会いが次につながっていくことだという。
「それにこの仕事には、つらいことがあっても、それを圧倒的に上回る喜びややりがいがあります。何より、現場を重ねるごとに一つずつ好きなことを見つけられるのは楽しい。例えば、仕事を通して自分がアクションや殺陣が好きなことに気づきました。常に新たな何かを見つけ続けたいですね」
もちろん、決していいことばかりではない。監督の期待通りに演じられなければ落ち込むし、同世代の役者の素晴らしい演技を見て、悔しさを感じることもある。何より役者を続けられる保証もない。「結局、自分次第で今後が決まる仕事だと思っています」
現在24歳。今しかできないことをもっともっと見つけてチャレンジしていきたいと語る窪田さん。質問に対しては、じっくりと考えながら丁寧に答える。今回、「役者として」という言葉を何度も使っていた。役にも、人にも、そして自分がすべきことにも誠実に向き合っている。それが気持ち良く伝わってくる人だ。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
照明や美術など裏方の仕事に興味があります。現場を走り回っているスタッフを見るとカッコいいなと思う。憧れますね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
中学生の時、漫画「スラムダンク」にハマりました。小学校では6年間野球をやっていたのですが、「スラムダンク」を読み始めたら、気持ちは一気にバスケットボールへ。いろんな意味でものすごく影響を受けた作品ですね。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
歯を磨きます。1時間前に磨いたとしても、「今だ」って思ったらまたすぐ磨きます。何かすっきりするし、緊張もほぐれて落ち着くんです。
Infomation
シアターコクーン・オンレパートリー2013
「唐版 滝の白糸」
唐十郎が泉鏡花の小説「義血侠血」に想を得て、大胆に構成した戯曲「唐版 滝の白糸」。会話の随所に謎めいた味わいが散りばめられ、哀しくも痛切な抒情を感じさせる伝説的作品だ。それが今、蜷川幸雄の演出によって再びよみがえる。平幹二朗、元宝塚歌劇団の大空祐飛と共に、窪田正孝が難しい役どころをどう演じるか、期待される。
東京公演:2013年10月8日(火)~29日(火)Bunkamuraシアターコクーン
大阪公演:2013年11月12日(火)~16日(土)シアターBRAVA!
作:唐十郎 演出:蜷川幸雄
出演:大空祐飛、窪田正孝、平幹二朗ほか
問い合わせ先:Bunkamura 電話03-3477-3244
詳細:http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/