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第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

Vol.157俳優 山中崇
後で悔やみそうなら、とにかく挑戦してみる

Heroes File Vol.157
掲載日:2016/10/27

山中崇さんの写真1

NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(2013年)の文士・室井さん、と聞けばピンとくる人も多いはず。数々のドラマや映画、CMなどで活躍する山中崇さん。主役でなくても、なぜか不思議にその存在が心に焼きつく俳優である。取材当日、山中さんの手には芸術家・岡本太郎さんの著書『自分の中に毒を持て』があった。どうやら転機のカギはこの本にあるようだ。

Profile

やまなか・たかし 1978年東京都生まれ。代表作に映画『松ヶ根乱射事件』、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」など。2016年11月27日(日)から東京・世田谷パブリックシアターで上演されるシス・カンパニーの演劇公演「エノケソ一代記」(作・演出:三谷幸喜)に出演予定。

ドラマやCMでよく見かける、おなじみの顔だ。数年前のNHK朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」で、文士・室井役を演じて一躍注目を浴びた俳優の山中崇さん。演技に目覚めたのは、高校の文化祭の時だった。クラスで戦争をテーマにした舞台を作り上げたのがきっかけ。でも当時、そのまま自分の進路として俳優業を選んだわけではなかった。

「高校生の頃は、地球環境を良くするような仕事に就きたくて、塾の先生に相談したら官僚になるしかないと言われ挫折しました。大学ではコミュニケーション学部に入り、ゼミで広告に興味を持ったので、広告デザイナーになりたいと教授に話したら、そういう仕事の人は大体、美大卒だよと諭され、二つ目の挫折(笑)。今ならどちらの助言もそれだけじゃないと分かりますが、当時は世間知らずだったので、うのみにして二つともすぐに諦めました」

大学では演劇サークルに入った。外の世界も知りたいと、カルチャーセンターや他大学で開催される演劇のワークショップにも参加。「そこで知り合った役者の卵や演出家たちとの縁で、小劇場の舞台にちょくちょく出させてもらうようになっていきました」

気がつけば、年6本の舞台に出演するほどになっていた。そんな山中さんに、大学のサークルの先輩が「お前、そんなに出てどうすんの? やりゃあいいってもんじゃないよ」と苦言を呈した。「でも僕はその時、やりゃあいいもんなんじゃないのって反発したんです。舞台に出るという経験を重ねることが、その時の自分にとても必要なことに思えたから」

山中崇さんの写真2

否定的な意見を言われると何でも諦めていた自分が、なぜ演劇はやめないのか? こんなに夢中になるのか? 自問自答したそうだ。

「演じることで人について研究できる、そこが好きなんだと思いました。ある状況下で人の感情はどうなるのか。実在の人物なら歴史や当時の社会情勢を調べ、どうしてその人がそういう行動を取ったのかをあれこれ考えられる。それが単純に楽しいからなんだと」

友人に倣って就職活動もしたが、合同企業説明会に2回参加して終止符を打った。

「芸術家の岡本太郎さんの著書『自分の中に毒を持て』に、『やらない後悔よりもやってする後悔の方がいい』という意味の言葉があって、そのお陰で気持ちが固まりました。今、頑張って就活してどこかの会社に入っても、いつかきっと芝居の道に進まなかったことを後悔するはず。ならばとにかくやりたいことをやってみよう、そう決心したのです」

「続けられること」に自分の居場所がある

山中崇さんの写真3

どんな難役もこなし、それでいて色濃く印象を残す名バイプレーヤー。そんな山中さんは、学生時代から舞台を中心に活動していたが、大きな転機となったのは27歳の時、映画『松ヶ根乱射事件』に出演したことだという。

「それまでは純粋でぼくとつとした青年の役が多かったのですが、この作品では全く逆のクセのある男の役でした。それだけにどう演じていいのか分からず、夜中、監督の山下敦弘さんに相談し、一緒に役について考えてもらったんです。僕にとってはとても貴重な時間でした」

そして、さらにうれしかったのはこの作品以降、クセのある役のオファーが徐々に増えたことだ。「僕のことをよりお茶の間に広めてくれたという意味ではドラマ『ごちそうさん』が一番なのですが、『松ヶ根乱射事件』は、若い僕がようやく役者として前を向いて一歩を踏み出せた、そんな大切な作品なんです」

2016年、舞台で共演した堤真一さんからはこんな言葉を教わった。「セリフは自分のためにあるのではなく、相手のためにある」。それまでは、自分のセリフをどう言うかに気を取られていた。しかし、考えたら芝居も、相手とのコミュニケーションで成り立つもの。だからどう言うかよりどう伝えるか、どう聞くかが大切なのだと気づかされたという。

「それ以来、自分もまた作品の一部なんだという捉え方を自然にするようになりました。そう思うと、舞台に立つのも一人じゃない気がして楽になりましたね」

人の言葉を素直に受け入れ、自分のものにしていく。そんな山中さんが今取り組んでいるのが、舞台「エノケソ一代記」。三谷幸喜さんが作・演出し、主演が市川猿之助さんということですでに大きな話題を呼んでいる。

「子どもの頃から三谷さんの作品が好きで、ドラマ『古畑任三郎』などよく見ていただけに話を頂いた時は感激しました。何より一緒にやろうと言ってもらえたことがうれしいです」

小さな頃から飽き性で、何をやっても続かなかった。ところがこの仕事だけは続いている。「俳優は、自分がやりたいと言ってもオファーがないとできない仕事。だから続けさせてもらっていることがありがたい。役を頂くことでつながって僕の居場所ができた気がします」

ちなみに役者の次に続いているのがボクシング。4年目になるそうだ。「絶対自分がやらなさそうだと思うことをあえてやってみたら、意外に続いているんです。何かを始めると何かが変わるし、苦手なものへの挑戦は自分の可能性を開くきっかけになる。新たな発見ですね」

ヒーローへの3つの質問

山中崇さんの写真4

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

実は最近、カレーマイスターの資格を取るほどカレーにハマッています。カレーのお店で働いたり、もしくはお店を持ったりするのは絶対ムリだと思うのですが、カレーのプロデュースはやってみたいです。

人生に影響を与えた本は何ですか?

芸術家・岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て—あなたは“常識人間”を捨てられるか—』です。学生時代、これから自分がどうなっていくのか不安になった頃この本に出会い、勇気づけられ、役者の道を選びました。1冊目は何度も読み返すうちにボロボロになり、2冊目は人にあげたので、これは3冊目。今なお僕の人生のバイブルです。

あなたの「勝負●●」は何ですか?

青山にある岡本太郎記念館へ行くことです。何かの節目になると訪れます。エネルギッシュな作品の熱量に毎回圧倒され、何だか叱られているような気持ちになります。でも、お陰で自身を正すことができるし、初心に帰ることができる。もっと精進しなければと思わせてくれる場所です。

Infomation

三谷幸喜作・演出の演劇公演「エノケソ一代記」に出演

戦後、“エノケン”という愛称の喜劇王がいたのをご存じだろうか。しかも、彼のニセモノ“エノケソ”たちが全国各地に出没。そんなエノケソの一人となった男と、彼を支え続けた妻との哀しくもおかしい二人三脚の物語が生まれ、舞台上演される。作・演出は三谷幸喜さん。大好評を博しているNHK大河ドラマ「真田丸」の脚本執筆後、初の戯曲となるのがこの「エノケソ一代記」だ。エノケソ役を市川猿之助さん、その妻役に吉田羊さん、そして山中崇さんも出演! 山中さんは「いろんな役であちこちの場面に登場します。三谷さん自身も24年ぶりに役者として舞台に立つ。舞台公演というものをまだ見たことがないという人にもおすすめです」と語る。
日程:2016年11月27日(日)~12月26日(月)
会場:世田谷パブリックシアター
出演:市川猿之助、吉田羊、浅野和之、山中崇、水上京香、春海四方、三谷幸喜
問い合わせ先:シス・カンパニー(電話03-5423-5906)

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